「いらっしゃいませ〜。二名様ですね。ご予約はされていますでしょうか?」
「は、はい。えっと、中田です……」
「畏まりました。確認いたしますので少々お待ちください」
ガヤガヤと忙しない店内には、人がごった返している。
当然席は満タンで、店の外にも少し列ができていたけれど。私は寛司を引っ張りその横を素通りして、店内へと入った。
「確認の方とれました。中田様、席へご案内いたしますね」
氷夏亭。ここら辺一体ではとても有名なかき氷屋さんで、マンスタグラムでもハッシュタグをつけて検索するとかなりの数の投稿がヒットする。
数日前、薫を連れて下見に来た時に私はこの店の存在を知った。そしてここがかなりの有名店で、あらかじめ予約をしておかないと並ぶ羽目になってしまうことも。
だから下見に行った日に、今日この時間席を予約しておいたのである。今並んでいるのを見ると、その判断は正解だったらしい。
「有美、予約までしてくれてたんだ。嬉しいな」
「ま、まあね。並ぶらしいって聞いてたから。ほら、行くよ」
店員さんに案内されたのは、一番奥の二人席。私が奥に、寛司が手前側に座って、水と一緒に持ってきてもらったメニュー表を眺める。
「ここ、抹茶かき氷が有名なの。あずきと白玉も乗ってて、めちゃくちゃ美味しいんだって」
「っ! 有美、もしかして俺が抹茶好きだから……?」
「う、うん。寛司、好きかなって。だからどうしても連れてきたかったの……」
寛司は普段から抹茶アイスや抹茶ラテを好んで選ぶ大の抹茶好き。そんな彼が好きそうなかき氷店があると知って、私は恥ずかしくも薫と舞い上がってその場で予約を即決していた。
ムカつくけど、やっぱり好きだから。寛司の喜ぶ顔が見たい。美味しそうに頬張る姿を眺めていたい。本能的に、身体がそう求めたのだ。
「じゃあ、せっかくだし俺はそれを頼もうかな。有美はどうするの?」
「え、私? うーん……実は結構、さっきのバーベキューでお腹いっぱいだったりするんだよね」
「じゃあ二人で一個頼もっか。俺もはしゃいでかなり食べちゃったし。二人ならちょうどいい量になるんじゃない?」
「うん。寛司がいいなら、私も摘ませてもらおっかな」
それから、店員さんには「あずき抹茶かき氷」を一つだけ注文して、スプーンを二つ持ってきてもらうようお願いした。
かき氷の到着は店の盛況具合からは感じ取れないほど早く、抹茶シロップと甘々のあずき、蜜に漬けられてテカテカの白玉の乗ったとても美味しそうなものが届いた。
「ね、有美。写真撮ろうよ」
「かき氷の?」
「そんなわけないでしょ。かき氷と俺と、有美の。せっかくの思い出だしさ」
ガタッ、と音を立てて椅子から立ち上がった寛司は、私の向かいから移動して真横に。かき氷を机の真ん中に配置すると、自撮りする形でスマホを構えた。
────私の肩を、ぐっと腕で引き寄せて。
「ちょっ、何して!? 近い! 近いって!!」
「えぇ? でも離れてちゃ画角に収まらないからさ。ほら、もっとこっち寄って?」
「っっつう!! やめ、肩抱き寄せるなぁ……っ」
スマホのレンズに向かって余裕綽々な様子でピースする寛司の横顔を僅か十センチほどの距離から見つめながら、私も催促されて咄嗟に顔の前でピースする。
カシャッ。カメラの乾いたシャッター音が鳴ると、寛司は撮れた写真が映っているのであろうスマホの画面を見ながら、笑った。
「有美、顔真っ赤。ピースもふにゃふにゃでタコさんみたいになってるよ?」
「嘘っ!? じゃあ撮り直そ!? そんな写真消してさぁ!!」
「うーん、撮り直すの自体はいいけど。この写真は消したくないかなぁ。だって……照れてる有美って、死ぬほど可愛いし」
「可愛っ────!?」
ぷしゅぅ、と音を立てて私の頭から湯気が浮き出る。
身体、あっつい。もうやだ、死ぬほど恥ずかしい。
何でコイツ、いつもこう小っ恥ずかしい台詞を軽々と言えるの。こっちがどんな思いでその言葉を受け取っているかも知らないで……。
「意地悪、しないでよ。……バカ」
やっぱり、コイツ嫌い。すぐ私のこと揶揄うもん。