「えへへ、ゆーし詰めて詰めてっ」
「あ、あぁ……」
ゆったりとしたハンモックに、そっと寝転がる。
一人だと案外スペースがあったが、そんな俺の上から由那が覆いかぶさってきた。
流石に俺が下で由那が上、みたいな上下での寝転がり方だとしんどいので、横に詰める形で二人が並ぶ。むぎゅむぎゅと狭くなってしまったが、由那は心地よさそうだった。
(こ、ここここれ……マジでやばい!!)
およそ十五センチほど前には、由那の顔。身体はもう完全に密着してしまっていて、まるで抱き合っているかのような形でハンモックの中に収まっている。
咄嗟に反対側を向こうとしたが、もはや寝返りを打てるほどの余裕すらここには無い。
「ゆーし? ぎゅっ、てしてもいい?」
「は、はぁ!? 何言って────」
「ぎゅぅぅ〜」
「っ!!」
俺の背中に細い手が回されると共に、ぽすっ、と小さな頭が胸元に埋まる。
心臓がうるさい。身体が熱い。誰かに見られているかもしへないのに、この柔らかい身体を抱きしめ返したくて仕方がない。
反則だ。可愛い仕草も、甘い匂いも、心地いい身体も。その全てが俺の欲求をくすぐってくる。
「すぅ……はぁ。ゆーしの匂い、しゅきぃ。ずっと、嗅いでたくなるよぉ……」
「やめ、ろぉ」
「ね、ゆーしは私のこと……ぎゅっ、してくれないの? 頭なでなでも、まだしてもらってない……」
「し、しない!! 絶対しないからなそんなこと!!」
「ぶぅ……頑固者ぉ。ならっ!」
ぐりぐりぐり。由那の頭が押しつけられたと思ったその時、俺の背中に回された腕の力が更に強まる。しかもそれまでは伸ばされているだけだった脚が、巻き付いてきた。
激しい密着で、腹部に巨峰がむにむにと形を変えながらその感触を刻みつける。
本気モードだ。本気で、甘えに来ている。
「ゆーしがよしよししてくれない分、私が勝手に甘えるもん。抱き枕にして、いっぱいくんくんぎゅっぎゅするもん!!」
「お、おい! 流石にくっつきすぎじゃないか!? いくらなんでも、これは……」
「……だって、今日のゆーしはとことんいくじなしなんだもん。チョッキーゲームも最後までしてくれないし、手も繋いでくれない。頭も、なでなでしてくれないし……」
「そ、それは……」
「私、寂しがりやなんだよ? ゆーしが構ってくれないと、死んじゃう病気なんだもん……」
「っっう!」
胸元に埋まっていた顔が、不意にこちらを向く。
じぃ、と見つめる瞳は、こんなにも近くにいるのにとても寂しそうだった。
(そんな目で、見るなよ……)
最近の由那の行動は、もう明らかにただの幼なじみの関係性から来るものを超越しつつある。手を繋いだり甘えてきたりを多少求めてくる分には、まだいい。
だが。こうやって激しく密着したりチョッキーゲームでキスを求めるような行動をしたり。これらは、明らかにおかしな行動だ。
分かっている。これらな由那の言うところの「寂しがりや」から来るもので、特別な好意から来るようなものではないことくらい。
分かって、いるけど。それでも、最近はつい期待してしまう自分がいるのだ。コイツはもしかしたら俺のことが……と。
だから一線を越えないよう。期待しすぎないよう、と。やりすぎないことを徹底しているのに。
「あっ……ふにゃぁ……」
そっと、白く綺麗な髪の生えた頭に手を伸ばす。
手のひらを大きく広げて撫でてやると、由那は猫撫で声を出しながら頭を擦り付けた。
「ぎゅっ、も。してぇ?」
「……」
そっちがその気なら、もういい。
これは、由那の方から始めた行動だ。そっちがただの幼なじみとしての距離を超えてこようとするなら。その事を、望んでいるのなら。
俺も、したいことをしてやる。
「っあぅあぅあ!?」
「お前が、して欲しいって言ったんだからな。俺はもうどうなっても知らん」
ただでさえゼロ距離にいる由那の背中を、更に引き寄せて。俺は、思いっきり抱きしめた。