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第32話 それぞれの行き先

「んへぇ……マシュマロ美味しかったぁ……」


「江口さんにも喜んでもらえて嬉しいよ。さて、この後の自由時間どうする? 確か二時間くらいあったよね」


 マシュマロもちもちした後、俺達はある程度のゴミやお皿を片付けてリラックスしていた。


 そう。この校外学習、クラスメイトとの親睦を深めるという目的もありかなり自由度が高いのだ。ご飯を何時までに食べ終えて何時から自由時間、なんて縛りはなく、決まっているのはバーベキューすることそのものと最終の集合時間のみ。


(自由時間か……)


 この緑地公園は、ただだだっ広い芝生広場というわけでもない。


 少し歩けば花畑や自然を体験できるアトラクション(これに関してはあまりに生徒数が多すぎるため行くことを禁止されているが)、休憩所に食べ物屋、お土産屋等々。意外と色々な場所があり、案外歩き甲斐はある。


 まだまだ時間はあるし、ここでずっとぐうたらしているというのも勿体ない。せっかくだしどこかに行きたい感はあるが。


「あ、あの……寛司。わ、私、一緒に行きたいところ……ある」


「? 下見でいいところ見つけてくれたのかな?」


「……うん」


「分かった。じゃあ俺と有美はここで別行動かな」


「あ、じゃあ私も別行動だ。一人で色々と見て回りたいものがあってな。由那ちゃんは愛しの神沢君といたいだろうし。三分割だな」


 勇気を振り絞るようにして、耳を赤くしながら。中田さんの口にした一言によって、この後のペア割が決まった。


 中田さんと渡辺は二人で。在原さんは一人で。俺と由那は二人で行動だ。


 というか中田さん、もはや初対面の時とのキャラ変わりすぎでは。別人とも思えるほどに甘い雰囲気を醸し出してる。なんやかんやと憎まれ口を叩いているけれど、やっぱり付き合っているというだけあって渡辺のことが大好きなのだろうか。


 まあ、そこは俺の深入りするところでもないけど。


「じゃ、俺達はこれで。また後で」


「ぐふふ。神沢君、由那ちゃん。二人きりを楽しんで〜」


 そして、俺と由那は何のプランも無いまま。そこにポツンと取り残されたのだった。


「えへへ、ゆーしぃ。ぴとぉ〜」


「オイ、口元にタレ付いてるぞ」


「取ってぇ」


「ったく……」


 お手拭きで口元を拭いてやると、由那はご機嫌な様子で俺の腰元に顔を埋める。


 まるで甘えてくる猫のようにしてゴロゴロと喉を鳴らしているが、このまま寝る気なのだろうか。


「なあ由那。せっかくだし俺達もどこか見に行かないか?」


「およ? デート? デートぉ!?」


「違う。ぶらぶら歩くだけだ」


「ぶぅ。それは捉え方によってはデートなのにぃ……」


 たゆんっ、と胸元を揺らし、ゆっくりと起き上がって。一度あくびをしてから大きく背筋を伸ばすと、由那は「まあ、いいや」と小さく呟いてその場に立つ。


「ゆーしのお誘いだもん。本当はこのままお膝の上でうとうとしていたかったけど、それはいつでもできるもんね。よぉし、いっぱい見て回ろー!!」


 鼻息荒く。一度スイッチが入った由那は子供のようで、今すぐにでも駆け出しそうな勢いだ。


 まあとりあえずやる気になってくれたのならいい。デート、と言われて一瞬ドキッとしてしまったけれど、これはあれだ。デートではなくてただの散策。由那以外相手がいないからたまたま二人で、ってだけだ。


「ね、手……繋ご? いつもみたいに」


「駄目だ。登下校の時はまだいいけど、今日は山ほど他のクラスの奴とかとすれ違うんだぞ。恥ずかしいだろ」


「むぅ。……ケチ」


「ケチで結構」





 さて、まずはどこに行こうか。

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