俺と渡辺がそれぞれ肉、野菜を焼き、取り分ける。トンガを使って各々の取り皿に乗せてやってから、空いたスペースに生肉を追加して。そこまでしてようやく、座る時間を手に入れることができる。
が、当然その時間も。一人でのんびり肉を食べるというわけにはいかなかった。
「あ〜〜〜。んんん!! ゆーしの焼いてくれたお肉おいひぃ〜!!」
タレをつけた肉を、大きく口を開けた由那に食べさせる。
どうやらこのバーベキューでは完全に俺を手として使うつもりらしい。もきゅもきゅと咀嚼してから、キラキラと目を光らせて俺に引っ付いていた。
バスの中での一件などなんのその。もはや子供のように(いつものことだが)今を楽しんでいる。
「ったく、自分で食べろって。甘えすぎだぞ」
「じゃあゆーしにもあ〜んっ♪ ゆーしが私に食べさせて、私がゆーしに食べさせれば文句ないよねっ!」
「そ、そういう問題じゃ……」
「タレおあレモーン?」
「タ、タレ」
「おっけー! はい、あ〜ん!!」
「……ん」
目が食べさせたいと言ってうるさかったので、俺はしぶしぶ口を開けた。
何百人分もの用意された肉。当然高級ということもないだろう。だというのに、死ぬほど美味い。開放感のある外で食べるバーベキューってなんでこんなに美味いんだマジで。
「はい、有美。口開けて? あーん」
「ふ、ふざけんな! 誰がお前にあーんなんてされるか!! 自分で食うっつーの!!!」
「じゃあ私にあーんしてくれぇ。渡辺君、そこのお肉、私の育ててきた上物なんだぁ」
「お、じゃあ在原さんに。はい、口開け────」
「待て! 待て待て待て!? おま、彼女の私がいる目の前でそんなことっ!?」
「あれ? やっぱりあ〜んしてもらいたかった?」
「ぐふふ、有美ぃ。そうならそうと最初から言えよなぁ〜」
「ぶぎゅぐぬぅ……ぐぎぎぎぎ!!!」
あっちはあっちで中々に楽しくやっている。もはや中田さんのいじられキャラが定着しつつあるのは置いておいて、在原さん中々策士だ。渡辺も、こうなることを瞬時に理解して作戦に沿った行動を取ったのだろうか。なんて無駄な連携感。
とまあ、そんな感じで。あっという間にお肉も野菜も全て食べ終わってしまい、俺達は満腹で一息ついた。
意外に量はあり、足りなかったという者は一人もいない。由那もぽんぽんっ、とニットの上から自分のお腹を叩いて満腹をアピールしている。
だがそんな現状を打ち壊したのは、気の効くキザ男。俺達がそうしているうちにカバンの中から魅惑のブツを取り出していた。
「なあみんな、さっき寄ったパーキングエリアでマシュマロ買ったんだけど。焼いて食べないか?」
「マシュマロッ!? わあ、今絶対甘いもの美味しいよね!! 渡辺君凄いっ!!」
「え? 寛司、そんなものいつの間に?」
「ふっ。有美が嬉しそうに膝掛け抱きながらレジに並んでる間に別のレジで、さっ」
「よ、余計なこと言わんでいい!! もういい充分!!」
焼きマシュマロと来たか。確かにマシュマロならお腹に溜まらないから満腹な今でも食べられるし、何より濃いものを食べた直後に甘いものというチョイスがまたいい。
そして普段は絶対にやらないであろう焼きマシュマロ。でろんでろんになった糖分の塊は、今の俺たちの喉に普段味わえない魅惑の甘みを届けてくれることだろう。
「よっし、じゃあ割り箸に刺してじっくりコトコト炙るかぁ。渡辺、ナイスチョイスだ」
「ちゃんと割り箸も人数分用意してあるからね。ぜひぜひ堪能してくれっ」
なんというか、こう……本当にこの班で来れてよかった。まさかクラスの男子ほぼ全員から殺意を向けられ続けている俺がこんななら幸せな校外学習を送ることができるなんて。夢みたいだ。