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第30話 バーベキュー

「着いたぞぞぞ〜〜〜」


 在原さんが大きくのびをしながら叫ぶ。


「むぅ。もっとゆーしとバスの中いたかった……」


「半分寝てたろお前」


 ふあぁ、とあくびをし、目を擦ってから俺にもたれかかる由那となぜか顔が赤い中田さん、楽しそうな渡辺、それを生暖かい目で眺めながらスマホのシャッターを構える在原さん。五人で向かうのは、バーベキューをするための機材が用意された大広場。


 一クラス平均四十人が八クラスもある一年生全員を連れてきているだけあり広場の規模は流石で、三百人以上にも登る生徒が全員五人ずつの班でちゃんと場所に収まっていた。勿論ここと同じ大きさの広場があと二つあり、そこも含めることで、だが。それでも一広場百人は相当だろう。


 テーブルの上に用意されているのはお肉、玉ねぎ、ピーマン、キャベツというデフォルト的な食材に加え、タレ、レモンとトングや着火剤などの必要な道具。チャッカマンもあるし、これなら俺たちだけで充分始められそうだ。


「んじゃあ早速だけどやっちゃおうじぇえ。食べる係は任セロリ〜!」


「いや薫、アンタも仕事しなさいよ」


「あはは、じゃあ俺と神沢君で焼こうか。こういうのは男が率先してやらないとね」


「やった〜! じゃあ私もゆーしがお肉焼いてくれるの待ってよ〜!!」


「わ、私は自分で焼けるわよ?」


「有美には俺が丁寧に育てたのをあげるから。大人しく待ってて」


「過保護すぎない!?」


 と、そんなこんなで。周りの班から肉を焼き始めるいい音がし出すのに合わせて、俺たちも準備に取り掛かる。


 まずは網の下に入っている炭にチャッカマンで火をつけ、そこに着火剤をぶち込む。ある程度火が強くなってきたらようやくトングで肉を掴み、投入だ。


 じゅぅぅぅう。網の上に置かれた赤肉と野菜が、心地のいい音を立てる。


 肉が焼けるまでにはしばらく時間があるため、そのうちに紙コップとお茶、タレの用意。あと各々が座る場所を決めて、着席した。


 片側には、俺と由那。向かい側には中田さんを挟み、渡辺と在原さんが。どうやら俺は本当に由那の肉を焼いてやる係になってしまったらしい。


「むむぅ。私、二つのカップリングに挟まれてるの結構エグいよなぁ。あっち見てもイチャイチャ、こっち見てもイチャイチャ。火傷しちまうぜぇ」


「はぁ!? あ、あっちはともかく私は違うでしょ!? 私とコイツのどこがイチャイチャしてんのよ!!」


「ん? こーいうとこ」


 スッ。在原さんがスマホを取り出し、一枚の画像を見せつける。


 そこにはバスの中で一つの有線イヤホンを使いながら、二人で一つのスマホを使い何やら動画を見ている渡辺と中田さんが映されていた。


「ちょぉっ────!?」


「片方ずつイヤホンつけて一緒に動画とかラブコメすぎんだろ。そして私は知っているぞ。この膝掛けが渡辺君チョイスでパーキングエリアにて買ったものであることも」


「な、なんで!? 薫、私のことずっと盗撮してたわけ!?」


「ふっ、親友の恋路観察は義務だからなぁ。ほれ、あと他にも不意な瞬間に頭ぽんぽんされて顔真っ赤にしてる写真も────」


「消せぇ! 今すぐ消せぇぇぇ!!!」


 仲良いなぁ。そう思いながら、肉の焼き加減を確認する。赤面しながらあたふたする中田さんをしばらく楽しんでいたところで、ようやくお肉もいい感じだ。初めに投入した五枚を全員一枚ずつ配分し終えると、全員でお茶の入ったコップを掲げる。


「乾杯!」

「乾杯だぁ〜!」

「かんぱ〜い!!」

「乾杯っ」

「くそ、薫てめぇ……覚えてろよ……」




 一人だけやるせない表情をしていたが。楽しい楽しいバーベキューが、始まった。

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