「……で? なんでいるの」
「彼氏だから?」
「あのねぇ。彼氏だったら何でもしていいってわけじゃないんだけど……」
トイレ休憩で立ち寄ったパーキングエリア。そこで私はトイレのためにバスから降り、今手を洗い終えて出てきたところ。
すると出てすぐのところにあるベンチで、寛司が私を待ち伏せしていた。二つの紙コップを持って。
「恥ずかしいからやめてくれない? トイレ出待ちとか普通に焦るわ」
「あはは、ごめんごめん。ね、それよりもこれ見てよ。熱々のお茶が美味しそうだったから有美の分も貰ってきたんだ」
「……私、猫舌なの知ってるでしょ」
「だからこうして外気に触れる場所で覚ましてたんじゃないか。きっともう、有美でも飲めるくらいのいい感じな温度になってるんじゃないかな」
「あっ、そ」
寛司に隣に来いと手で軽くジェスチャーされ、紙コップを受け取ってからベンチに腰掛ける。
お茶の入ったそれは、ほんのりと温かかった。ちょび、と恐る恐る啜ってみると生意気にもちょうどいい熱さ加減で、極度の猫舌な私でもほどよく喉が温まっていく。
(……なんか、ムカつく)
こういうところだ。私がコイツをいけ好かない訳は。サラッと気を遣って私に優しく、まるで姫に仕える執事かのように従順。それでいて私のことを熟知している感が、こう……イラッとする。
「有美、バスの中でもちょっと寒そうにしてたよね。さっきお茶貰いに行く時可愛い膝掛け見つけたんだ。それ飲み終わったら見に行こう?」
「か、可愛いって。アンタねぇ……私はこう、可愛すぎるやつは苦手なんだってば。無字でいーよ、無字で」
「嘘つきだなぁ。本当は誰よりも可愛いもの好きで、外見気にしてそう言ってるだけのくせに────」
「う、うううっさい! もぉ、アンタといると本当に調子狂う!!」
ぐびぐびと一気にお茶を飲み干し、居ても立っても居られなくなった私はそれを思いっきり近くのゴミ箱に投げ捨てる。
やっぱりムカつくのだ。コイツのこういう態度にも、姿勢にも……心の底から嫌いになれない、私にも。
(なんで……さっきからドキドキしてんのよ)
可愛いものは、好きだ。家の部屋にはぬいぐるみがあるし、好きな色を聞かれたら心の中ではピンクと答える。
でも、そんなの私の柄じゃない。ピアス開けて、髪は黒だけどスカートも短くして。所謂「ギャル」と呼ばれる派手な子達とつるんで。そんな私が可愛いもの好きとか、はっきり言って似合わない。自分でその自覚がある。
なのにコイツは、さも当たり前かのように。私の好きなものを全部肯定してくる。終いには「可愛い有美には可愛いものが似合う」とか、キザな台詞も吐かれたことがあるくらいだ。
ウザい。しつこいところも気取ってるところも無駄に優しいところも全部、ウザいのに。
「有美? どこ行くの?」
「……膝掛け、見に行くんでしょ。仕方ないから見るだけ見てあげる。いい? 見るだけだからね!? 買うって決めた訳じゃないからね!?」
「はいはい。気になるんなら素直に最初からそう言えばいいのに。あと安心して。もし欲しくなったらちゃんと俺が買ってあげるから」
「うっさい死ね!!」
結局、寛司が私に勧めてきたのはウサギ柄のピンク膝掛けだった。
的確に私の好みを突いてくるのが最高にムカついたけど、私はそのウサちゃんを見捨てることができなくて。すぐに財布を出してきた寛司を追い払って、ちゃんと自分のお金でそれを購入した。
その後バスに乗ってる時それを使ったけど……めちゃくちゃ、恥ずかしかった。家用にしよう。