チョッキーゲーム。それは言わずと知れたパーティーゲームである。
ルールは簡単。一本のチョッキーを用意し、その両端を二人の男女がそれぞれ咥える。そして食べ進めていき、唇同士が触れてしまう前に先に離してしまった方が負けというもの。
「は、はぁっ!? チョッキーゲーム!? やるわけないだろ!?」
「うにゅぅ? ゆーしさん、どんなゲームでもいいって言ったも〜ん。これなら私勝てる自信あるもんね!」
「だ、だからってお前……こんな周りが人まみれのところで……」
「……私は、ゆーしとならいいよ?」
「っっ!?」
にへぇ、と笑う由那の俺の腕に絡む強さが、少し強くなる。
ぴっとりと引っ付きだからイタズラ混じりに俺の目をじっと見てくるその瞳は、透き通っていた。
コイツ正気か。ほぼ確実に誰かに見られるんだぞ。チョッキーゲームなんて、そうそう簡単に人に見られていいもんじゃない。お酒を飲む大人とかがノリでやる分にはいいかもしれないが、こんなところで。しかもシラフでやるチョッキーゲームなんて、もはや注目の的以外の何者でもない。
やっぱりできるがない。そんなこと、できるわけが……
「はい、お前ら静かにして聞いてくれ〜。あともう少ししたらパーキングエリアで五分の休憩をとる。トイレしたい奴はそこで済ませるようにな〜」
「えへへ。らしいよ? その時間なら人……ほとんどいないんじゃない?」
「お前、マジでやるつもりなのか? チョッキーゲームだぞ? その……キ、キスするかしないか、みたいな。そんなゲームなんだぞ?」
「だ〜か〜ら。私はゆーしとなら、できるもん。それくらいのこと……」
それくらいのこと!?
かあぁ、と身体が熱くなった。コイツ、チョッキーゲームのことを言ってるのか? それとも……キスすること、そのもののことを言ってるのか?
分からない。分からない、が。どちらにせよヤバい。
「ね〜ね、しよ? しようよぉ……私、ゆーしとチョッキーゲームしたいよぉ」
「ぐぎ、ぐぎぎぎ……」
ああ、やめろ。その目で見るな。上目遣いには弱いんだ。そのきょとんとした瞳で見つめられると、断れなくなる。
クソ。ゲームは何でもいいなんて、言わなきゃよかった。まさかこんなゲームを提案してくるなんて予想してなかったし。あと……
(コイツが何考えてるのか分からないから、余計に怖いんだ……)
ドクン、ドクンと心臓が高鳴る。
断ろう、断ろうとしても、言葉が出ない。結局そうしている間に数分が経ち、バスはパーキングエリアに停車した。
五分間のトイレ休憩。この先まだ一時間半ほどの道のりがあることを知っているクラスメイト達はみんな、席を立ちバスから降りていく。
そしてものの一分ほどで。車内は静寂に包まれて、少なくとも俺の席からは誰も残っていないように見える状況が完成した。
「誰も、いなくなったね。じゃあ早速……シよ?」
「お、オイ。やっぱりやめた方がいいって。ほら、外からも見えるかもしれないぞ!?」
「むぅ? なら……えいっ」
「はぁっ!?」
ぱさっ。突然由那のリュックから引っ張り出された大きな布が、俺たち二人を包み込む。
それは寒がりな彼女が持ってきていた膝掛け。ピンク色の可愛い図柄のそれが俺たちから光を奪うと、薄暗く狭い空間に二人、取り残される。
「……ん」
由那は、俺の左手にそっと指を絡めると。全部の指で手のひらをぎゅっと握り、恋人繋ぎを作ってから。その艶やかな唇に、そっとチョッキーを一本。咥えた。