「よーし、お前ら順番に乗っていけ〜」
あっという間に、一週間は経過した。
校外学習当日。俺たちはいつも通り一限が始まる時間に学校のグラウンドへと集まり、各クラス毎に用意されたバスへと乗車していく。
「えへへ、ゆーしぃ。こんな近くで二時間も密着できるなんて校外学習最高だよぉ」
「暑い暑い。くっつきすぎだぞ……」
目的地はとある緑地公園。新しい学校、新しいクラスになってからまだ九日。クラスメイトとの親睦を深めることを目的としたこの春期校外学習では、五人毎に分かれた班でのバーベキューが行われ、その後は各自できた友達なんかと楽しむ自由時間が二時間ほど。目的地への距離がバスで二時間と中々に遠い位置にあることもあり、タイムスケジュールは案外カツカツである。
「お、バス動き出したな。こっから二時間、中々暇だなぁ」
「そぉ? 私はゆーしとの二時間ならあっという間だと思うにゃあ。でへへぇ〜」
窓の外のまだ知っている街並みから抜け出していない景色を眺めていると、由那は自分のことも見ろとばかりに俺の腕に絡みついて身を寄せてくる。
バス座席のシートは隣の席の奴との距離が本当に近い。ただでさえ肩と肩が当たるか当たらないかギリギリくらいの距離感だと言うのに、コイツは平気で半身をこちらに預けてくるから窓際に追いやられた俺はぎゅうぎゅうだ。
(けど、悪い気はしないんだよなぁ……)
ぽよん、ぽよよんっ。
俺の腕を挟む二つの双丘が、形を変えながら押し付けられる。相変わらずコイツは無自覚というか何というか。
「ね、ねっ。高速道路入ったのに外ばっかり見ててもつまんないよ? 私の方見てよぉ……」
「ツンツンすな。相変わらず寂しがりやか」
「寂しがりやの甘えんぼで何が悪いのさぁ。ゆーしが構ってくれたら解決する話だもん」
「はいはい、分かりましたよ。んで何がしたいんだよ?」
「ふふんっ、よくぞ聞いてくれました!」
むふんっと鼻息荒く、由那は足元に置いていたリュックの中をゴソゴソと漁る。
てっきり何かゲーム系の類とかを取り出してくるのだろうと思っていたのだが。そこから出てきたのは、長財布より少し大きいくらいの箱に入ったお菓子。
チョコ系の大定番、チョッキーだ。
「まずは腹ごしらえなのだぁ。ゆーし、一緒にお菓子食べよ?」
「チョッキーねぇ。懐かしいな。昔はよく食べてた気がする」
「私は今でも大好物だよ〜。それに、ほら。チョッキーならではの出来ることもあるし……ね」
「チョッキー、ならではの?」
変なことを言い出した由那に俺が首を傾げていると、その間に外箱から二つの包装紙に入ったチョッキーが開封される。
細いクッキー状の棒にチョコをコーティングした、昔から変わらない形状。そんなチョッキーがおよそ二十本は入っているであろうかという片方の袋を俺に渡してくると、由那は言った。
「このチョッキー二十本を賭けて勝負だよ! 私とゆーしで最初の持ちチョッキーは二十から初めて、これをコインに見立てながらベットしてバトル!!」
え、一緒に食べようって話だったんじゃ……。今から俺達、これを奪い合うのか?