「はい、班は決まったな。んじゃこれからバスの座席くじ引きするから。適当に前来てクジ一枚ずつ引いて行ってくれ〜」
各班の
ガヤガヤと騒がしくなる教室内で、次々と誰かがくじを引いてはそこに書かれていた番号を先生に伝え、黒板の座席表が埋まっていく。
「俺達も引きに行くか?」
「だね〜。ほら、由那ちゃんも行くよ〜」
五人で一列になり、初めは渡辺。次に俺が引き、中田さん、在原さんと来て由那。
渡辺はどうやら前から二番目、真ん中から見て左右に二列ずつあるうちの、一番左の席を引いたようだった。俺はというと後ろから二番目、一番右の窓側を引いた。ちなみにまだどちらも隣は埋まっていない。
「……うわ」
「あ〜っ! 有美が渡辺君の隣引いたぁ。ったく、結局はラブラブなんじゃねえかよぉ。しれっと愛する彼氏の隣引くんだもんなぁ?」
「う、うるさい! くそ、なんでこんなことに……」
かあぁ、と顔を赤面させながら言う中田さんは、口では嫌そうにしていても顔が嫌だと言っていなかった。にま、と全員から顔を晒した瞬間、一瞬だけ頬を緩ませるのを俺は見逃さない。
なんというか、中田さんからはツンデレとかとは違う、別種の不器用さを感じた。多分今、心の内では相当喜んでいるだろうに。必死に表情筋をピクピクさせながら席へと戻っていくその様は乙女の塊だ。
「私はぁ……ふぅん、こう来たか。ほれ次、由那ちゃん引きな」
「ゆーしの隣ゆーしの隣ゆーしの隣!! 神様仏様ゆーし様お願いします!!! てやぁ!!!」
オイその面子と俺を同等に扱うな。いくらなんでも気まずくなるだろ。
と、脳内ツッコミを入れながら。そっと手元の紙を開く由那は、明らかに落胆した様子で落ち込んでいた。どうやら俺の隣、という淡い願望は打ち砕かれたらしい。
あまりに力が抜けたのか、はらりと手元から紙が落ちる。それを在原さんが拾って、そっと握らせた。
「由那ちゃん、ダメだろぉ。せっかく良い席はいたんだから、落としちゃ」
「う゛ぅ、どこが良い席なのぉ……ゆーしの隣以外、私にはどこも一緒だよぉ……」
「だ〜か〜ら。引けてるじゃないか。愛しの神沢君の隣」
「ふえ?」
ずぅん。目が絶望に染まっていた由那の手に握られている紙の番号が、その目に入る。
番号は「18」。九番を引いている俺の、隣の席である。
「あれ……あれっ!? 嘘、なんで!? 私がさっき見た時、十四って……」
「十四? そりゃあ私の番号だ。ちゃんと自分の番号見なさいバカちんがぁ」
ああ、そういうことか。多分さっき、由那が紙を落とした時にだな。在原さん、マイペースなふわふわした人だなぁって印象しかなかったけど、めちゃくちゃ優しい人だ。
「えへへ、やったぁ! ゆーしの隣っ♪ ゆーしの隣ぃっ♪」
ぴょんぴょんと飛び跳ねながら俺の胸元に飛び込んでくる由那。その頭をそっと撫でてやると、視線の端で。在原さんが親指を一本突き立てて二チャリとした生暖かい目でこちらを見つめていた。
「ふふっ、有美。隣になれて嬉しいよ。やっぱり愛の力は偉大だね!」
「は、はぁっ!? アンタが一方的な愛で無理やり私の番号を引き寄せただけでしょ!? べ、別にあたしは……愛、なんて……」
「素直じゃないなぁ。本当は今すぐ飛び跳ねたいくらい嬉しいくせに」
「……うるしゃい」
改めて、この五人で校外学習か。
中々楽しくなりそうだ。