「えっ……と?」
「ほら、由那ちゃぁん。起きろ起きろぉ」
「んにゅぅ……有美ちゃぁん?」
ぺちぺちと由那の頬を叩く彼女は、ひょいっ、とその細い身体を持ち上げると自分の膝の上に座らせ、由那の席に腰掛ける。
「全く、君も大変だな神沢勇士。モテると言うのは罪らしい」
「ふぎゅぅ。薫ちゃ、ほっぺたむにむにやめへぇ」
「ならさっさと起きるんだな。ほれ、愛しの幼なじみ君がピンチなのを助けに来てやったんだぞい」
有美、薫。そう呼ばれたこの二人は、何故かやけに由那と距離が近い。由那自身も友好的だし、もしかしてあれか。
この二人が、体育の時にできたっていう友達か。
「私が中田有美。んで、こっちが在原薫。ね、神沢君。よかったら私達と同じ班になろーよ。男子達と組むと色々大変なんでしょ?」
「い、いいのか? ぶっちゃけ凄く助かるけど」
「いいのいいのー。私達は元々由那ちゃんと組みたいなぁって思ってたし。由那ちゃんと組むなら、必然的に神沢君もセットでしょ?」
これはありがたい。中田さんと在原さん。この二人のおかげで、俺は男子の魔の手から逃れることができる。よくやった由那! ナイス友情! ナイスフレンズ!!
「んで、あと足りないのは一人だよね。神沢君も女子四人とじゃ何かと肩身が狭いだろうし。ここには一人、最適な男子を呼ぼっか」
「呼んだかい? 有美」
「おっほー、流石私の彼氏。感知が早くて助かるぅ」
ずい、と背後から突然出てきた男子。
茶色の髪をしたそいつには、見覚えがあった。
「お前、ドッヂボールで俺と一緒に的にされてた!?」
「イエース。渡辺寛司だ。仲良くしよう、神沢君」
コイツあれだ。ドッヂボールの時、一瞬俺の仲間っぽく出てきたはいいものの一瞬で粛清された奴だ。渡辺って名前だったんだな。
だが何はともあれ、コイツなら他の男子と違い俺に危害を及ぼしてくる危険性も無いだろう。中田さん、最高の人選だ。
「ふふっ、有美が俺を呼んでくれるのは素直に嬉しいな。ちょうど、こっちからも誘いたいと思ってたところだよ」
「まあ彼氏だしなー。人数合わせくらいには使ってあげないと可哀想かなーって」
「またまた照れ隠しなんかして。俺は知ってるんだぞ? 有美、俺と行くの楽しみすぎてそこの有原さんと二人で下見に行ってたんだって?」
「っ!? ちょ、何で知ってんのよ!? まさか……薫、アンタっ!!」
「ふふふ、有美はもう少し素直になるべきなのだ。本当は渡辺君のこと、好きで好きでたまらないくせ────いで、いでででででっ」
「ぜんっ、ぜん! 寛司が付き合ってくれって言ってきたから、しょーがなく!? 私も一回くらい彼氏作ってもいいかなーって思っただけだし!? た、確かに下見には行ったけど、あれは美味しそうな食べ物を探しに行っただけだから! 別に誰と食べたいとかは全く! これっぽっちも思ってないからぁ!!」
猛烈な早口で喋りながら頬を赤く染める中田さんは、どうやら照れ隠しが下手くそらしい。一人でテンパって綺麗に自滅していく様を、渡辺は満足そうに頷きながら見つめていた。
まあ、何はともあれ。ひとまずこうして、班決めは無事に終了したのだった。俺に、由那。謎のキザ男渡辺に、そんな彼の彼女であり多分めちゃくちゃ溺愛してる中田さん、雰囲気がどこかミステリアスでぽよぽよとしている在原さん。
この五人で、校外学習中は行動することとなる。初めはどうなることかと思ったけれど。見返してみれば案外面白そうな面子だ。
「有美ちゃん、彼氏さんいたんだぁ。えへへ、ラブラブだね〜」
「は、はぁっ!? どこが! こんな奴別に、なんとも……」
「有美? どうしたの。顔真っ赤だよ?」
「ひっ!? や、やめ……こっち、見るなぁ……」
というか渡辺オイ。付き合ってない由那に甘えられてるだけで俺はクラスメイトからここまでされてるってのに。お前ちょっとイチャイチャし過ぎじゃないか? どうなっても知らないぞ……。