「眠い……眠、すぎる……」
意識も飛び飛びに、俺は六限を終えて薄ら目のまま黒板を見つめる。
今は、全ての授業が終わり帰りのホームルームをするために担任が教室に戻ってくるのを待つ時間。なんとか授業中は寝ずに耐えたけれど、もうそろそろ限界だ。流石に一睡もせずはキツすぎた。
(それもこれも、全部コイツのせいだ)
「すぴぃ……」
横を見ると、なぜか俺と同じように寝不足感のあった由那はもうガッツリ爆睡していた。人の気も知らないでいい気なものだ。
と、そんなことを考えながらウトウトしていると。担任の湯原先生が教壇に立ち、若干ガヤガヤと騒がしくなっている教室内を沈める。
「え〜、突然だが。一週間後に行われる校外学習の班分け、バス座席を今から決めようと思う。バス座席はくじ引きだが、班分けは各自で決めてくれ。私は早く帰りたいから十分で。じゃ、はじめ〜」
「……え?」
校外、学習?
ちょっと待て。俺はまずそんなものが一週間後に迫っていることすら知らなかったんだが。というかいきなりあと十分で班決めて。そんな無茶な。
「あ、班の構成は五人な。男女比は何でもいいぞ。適当に仲良いやつと組んでくれ。仲良いのがいなくても無理やり組んでくれ。最悪組めそうになかったらくじ引きにしてやるから」
横暴だ。この人、初見は真面目そうな人って感じだったのに、無表情で自分の面倒を全部回避するために行動してやがる。まあ仲悪くても組めと言わないだけまだいいのかもしれないが。
というか、それよりも五人て。俺はそんなに仲良い奴いないんだが。くじ引きの方がありがたかったんだが。
「むにゃ? ゆーしぃ……もう放課後ぉ?」
「由那、起きたのか。今なんか、面倒なことになってるぞ……」
「しょうなのぉ?」
「校外学習の班決めだとよ。五人組作れって。お前は誰と────」
「じゃあゆーしと組むぅ。ゆーしと……えへへぇ」
「ま、まあそうなる……よな」
べ、別に嬉しくなんてないが。由那は俺が説明した瞬間、寝ぼけてぽっかぽかに熱くなった身体で抱きついてきて、俺と同じ班になるという意志を示した。
ぶっちゃけ由那とは同じになるんだろうなぁと思ってし、なんならもう誘おうと思ってたから別にいい。それよりも問題はあと三人だ。
────俺は、男子を選べない。
「なぁオイ神沢くぅ〜ん。俺達と一緒の班になろうぜぇ? ほら、一人だけ足りないんだよぉ〜」
「いやいや、うちに来てくれるよなぁ? 楽しい楽しい校外学習をお約束しますよぉ。ひひっ、ひひひっ」
ほら、こんなんだもん。もし由那から離れてこいつらの班に入りでもしてみろ。俺間違いなくこの街には帰って来れなくなるぞ。
「ゆーしぃ、行っちゃやーらぁ。ゆーしは、わらひと遊ぶのぉ……」
「はいはい、どこにも行かないって。悪いなお前ら、俺はもう一人先約が入ってるんだよ」
「なぁら二人がかりでもいいぜぇ!? 最悪お前を引き込めさえすれば、始末はどうとでも……」
「お前らマジで俺への殺意おかしいだろ!? 俺が何したってんだオイ!!」
「今俺達の逆鱗に触れる行為を現在進行中だくらぁ! お? なんだコラやんのかオイ。ナメた真似しやがってよぉぉぉぉ!?」
ピキッ、ピキッ、とクラスメイトの男子達の額のシワが増大していく。
その視線は、俺の膝の上でウトウトと気持ちよさそうにうたた寝しながら腰に手を回して抱きついているこの猫女に向いていた。
どうやら由那とのこの行為が、より奴らの怒りに触れたらしい。違うのに……俺からやってるんじゃないのに……。
「ゆーしぃ。すりすりぃ……」
「すぅりすりぃ!? おま、オイッ! なぁに公衆の面前で美少女にすりすりしてもらってんだぁ!? やっぱりテメェは生かしちゃおけねぇ……テメェを殺すのはこのクラスの義務だァァァァァ!!」
このままでは本当に手を出されかねないほどに燃え上がり始めた男子達の嫉妬の炎。もう俺には沈静化することもできず、かと言って班員の残り三人もまだ決めることができていない。最悪の場合、この暴徒達のうちから精鋭三人が送り込まれてきそうだ。
(どうしよう、マジで。あと三人、誰かいないのか……)
こうなったら由那には悪いが、起きてもらってなんとか女子三人を引き連れてきてもらうしか。そう思っていた、その時。
「全く、由那ちゃんは仕方ない子だなぁ」
「ふっふっふ。救世主、参上っ」
正義のヒーローとでも言わんばかりに。二人の女子が、俺の目の前に現れたのである。