「な、何だったんだ。アイツ」
通話が途切れ暗くなったスマホの画面を見ながら、呟く。
寂しくて電話した、なんて言ってきたと思えば急に自分のことをどう思っているのかとか聞いてきて。俺が答えると、慌てた様子で切られてしまった。
いや、多分原因は俺か。だって、俺……
「可愛くなったな、とか。何言ってんだ!?」
不可抗力だった。普通に「幼なじみ」だと答えればよかったのに。由那のポジションは俺の頭の中ではただの幼なじみというよりも、可愛い女の子という位置付けが定着してしまったのだ。
一緒にいると何度もドキドキさせられた。ふとした横顔や過剰なボディタッチ、昔との圧倒的なギャップ。彼女の一挙手一投足に感情を揺れ動かされ続けているのは、もはや疑いの余地もない。
「いくらなんでもチョロすぎだろ、俺……」
ああ、ダメだ。多分もう────
俺の頭は、由那を一人の異性として見始めている。
だって仕方ないだろ。可愛いんだよ。笑ってるところも拗ねてるところも照れてるところも、全部。本当に可愛くて、ウザいと思えないんだよ。
「……だあぁぁぁぁ!! クッソ!!!」
ばふっ、と俺の投げたスマホがベットの上でバウンドする。
気づけば頭の中がアイツのことでいっぱいだ。
ただの幼なじみだぞ。相手はあの由那だぞ。
何度言い聞かせても、浮かんでくるのは彼女の可愛い仕草や表情ばかり。
卑怯だ。美少女というのは卑怯すぎる。確か昔から顔は整っていた気はするけれど。あれが高校生になったらあんなに化けるなんて思わなかった。というか、そもそもこうも簡単に再開できるとすら思ってはいなかったのに。
「きっと……あれだ。昔とのギャップにまだ意識が追いついてないだけだ。ドキドキさせられるのは、ただギャップが強すぎるからだ! 決して由那そのものの魅力にそうさせられているわけじゃ────」
『ね、ゆーしは……さ。私のこと、どう思ってるの?』
「なん、とも! 思って! ないッッッッ!!!」
大体なんだ、寂しくて電話してきたって! あっちも俺を勘違いさせる挙動が多すぎるんだよ! 夜にいきなりそんな電話かけてきて、しかも自分に対する気持ちも聞いてきて。思春期の男の子が、意識しないわけないだろうがぁぁ!!
やるせない怒りのような何かを枕にぶつけつつ、まるで熱でもあるかのようにめちゃめちゃに火照っている身体を必死に押さえつける。
が、どれだけ服を掴んで握り拳に力を入れても。放出される熱も、バクンバクンと激しく稼働し続ける心臓の音も。全く止まってくれない。
「絶対、あの由那が俺を……なんて、あるわけがないんだ。それを、俺は。勝手に勘違いしても良いことなんて一つもない。だから、意識なんて絶対するなって……っ!!」
きっと由那は、五年越しの再会でおかしくなっているだけだ。アイツの中で俺はきっと、昔からずっと一緒にいる幼なじみで止まっている。だから今のような距離感で何事もなく過ごすことが出来ている。
過剰な期待は、後々悲しくなるだけだ。だから、俺もただの幼なじみとしてアイツを扱ってやれば────
「扱って……やれないから、困ってるんだよ……」
結局この自問自答と人にはお見せできない悶えは朝まで続いて。俺は、一睡もすることができなかった。