『そ、そっか。寂しくて、か』
「ごめんね? 迷惑、だよね」
『そんなことないぞ。俺もその……由那の声を聞くのは、嫌じゃないし』
「っあ!?」
ぽっ、と頬が熱くなる。手を当ててみると一瞬で熱がこもっていて、スマホに薄っすらと反射した自分の顔が真っ赤になっていた。
恥ずかしい。でも、嬉しい。ゆーしは私のことを迷惑だなんて思ってなかった。しかも声を聞くのが嫌じゃないって……実質、聞けて嬉しいってことだよね。えへへ。
トクン、トクンと心臓の鼓動も速くなってきた。私、この二日間何回もゆーしとひっついて色んな話をしたのに、こんな電話越しの声ですらドキドキしちゃうんだ。
「ゆーし、さ。明日の授業の宿題やった? ほら、数学の」
『え? あー、まだやってないな。すっかり忘れてたわ』
「もぉ。ゆーしの忘れっぽいところ、昔から変わってないね」
『おいおい、子供扱いするなよ。俺だってお前と同じでもう高校生だぞ?』
「えへへ、知ってる。かっこよく成長したもんね……」
ゆーしと、何気ない会話を続ける。
続けるたびに、心の中の空白がスッと消えていった。
やっぱり私に今足りなかったのは、ゆーし成分。定期的に成分を摂取しないと死んじゃう身体に……なんて、前は軽く冗談のつもりで言ってみたけれど。もしかしたら本当に、私はゆーし無しでは生きられないのではないか。今はそんな気さえしている。
ゆーしがいない五年間、ずっと彼のことだけを考えてきた。そして二日前に再開して、心が震えた。
昔より圧倒的にかっこよくなっていて、けどどこか懐かしさは残っていて。ああ、本当に戻ってきてくれたんだと。あの時のゆーしのまま成長して、大好きな人のまま初恋を続けさせてくれるのだと。
「ね、ゆーしは……さ。私のこと、どう思ってるの?」
「へっ……?」
「あ……」
漏れ出した疑問に、ゆーしが固まる。
心の中で思ったことを、そのまま口にしてしまった。私のことを、どう思ってくれているのか。つい、気になって。
(ばか、ばかばかばか!? 私、何言っちゃってるの!? どう考えてもただの幼なじみでしかないよね!?)
ゆーしにとっての私は、あの日のまま。ただ仲の良かった幼なじみ、それだけ。この恋は私が一方的に抱いてしまったもので、ゆーしもそうというわけじゃない。
なのに、こんな質問。まるで……相手を意識しているとでも言わんばかりの。ただの幼なじみ相手からそんなこと言われても、困るだけに決まって────
『ど、どうって。その……成長、したよな』
「あぇ?」
『……幼なじみ、だけど。それ以前に、可愛くなったなって。思う……けど』
「は、はひっ!?」
か、可愛くなった……!? ゆーし、私のことをそんなふうに思っててくれてたの!?
やばい。身体さっきまでと比べ物にならないくらいあっつい。変な汗出てきた。
(努力して、よかったぁ……っ!)
いつかゆーしと再開した時、可愛いと言ってもらえるように。日頃から努力は欠かさずに続けてきた。
それがまさか、こんな形ですぐに結果として出てきてくれるなんて。どうしよう、ちょっと泣きそうになってる……。
「ば、ばか。そんな恥ずかしいこと、言わないでよ……」
『す、すまん! 忘れてくれ!! 今のはその、だな────』
「ううん。絶対忘れないよ。忘れてなんて、あげないんだからっ」
『っ。お前なぁ……』
「えへへ、じゃあ私は気分がいいから貰い逃げしよっかな。じゃあね、ゆーしっ!」
『お、オイ!? ちょ、待っ────』
「また、明日ね!」
ぷちっ。そこで、私は電話を切った。
まだまだ話していたかったけれど。私の心がそろそろ限界で、すぐにボロを出してしまう気がしたから。
暗くなったスマホをぽいっとベッドの上に捨てて、抱き枕に身体を寄せる。
「……私、喜びすぎだよ。もぉ……えへ、へ。可愛いって……可愛いってぇ……」
熱くなった身体で強く抱き枕を抱きしめながら、笑みの漏れる顔を猫助に埋める。
結局一晩。私は興奮のあまり、ほとんど眠れなかった。