「むむ、むむむ……」
私は悩んでいた。ベッドの上で項垂れながら、スマホ画面を見つめて。
「ゆーしと、電話したい……」
何故だか、今日は猛烈に寂しくて仕方がない。
ゆーしと再開して二日。日中は登下校や学校でずっと一緒にいられるけれど、高校生という身分とあまりに引っ付きすぎると嫌われるかもしれないという懸念から、夜に会いに行くことはできない。
でも、ゆーしに会いたい気持ちは治らない。今まで五年間も離れ離れになっていた反動もあり、ゆーしのことがただひたすらに恋しくて、今すぐに会ってもう一度ぎゅっ、てしたいのに。
ただそんな私にも、会うことはできなくとも寂しさを紛らわすことのできる手段は存在する。
そう、電話だ。ゆーしとはLIMEを交換しているから、今ここで電話をかければ声を聞くことができる。
「でも……でもぉ……」
迷惑だと思われたらどうしよう。そんな情けない心が、私の手を止めていた。
ゆーしとずっと一緒にいたい。もう片時も離れたくない。好きで好きで、溢れ出した感情を抑えることができない。そんな私の想いは、ゆーしにどう受け取られているのだろう。
嫌われてはない……と信じていたい。私ばっかりドキドキさせられるばかりだけど、たまにはゆーしも私を意識してくれていると。そう考えるようにしている。
「あー、もう。なんで私、こんなにゆーしのこと好きなんだろ。小学生以来、会ってなかったのに。う゛ぅ……でもやっぱり、好き。ゆーしのことを考えてる時が、一番幸せだもん……」
ゆーしのことを考えていると、胸の内がぎゅっと熱くなる。身体がぽかぽかほわほわして、くっつきたくなる。
彼の容姿も、性格も、匂いも暖かさも。全部、触れるたびに私を幸せで胸焼けさせてくれる。今だってゆーしのことを考え始めたせいで身体が熱くて、普段なら寝転がる時被っている布団も跳ね除けてしまった。
好き。私はゆーしのことが、大好き。
そう自覚させられるに足る心情を、私は持ち合わせすぎていた。
「ゆーし……ゆーしゆーしゆーし……」
握り拳を作ってみても、いつも抱いている猫ちゃんの抱き枕を思いっきりハグしてみても。私の心の中の空白は埋まってくれない。
寂しいよ。ゆーしの声が、聞きたい……。
「私をこんなにした、ゆーしが悪いんだもん。もぉ知らない!!」
私は覚悟を決めるのと我慢の限界が同時に押し寄せてきたその瞬間、スマホに表示されているゆーしとのトークルームの右上にある通話ボタンを、勢いよく押した。
面倒くさいと思われても知るもんか。私を五年間も放置していたのが悪い。ゆーしがどこかに行って、私の初恋を諦めきれないまま延長戦に持ち込ませたからこうなってるんだ。
プルルル、プルルル、と聞き慣れた電話をかける時の音。それが部屋中に小さく反響して、私の意識をジッとスマホに向けさせる。
三回、四回、五回。六回コールしたところで、その音がプツリと消えた。
『もしもし? どうした、由那?』
「ゆ、ゆーし!? ご、ごめんね!? 急に電話したりなんかしてっ!!」
『おぅ? 別に大丈夫だけど。何か大切な用事とかか?』
「大切……うん、そうかも。私にとっては、一刻を争うくらい大切な話……」
ああ、ゆーしだ。耳元からゆーしの声がする。
例えそれが生の声でなく、電子音が拾った機械越しの物だったとしても。私の心はたったのこの少しな会話で、ぱあぁと明るく芽吹いていた。
「寂、しくて。どうしても、声を聞きたくなっちゃった……」