「あ、ゆーし! お帰り〜!」
「おぅ。ただ、いま……」
「ねえねえ聞いて! 早速二人も友達できちゃったんだぁ! その子達とペア組んで外バスケの練習して────って、どうしたの? お腹痛いの?」
「い、いや大丈夫だ。良かったな、友達できて……」
教室に戻ると、由那はとても楽しそうに体育の時間にあったことを話してくれた。
どうやら俺がドッヂボールで腹を強打され虫の息になっている間、女子の方では微笑ましい空気が流れていたらしい。全く羨ましい限りだ。
「もう私いっぱい動いてお腹ぺこぺこぉ。ゆーし、一緒にお弁当食べよー?」
「お、そういえば由那が作ってきてくれてるんだったな。場所はどうする?」
「それなら私、いい場所知ってるよー! 二人っきりになれる場所行こ!!」
そう言って、由那は俺の手を引きながら立ち上がる。
可愛いピンク色の巾着に入ったお弁当箱を二つ持ち俺を先導する彼女の行き先は、俺たちのいた一年三組の教室から階段で一つ下の階。「社会科資料室」と記載されている場所だった。
電気は消えており、明らかに中には誰もいない。というか、生徒がここに立ち入ること自体が禁止されていそうな雰囲気だ。
「なあここ、本当に大丈夫か? 絶対入っちゃダメだろ」
「ふっふ〜ん。そこは任せて! ほら、これを見るのだ!」
チャリンッ。由那がスカートのポケットから取り出したのは、一つの鍵。状況から見て、この教室の鍵なのだろう。
「え? どーやって……」
「先生にね、お昼に使える隠れスポットがないか聞いたの。そしたらここを教えてくれて、コッソリ鍵も渡してくれたんだぁ〜」
うぅん、その教師やってんなぁ。何生徒に教室の鍵預けちゃってるんだ。まあ俺的には周りに見られながら由那とお弁当はちょっとハードル高かったし、誰もいないところで食べれること自体は嬉しいけども。
まあでも、とりあえず変なルートで入手したとかでもないみたいだし、後から怒られる心配もないならありがたく使わせてもらおう。
むふんっと胸を張る由那と共に、鍵を開けて中に入る。
真っ暗だった教室に電気をつけると意外に中は広く、大きな本棚が立ち並ぶ中央には机が四つと椅子が四つ。元々授業用に使われている教室ってわけでもなさそうだから、先生達が資料整理するときにちょっと座る、くらいのものなのだろうか。
まあ何はともあれ。お腹もぺこぺこだし、そろそろ由那のお手製弁当をいただくとしようか。
「はいっ、こっちがゆーしの分! ほらほら開けてみて! 気合い入れて作ったんだよ〜!」
「んじゃまあ、お言葉に甘えて」
ピンク色の巾着を外し、中から出てきた一段の弁当箱をそっと開ける。
「おぉっ。なんだこれ、すっげぇ……」
いい匂いと共に顔を出したのは、色とりどりの食材たち。左半分を占める白ごはんにはのりたまふりかけが撒かれており、右側のおかずエリアには俺の大好物唐揚げと、ミニトマト三個にスクランブルエッグときゅうりのハム巻き。
まるで、何年も子供のためにお弁当を作り続けたお母さんかのように完成度が高い。見た目ばかりじゃなく、もう食べる前から「絶対に美味しい」と断言できる。
「えへへ、ゆーしのために頑張ってお勉強したんだぁ。元々自分でお弁当は作る予定だったけど、ゆーしに食べてもらうからには美味しいのを食べてもらいたくて……」
頬をぽりぽりと掻きながらそう言う由那の顔は、ほんのりと紅潮していた。
(あの由那が、俺のために……)
不覚ながら、その表情に胸を撃ち抜かれる。
可愛い。可愛すぎる。なんでこんなに可愛いんだコイツ。俺のために頑張って作ってくれたお弁当とか……萌えないわけがなかろうて。
「ゆー、し? お弁当、食べよ?」
「お、おおおう! いただくよ……」
渡されたお箸を持ち、両手の親指と人差し指の側面で一つに揃えながら抑えて。
一緒に、同じポーズをとった。
「「いただきます」」