(由那の奴、友達の一人でも出来たかなぁ……あはははは)
「殺せ、ソイツを殺せェェェェェェ!!!!」
体育倉庫に、怒号が響き渡る。
俺は今、絶賛ドッヂボールの的にされていた。
「クソッ、意外にすばしっこい!!」
「大丈夫だ。数打てばいつかは殺せる。非リアの底力、見せつけるぞ!」
「「「オオオオオオォォォォォォッッッ!!!」」」
体育の先生がいきなり授業はあれだからって、レクリエーションの意味も込めてドッヂボールを企画してくれたのに。
俺という全員共通の敵を前にして今、同じクラスの男子生徒全員が出会って間もないということを感じさせぬほどの連携で攻撃を続けている。おかげさまで先生は目を点にして棒立ちをするばかりだ。
「っぶな!? お、俺が何したってんだ!?」
「うるせえよ神沢ァ!! お前は俺たち一年三組の花を摘んだんだ! その罪は万死に値する!!!」
「花ってなんだよ!? というか由那はただの幼なじみで────」
「幼なじみィィィィィィイ!? ギィルティィィダァァァ!!!」
「ほわぁっ!?」
やたら肩幅のある野球部っぽいやつが、俺の顔面をピンポイントで狙い打つ球で全力投球。さっきからスレスレのところで避けることが出来ているが、このままでは本当に殺されかねない。
「お、お前ら仲間だよな!? 同じチームだろ!? アイツら倒そうぜ!!」
「……悪いな。ドッヂボールはお前が死んでからスタートだ」
「クソ野郎がッ!!」
どうしてこうなったんだ。俺はただ、平穏な学校生活を送りたかっただけなのに。社会の体育から全員に全力投球一点狙いされて死の危険に直面する予定なんて、これっぽっちもなかったのに。
「はっは。非リアどもはこういう時団結力だけ無駄に高くて嫌になるなぁ。な、リア充の神沢君?」
「誰だお前??」
「加勢するよ。俺もお前と同じ、彼女持────ぶぺらぁぁっ!?」
「粛清、ヨシ。引き続き神沢を殺せ」
「よくやったお前ら!!」
「もう嫌だこのクラス! 本当なんなの!?」
謎の茶髪キザ男から唯一の救いの手が差し伸べられた、その瞬間。彼女持ちだと名乗ったそいつは、背後から現れた伏兵二人によって取り押さえられ、豪速球の餌食となった。
というか、俺のことを取り押さえないのはもしかしてこれあれか? 奴隷と猛獣を戦わせる貴族みたいな目線で俺が慌てふためく様を楽しんでるのかコイツら!? とんだクソクラスだ!!
「あ、あはは。愉快なクラスですねぇ。仲が良さそうで何より……」
「これの! どこが! 仲良く! 見えるんだッ!!」
「そろそろ、死ねェェェッッッ!!!」
「おごぉっ……」
一瞬。ほんの少しよそ見をした、その瞬間。俺は的確に腹を撃ち抜かれ、倒れた。
一人のクラスメイトが死んだことにコイツらは大歓喜し、ズルズルと引きずられた俺はさっき死んだ自称リア充と共に外野に並べられる。
「ふ、ふっ。神沢君……俺たち、とんでもないクラスに入れられたな……」
「もうヤダ。帰りたい……お家、帰りたい……」
痛むお腹を摩りながら。俺は壁にもたれかかり、高校生活初の体育を終えたのだった。