「ね、和人! 見て見てあの子達! カップルかな? 可愛い〜」
「高校生か。初々しいなぁ……」
人と通り過ぎるたびに、視線やコソコソ話がこちらを向く。
その対象は、同じ高校生だけではなく。大人の人やおじいちゃんおばあちゃんにまで、同じような反応をされた。
そりゃあそうだろう。これだけ、幸せムードを振り撒いていたら。
「なあ由那。もう少しこう、さ。目立たないようにできないか?」
「え? 私たち目立ってるの!?」
「たちっていうか、主にお前が。もうほっぺたでろんでろんに緩ませてニヤニヤしてるからな」
手を繋ぎながら、一緒に通学路を歩く。由那は俺がそのことを認めてから、誰が見ても分かる通り上機嫌だった。
時にはニヤニヤ、時にはニコニコ。常に笑顔が絶えず、俺と話している時もずっと高いテンションをキープしながら、たまに手繋ぎ以上のボディタッチもしてくる。正直言って俺の方はもう気が気じゃない。
「だって、五年ぶりのゆーしとの登校なんだもん。私……ずっとこうできるのを楽しみにしてたんだよ?」
「むっ。そ、それはまあ。そう思ってくれるのは嬉しいけど。でもほら、見てみろよあそこ」
「うん?」
「お゛え゛ぇぇ……」
俺が指差した先では、道の端っこで胸を押さええずいている男が一人。大学生らしい彼は今、もう一人の友達に背中を摩られて俯いていた。
「ど、どうした太一!? 何事だ!?」
「な、なんか急に身体の奥底から甘いものが……お゛え゛、う゛ぅ……ッッ」
「分かるか? お前の振り撒いた甘さがあの人に砂糖を吐かせてるんだ」
「えぇ……人って砂糖を吐ける生き物だっけ?」
「そうさせてるのはお前だぞ」
どうやらあの人は、由那の振り撒いた幸せオーラというありふれんばかりの”糖度”に当てられたようだった。
そう、コイツのレベルはもうその段階まで来ている。人を共感生羞恥で恥ずかしい気持ちにさせたり、幸せな気持ちにさせたりを通り越して。過剰摂取で身体があまりの量の砂糖を受け付けることができずに吐き出してしまうのだ。
え? 人間の構造的にそんなことはあり得ないって? うるせぇ。ここはラブコメ世界なんだからそんなことは気にするなバカ野郎。
「と、いうわけだ。ほら、そのオーラしまえ」
「ぶぅ。私をこうさせてるのはゆーしなのに……」
「? どういうことだよ?」
「……ゆーしといるのが幸せだから、ニヤけちゃうんだもん」
「っっ!?」
ぽっ、と頬を赤く染めながら。由那はもじもじとした様子で俺にそう告げる。それと同時に俺の手を握る力は強まり、近づいた肩と肩がぶつかった。
由那は、甘えようとする時身体を摩りつけてくる癖がある。ちょうど今、上目遣いで俺を見ながら「甘えたい」と訴えかけてくる彼女はその癖に身体が動かされ、身を寄せながら、繋いでいた手のひらを強く引いた。
まるで、「もっとくっついて」と言わんばかりに。さっき注意したばかりだと言うのに、まだ満足がいっていないと言うのか。
「ねぇ、ゆーし。私これでも、我慢してるんだからね? 本当なら今すぐ抱きついて、いっぱいなでなでしてもらいたいんだよ?」
「うっ。お前なぁ……」
「だって本当のことだもん。私、定期的にゆーし成分を摂取しないと死んじゃう身体になっちゃったから……」
「な、なんだよその訳わからん体質!?」
「いーからゆーしは黙って私に構って! いっぱい優しくして、なでなでとかよしよしとかしてくれればいいの! 分かった!?」
「っ、うぅ……」
コイツ、どれだけ甘えんぼなんだ……。