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第9話 幼なじみの本心

「やっ……ちゃった。やっちゃったよぉぉ!!」


 ぼふっ。制服姿でベットに寝転がった私は、愛用している抱き枕に顔を埋める。


 ゆーしとは、あれからしばらくお話して家まで送ってもらってから別れた。私の家からゆーしの新しい家、結構距離あるのに。今頃は一人、歩きながら帰っている頃だろうか。


「わ、私……なんであんなこと。久しぶりに会えたからって、攻めすぎたぁ……」


 昔から、ゆーしのことが大好きだった。


 大好きで、大好きになってしまって。私は彼との接し方が分からなくなった。


 小学五年生。好きを自覚する前のようにただ一緒にいて、甘えて。そういったことが恥ずかしくなり始めて、素直になれない日々が続いた。


 もう随分と昔のことだ。あまり鮮明には思い出せないけれど、ゆーしに近づきたい一心でやったことだったのは覚えてる。


 でも、結果的に私の初恋が実ることはなかった。


 ゆーしは、この五年間どんなことを経験してきたのだろう。恋人の一人でも、作ってしまっただろうか。……もしかしたら今も、いるのだろうか。


 彼と会えなくなってからは、ただ呆然とした日々をしばらく過ごした。なんというか、生き甲斐というものを無くした気がして。何に対してもやる気が起きなかったのだ。


 たった数ヶ月。好きを自覚してからの私と、それ以前の私。きっとゆーしの目には、全く別の人に見えていると思う。そして、今の私も。


 甘えたい。頭をなでなでされたい。嫌われたくない。ぎゅっ、て抱きしめてほしい。


 ゆーしと会えない五年間、私の恋心は冷めるどころか、膨れ上がっていった。早く会いたい、今どこで何をしているのか知りたい、いっぱい、触れ合いたい。


 そうして絵本の中の王子様に恋をするような日常生活を送って、しばらく。


 私はやっとゆーしに再会できた。嬉しすぎて、胸が張り裂けそうだった。ちょっと泣きそうにもなったし、周りに人がいなかったら本気で叫んでいたかもしれない。


 だけどそれ以上に。五年間のゆーしロスによって欲望が爆発した私の身体は、かっこよくなった彼の身体を思いっきり抱きしめていた。


 もう、間違えない。


「攻めすぎた、けど。したいこと、我慢したくない。ゆーしと、もっと……もっと……」


 私は、ゆーしのことが好き。好きで、好きで。大好きだ。


 五年の月日なんて関係ない。ゆーしは大きくなっていたけれど、ゆーしのままだった。匂いも、顔立ちも、癖も。全部ゆーしのもので、私の大好きな人のもの。


 今思うと、やっぱり昔の私は子供だったのだろうと思う。だって、好きな人に触れ合いたい気持ちに無理やり蓋をして隠そうとしたせいで、結果的に冷たい態度を取ってしまったこともあった。我慢我慢の日々で、何度無意識的にこの好きを吐露してしまいそうになったか分からない。


「いっぱい、甘えるもん。甘えて、好きになってもらって……それから、こ、告白……するもん」


 女の子としての努力は続けた。可愛いって言ってもらえるように、いっぱい勉強もした。


 今日はゆーしに、意識してもらえたかな。昔の幼なじみのまま、終わりたくない。


「っうぅ……っ。やっぱり、だいしゅき……」


 ツンツンなんてしてられない。私の甘えんぼなところ、全部見せつけてやる。


 五年間も我慢したんだから。それくらい、してもいいよね……? 


「えへへ。ゆーしっ。ゆーしぃ。えへへへへっ」


 私の素直な気持ちは、全部ぶつける。ぶつけ続ける。




 だってもう、ゆーしを好きだって気持ちは……押さえつけることなんて、できないから。

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