「いただきまーす!」
「いただきます」
席に戻って少し経ち。店員さんの持ってきたピザとドリア、ハンバーグを前に二人で手を合わせた。
ピザカッターを使いピザを八等分すると、由那はそれを美味そうに摘む。むにぃ、と口から伸びたチーズに若干あたふたしながらも、もちもちした笑顔が絶えることはなかった。
「はい、ゆーしもどうぞ! あ〜んっ!」
「や、やめろって! 一人で食べれるから!!」
「えー? あ、そっかそっか! 忘れてた!」
え、何をだ? そう思いながら彼女の横顔を眺めていると、やがて由那は手元に持っていたマルゲリータピザに三回、そっと息を吹きかける。
ふー、ふーっ、と。まるで子供にご飯をあげるお母さんのように。
「ゆーし、猫舌だったもんね。はい、ふーふーしたからこれで冷めたと思う!」
「ぐぬ……子供扱いするなっ」
「えへへ、ゆーしはたまに可愛いところがいいんだよ? はい、いいからあ〜んして?」
「はずいって。誰かに見られでもしたら……」
「そう思うなら、早く食べることをおすすめするけどにゃぁ。私はゆーしが食べてくれるまでずっとこうして待ってるよ?」
き、汚い。なんて奴だ。
この言い方、俺が断って自分で食べても次を用意して延々と待ち続けるつもりじゃないか。コイツに恥ずかしいとか言う概念は無いのか?
「……あ、あーん」
「はい、いい子いい子っ」
結局俺は勝てなかった。素直に口を開けると、丁寧に由那の手からピザが明け渡されて。ふーふーの影響か程よい温度に冷めたそれの風味が、口の中いっぱいに広がる。
ムカつくけど、美味かった。それも最後にピザを食べた時より、ずっと。
これが美少女ふーふーパワーなのだろうか。……って、何を馬鹿なこと考えてるんだ俺は。
「よしよしっ。ゆーしの頭もなでなで〜」
「やめろぉ。わしゃわしゃするなって」
「でも、頭なでなでされるの気持ちいいでしょ? 私だって、気持ちよかったもん」
「それは、だな……」
だぁもう! だからいちいち可愛いんだって!! これ俺がちょろいのか!? それともコイツが世間一般から見ても可愛すぎる美少女だからなのか!?
まずい、まずいまずいまずい。頭撫でられてるだけで色々と堕ちてしまいそうだ。なんだこの抱擁力。母性溢れすぎだろ。こんな嬉しそうに頭撫でられたら誰でも子供に還っちまうって!
俺は手遅れになる前にその手を振り解き、食事を再開した。
幸いなことに由那も腹は空いていたみたいで、目の前のハンバーグに一度視線を落とすとそこからは釘付け。「おいひぃ〜」と漏らしながら、食べてる最中は俺に引っ付いたりはしてこない。
クールタイムだ。なんとかここで心を落ち着かせる。
大体俺は由那と別れてからの五年間、ほとんど男としかいなかったんだ。そんな奴にこの美少女は劇薬すぎる。さっきから心臓がバクバクと暴れていて隣の由那に聞こえていないか心配になるくらいだ。
コイツは、間違いなく可愛い。でもそれ故に、過剰摂取したら身が持たない。
だから少しずつ。昔のような幼なじみに戻るには、時間が必要なのだ。お互いにもう子供じゃないわけだし、高校生として節度を────
「ゆーしっ。私もドリア食べたいなぁ。ねっ、あ〜んして?」
「つっ!?」
「あ〜〜」
節度、をぉ……