「ねぇねぇゆーし! どれにするー? あっ、このピザ一緒に頼んで割り勘しよーよ!」
「そ、そーだな。えっとじゃあ……俺はドリアで」
「じゃ私はハンバーグっ!」
俺達は二人で、某有名ファミレス店に来ていた。
公園でしばらくゆっくりした後、お腹を激しく鳴らした由那がどうしても昼ごはんを食べに行きたいと聞かなかったので、ここに入ったのである。
ボタンで呼び出した店員さんに注文を伝え終えると、由那はコップに入った水をコクコクと半分ほど飲んでから、ゆっくりと息を吐いて。俺の横顔を見つめる。
「由那? 普通こういうのって、向かいの席に座るもんじゃないのか? なんで隣同士?」
「だってこっちの方がゆーしを近くに感じられるもん。ぎゅっ、だって簡単にできるし。あ、でもあーんは向かい合わせの方がしやすかったかも……?」
「あーんなんてしないが!?」
「えへへ、私のハンバーグ分けてあげるから、ドリアちょっとちょーだいっ」
「聞いちゃいねぇ……」
というかこれ、普通に恥ずかしいんだが。
男女二人きりで高校生が外食というのも充分人目につくのに。隣同士に座って二人で引っ付いているなんて、こんなのまるで……
(カップル、みたいじゃねえか……)
きょとんとした様子で飽きもせず俺の腕に引っ付いたままの彼女を振り解き、俺は恥ずかしさに顔に熱がこもっていくのを感じながら、立ち上がる。
「ゆーし? どこ行くのぉ?」
「ドリンクバーだよ。由那の分も取ってきてやるから。何がいい?」
「ぶぅ。ゆーし、いじわる。私も一緒に行きたいって言うの、分かってるくせに……」
「荷物見とかなきゃだろ?」
「財布とスマホは持っていくもん! だから私も行くっっ!!」
「……分かったよ」
ダメだ、コイツ執念がすごい。意地でも俺から離れない気だ。
脱いでいた靴を履き直し、俺の後をとてとてとついて来る由那と共に、ドリンクバーを入れに行く。
大きな籠のようなものにセットされているコップを二つ取ってから、一つを手渡して。俺の分には半分強ほど氷を入れ、とりあえず烏龍茶を注いだ。
「せっかくドリンクバー頼んだのに、ジュース飲まないの?」
「後から飲むよ。なんか今は烏龍茶の気分なんだ」
「ふぅん。じゃ、私はぶどうジュースにしよっと!」
ぶどうジュース、ぶどうジューススパークリングの二つが並ぶボタンのうち、前者をポチッと押して氷の無いコップがパンパンになるまでジュースを注いでいた。
「そういえば由那って炭酸飲めなかったよな。あれから克服できたのか?」
「……でき、たよ」
「そっか、まだ苦手なんだな。子供舌め」
「むっ! そんなこと言ったらゆーしだってコーヒー飲めなかったじゃんか! 飲めるようになったの!?」
「なってない、けど。コーヒーはお前も飲めないだろ」
「……」
なんともまあレスバが弱い奴だ。コイツ、昔はもっと一つ一つの言葉に迫力があって強そうだったんだけどなぁ。身体の成長と反比例して心は幼くなったんじゃないだろうか。
ぴちょぴちょと満タンになったぶどうジュースを少しだけ飲んで減らし、ぷっくりと不満げに頬を膨らせた由那の横顔を見ながら。不意に、衝動に駆られる。
「っっぴ!? な、何!?」
「あ、ごめん。そんな驚くと思ってなかった」
頭を撫でてみたくなった。
だから、そっとその小さな白い髪の上に手を乗せて。三回ほど、なでなでしてみたのだ。
するとどうか。由那は小さく奇声を発しながら、身体を震わせてピクリと反応する。何故か顔は真っ赤っ赤になっていて、耳までも紅潮させながら本日初めて、距離を取られた。
「……ゆーしのそういうとこ、ズルい。バカ」
「そういうとこ?」
「不意に、ドキッとさせるところ。頭なでなでなんて……急にされたら、ビックリしちゃうでしょ」
「ご、ごめん。別に驚かせようとしたわけじゃなくてだな。その、嫌だったか?」
ぶんぶんっ。由那は、無言で首を横に振る。
「嫌じゃ、ない。むしろもっと……して、欲しい」
「おぅ……っ」
どうやら由那は、頭を撫でられるのが好きらしい。
さっきもずっとくっついてくるところとか、甘えんぼなところとか。あとはおっとりとした雰囲気とか。全部含めて猫っぽいなぁと思ってついつい撫でたくなってしまったわけだけど。
(その顔は、反則だろぉ……)
まさか、ここまで喜ばれるとは思ってなかった。