俺は一体何をしているんだ。
朝、謎の出会いから幼なじみである由那と再開して。謎の変貌を遂げた彼女と一緒に登校することになったのはいいものの、気づけば同じクラスかつ隣の席で午前中はずっと一緒にいた。
久しぶりに会った彼女は昔のツンツンした雰囲気が全て抜け、今では甘々のデレデレに。俺はいまだにこれがあの由那と同一人物だとは信じきれていないのだが。
「ゆーし! ここの公園で少し休憩していこー?」
「休憩って。由那、家帰らなくて大丈夫なのか?」
「お母さんには連絡入れてるから平気! お昼ごはんも外で食べてきていいってー!」
「そ、そっか」
気づけば放課後も一緒に下校して、五年ぶりになる地元を案内されていた。
五年も経てばガラリと街並みが変わっているのではと思っていたが、案外そうでもないらしい。
この公園も、昔よく二人で来たのを覚えてる。ジャングルジムに登ったり、ブランコしたり。小学校が終わった後はずっとここで遊んでたっけ。
ベンチに腰掛けると、カチャンッ、と押していた自転車を止めて。由那が隣にそっと座ってくる。
ふわりと、甘い匂いが鼻腔をくすぐった。性格も体型も変わったけれど、彼女の綺麗な白髪とこの甘い匂いだけは変わっていない。
「こうして、またゆーしと一緒にここに来られるなんて思っても見なかったよ。もう……会えないかと思ってたから」
「……ごめんな。もしかしてその、寂しがったり、してくれてたのか? ほら、お別れの日さ。由那、ずっと車に乗った俺に手を振ってくれてたから」
「っ!? 覚えてて、くれてるんだ」
忘れもしない。急に転校が決まって、まだ気持ちの整理もつかないままにお別れを迎えてしまったあの日。
由那は、やるせない表情をしていた。普段のツンツンした感じでも、泣き出して別れたくないと言ったわけでもなく。ただ、どこか寂しそうに……手だけを振って、こちらを見つめていた。
「そう。私、寂しかったんだよ? ゆーしがいなくなってから、一人ぼっちで。……でも、ゆーしは帰ってきてくれた。だからこうして、五年ぶりのかっこよくなったゆーしの成分をいっぱい、補充してるの」
「かっ────!?」
「ゆーしの匂い……好き。お日様みたいな香り、落ち着く。ずっと、嗅いでたくなるよぉ……」
スンスンッ、と小さな鼻をヒクヒク動かしながら。由那はそっと、小さな頭を俺の肩に落とす。
そうか。やっぱり由那は、あの時寂しがってくれていたのか。
普段の粗暴だったあのイメージが染み付いていたが、そういえば由那は、俺以外には普通の子だった。
普通の、甘えんぼな女の子。俺がいない時、お母さんと歩くと必ず手を繋いでいた。
そう考えれば、根の部分は変わっていないのだろうか。あまりにも性格が丸くなりすぎているし、きっとこうなったきっかけが何かあったのだろうが。その原因を俺絡みだと考えるのは、いくらなんでも自意識過剰だろう。
だって俺たちは、ただの幼なじみだったのだから。たまたま家が隣で、小さな頃からずっと一緒にいた。けれどそれは小学五年生までの話で、俺はそこから五年間、今に至るまでの彼女を知らない。
人は五年あれば、充分変わり得る。
「なあ、由那」
「なぁに?」
「……いや、なんでもない」
五年間。俺の方には特に変わったことはなかった。
順当に生きて、それなりに友達と部活や遊びを楽しんで。
けど、ふと思い出す瞬間があるのだ。
『由那は今、どうしているのだろう』、と。きっとそれほどまでに、この幼なじみの存在は俺の中で強大なものだったのだ。
幼い頃の話だ。それが恋だったのかとか、そういうのは分からない。たまたま気になって思い出すことがあった、というだけの話かもしれない。
けれど────
(由那に何があったのか。少しずつでもいいから、知りたいな)
再開して、こんなにも美少女になっていた幼なじみは、俺の中での存在感を更に増幅させ続けている。
だから、今は少しずつでも彼女のことをもう一度、知っていきたいと思った。