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第3話 運命は彼女に味方する

 本当に寝てしまった由那をしばらくしてから叩き起こした俺は、これから一年通うことになる三組の教室へと向かった。


 本当は俺一人で行くつもりだったのだが。同じクラスの由那は置いて行こうとするとまた引っ付いてきて、俺の背後で服の裾をつまみながら一緒に歩いている。


「なぁ、人に見られてるぞ。一旦落ち着いて離れないか?」


「……ヤダ」


「うーむ。俺としては結構今の状況、恥ずかしいんだが……」


「ヤダ」


 聞く耳持たずである。


 甘えんぼでデレデレな彼女は、一向に俺から離れようとしない。もしかして一日中こうやってずっと一緒にいるつもりだろうか。


(ふっ、まあ残念だが、そうはいかないんだよなぁ)


 教室に入るまでの辛抱だ。入ってさえしまえば、決められた席に座ることになる。出席番号順の座席指定はさっきみたいに不平等な交代を先生が許さないだろう。苗字の頭文字が近いせいで教室の右端側に寄ってしまうのは仕方ないとしても、これで授業中はある程度距離がとれる。由那のことが嫌いとか、避けたいとかって訳じゃない。ただ……四六時中引っ付いているのは、流石に恥ずかしすぎるのだ。


「由那、教室着いたぞ。座席確認しに行くか?」


「うんっ。する」


 開いている教室の扉から中に入ると、既に中にいた十人くらいの視線が俺に全部集まってくる。

 正確には、俺にではなく俺の後ろのまか不思議な可愛い生物に、か。なんだか体育館の一環で変に慣れてしまった視線を無視して、俺は前の黒板に貼られている座席表を確認する。


 高校生活最初の席順だ。ここで初めての友達が誰になるのか決まると言っても過言ではない。隣の席に来た奴とは、ほぼほぼ間違いなく会話をすることになるのだから。


 体育館では誰とも喋ることは叶わなかったが、ここで確実に友達を作ろう。そう息巻いて、俺は鼻息荒く座席を確認する。


「おっ! 一番後ろの席か!!」


 俺は廊下側から二列目の、一番後ろを勝ち取っていた。


 先の位置は完璧。あとは両隣の奴が誰なのかを確認して────


「左は……辻本? 男か女か、まだ分かんないな。んで右は、えっと……江、口?」


 あ、あれ? おかしいな。なんか聴いたことがある苗字なんですけど。凄く馴染みのある名前なんですけど?


「むにゃ? あぁ〜っ!! 私、ゆーしの隣だ!! やった、やったぁ!!」


 ははははは。なーんか嫌な予感はしてたよ。こんなことになるんじゃないかなーって、薄々感じてた。けどなんとか現実逃避して目を逸らしてたのに。結局こうなるのかぁ。


 さっきまで眠そうに目を擦っていた由那も、これにはテンション爆上がりなご様子で。ぴょんっ、と可愛く跳ねて見せると、とびっきりの笑顔で俺の腕をハグした。


 どうやら人間魚雷から始まった一連の運命とやらは、俺をとことん逃してくれないらしい。ムカつくのは……俺自身が、そこまでこの状況を嫌がれないことだ。


 だって可愛いんだもの。俺の腕に引っ付いてるこれ。


「ゆーしっ。五年ぶりのお隣さんだね! えへへ、また幼なじみ再開だぁ」


「嬉しそうな、ほんと」


「当たり前だよぉ。ゆーしと一緒に授業受けるなんて何年ぶり?休み時間もいっぱいお話できるし、私にとっては特等席だもん!」


 ああもう、コイツの「だもん」はいちいち可愛いんだよなぁ。何なのコイツ、なんで隣の席になっただけでこんなに喜んでくれるの? 天使か??


 というか休み時間も一緒にいることは確定なんだな。いや、いいけどさ。俺このままだと本気でコイツ以外話せる奴いなくなっちゃうんじゃないか。




……あ、やべ。ゾッとしてきた。

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