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第1話 デレデレ幼なじみ、襲来

 桜舞い散る春の空。


 雲一つない晴天の中を、呑気に歩く。


「ひっさしぶりだなぁ。この街……」


 俺、神沢勇士は現在十五歳。今日から晴れて高校一年生である。


 ぷーらぷーらとあくびをしながら何の変哲もない住宅街を歩く俺は、感傷に浸っていた。


 それもそのはず。この街は五年前まで、俺が住んでいた街なのだから。


 あれは小学五年生の時。親が唐突な転勤になってしまい、俺は遥か遠くの街へと引っ越す羽目になった。小学校高学年で友達もたくさん出来ていて、やっと楽しくなってきたところだったというのに。親を責める訳ではないし、仕方ないことだと理解はしていたものの。やっぱりどこかこの街を離れるのは寂しかった。


「本当、何もかも懐かしい。アイツも、元気にしてるかなぁ」


 特に俺をその気持ちにさせた一番の原因は、幼なじみの女の子の存在。名は江口由那と言い、一言で言えば″ツンデレ″な子だった。


 とても綺麗な白髪をしていて、美少女だったのを覚えている。毎日のように一緒に遊んでいたけれど、彼女とは胸を張って仲が良かったとは言えない。いや、少なくともこちらは仲が良かったと言えるのだが。あっちがどう思っていたのか、分からない節があったからだ。


 一緒に遊んでいるのに急に帰ってしまう時があったり、何故かやたら口調が攻撃的だったり。俺って嫌われているのでは? なんて思った回数はもはや数え切れない。


 だけど、それでも不思議といつも一緒にいてくれる子だった。今思えばあの行動や言動は、好きな裏返しだったのではないだろうか……なんて、それは流石に妄想がすぎるか。


 まあ何はともあれ、そんな思い出が詰まった街だ。あの子は今、どうしているのだろうか。せめて中学のうちに帰って来られれば住んでいる地域的に同じ学校に通えたかもしれないが。高校となると、学力なんかが一緒じゃないとまず無理だ。俺が通うことになったところは中の下って感じの偏差値だけど、彼女はどうだろう。全然もっと上に行っていてもおかしくない。


「はい、妄想タイムしゅーりょー。そんなことよりも俺はまず友達作りからだっつーの」


 結局、二回目の引っ越しをしたということはまた友達全員リセットな訳で。俺は振り出しに戻って、また友達のコレクションをスタートしなければならない。


 部活なんかもどうするか。特にやりたいことはないが、帰宅部は友達が出来なさそうだ。高校デビューで失敗すれば、間違いなく詰む。慎重に行かないと。


「は〜ぁ。憂鬱だ。音楽でも聴いて切り替えよ」


 そしてここが、運命の岐路だった。


 家から十分。そんな学校から近いところから登校する俺は、当然徒歩。道の端っこを歩きながら、ワイヤレスイヤホンを取り出してスマホを弄る。


 音楽アプリに目を取られていた。そのせいで、曲がり角から急接近してくる自転車に気が付かなかったのである。


 曲がり角を直進しようとした、その瞬間。


「きゃぁぁぁぁっ!?」


「うおぉっ!?」


 ガシャァァァッッッッ。


 自転車は後方。俺に当たる前にハンドル部分が電柱にぶち当たり、搭乗人がその衝撃で斜め前へ飛ぶ。


 その先にいたのが、俺だった。


 曲がり角で運命の人と、なんて話があるけれど、普通徒歩同士だろうと思った。まさか自転車で高速平行移動してきた人間魚雷に腹を撃ち抜かれる日が来るとは。


「いってて……なんだぁ……?」


「あぅ……」


 オイ運命の女神とやら。いるのなら返事をしろ。みぞおちに頭突きをかましてくる曲がり角シチュエーションなんてこの世から消してやるからよぉ。


 そんなことを考えながら、ゆっくりと起き上がる。


 俺の股の上には、女の子の顔が乗っかっていた。


「お、おい。大丈夫か?」


「う、ぅ……しゅみません。前、ちゃんと見てなくて……」


「いや、まあ俺は大丈夫だけどさ。幸い攻撃してきたのは君の頭だけだし」


 どこかで、聞き覚えのある声な気がした。


(いや、いやいやいやいやいや。流石にそんなベタな展開……)


 美しい白髪。首元まで、セミロングに届くか届かないか程度の整えられた髪が、ゆっくりと起き上がる。


 むんずっ。顔を上げた少女は、俺の目を見てフリーズする。


 綺麗な、クリンクリンの丸っこい瞳をした美少女だ。可愛い。そしてめちゃくちゃ成長しているが、一瞬で分かった。


「ゆう、し……? 勇士、なの……?」


「由那、だよな? やっぱり……」


「勇士だ! 勇士! 勇士勇士勇士っ!!」


「うぉっ!? ちょ、おまっ!?」


 ぎゅぅぅ。気づけば、熱い抱擁を受けていた。


 ぽよん、ぽよんとこちらもまた素晴らしく成長した柔らかいものがニットセーター越しに胸元に押しつけられる。


 ほわんと甘い匂いもした。これは、間違いなく由那の匂いだ。この落ち着く感じ、五年経った今でも明確に思い出せる。


 どうやら俺は、ベタベタの展開で幼なじみと再開できたらしい。運命ってのも案外馬鹿にできないな。ぶつかり方魚雷だったけど。


「えへへ、ゆーしの匂いだぁ。えへへ、えへへへっ。ゆーしぃ……」


「っ、てオイ! ここ道の真ん中だぞ!? み、見られてる!! 他の人に見られてるから!! 一旦離れろって、なっ!?」


「やぁだぁ。せっかく五年ぶりに会えたんだもんっ。もっと……堪能したいよぉ」


「堪能ってなんだよぉぉぉ!?」


 あれ、おかしい。コイツ由那だよな? 本人だよな?


 なんか俺の知ってる幼なじみじゃないんですけど。




 昔みたいにツンツンしてないどころか……俺にデレデレなんですけど???

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