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おまけ3:カーテン

 別館の、食堂のカーテンを新調することになった。

 聖女となって五年。そろそろくたびれて来たのだ。


 食堂に隣接する、厨房の主がサルドなのだから、ということで。

 エシュニーは当初、彼にカーテン選びを依頼した。しかし

「この別館の主はお嬢様ですから」

そうやんわりと押し付け──否、選定の権利を譲られたため、彼女はトーリスと共に家具屋に来ていた。

 当初は安く上げるため、手作りを念頭に置いて手芸用品店を見て回っていた。

 しかし、やはり布地の薄さが気になったため、既製品を買うことに決めたのだ。


「トーリスはどんなカーテンがいいですか?」

「カーテンとは必要なものなのか?」

「そこからか!」

 そもそも論をふっかけられ、エシュニーは額に手を当てる。

 しばしうなった末に、トーリスを諭すように言った。

「カーテンがないと、全て丸見えになってしまいますね。それに、夏場は強い日差しを遮ってくれて、冬場は冷気が入り込むのを防いでくれますよ」


 エシュニーの言葉に、感心したようにうなずくトーリス。そして、キラキラした深紅の目を、カーテンの一団へ向けた。

「布一枚だが、とても重要なのか」

「ええ。たった一枚で、ずいぶんと変わるものですよ。もちろん、部屋の雰囲気もね」

 そう笑いかけて、花柄の淡いピンクのカーテンへ手を伸ばすエシュニー。

 トーリスも彼女にならって、白い雲が描かれた空色のカーテンへ手を伸ばす。


(また青色だ)

 その事実に気付き、エシュニーは再び笑った。

「トーリスは、青色が好きなのですね」

 次いで、以前から気になっていたことを口にする。

 トーリスの端正な顔が彼女へ向けられる。そして、まばたきが数回。


「そうなのか」

「え、無自覚だったのですか?」

「あまり、考えたことがなかった」

 つぶやき、足元を見つめる。そのまま彼は続けた。

「しかし、青いものを沢山持っている気がする」

(マグカップに始まって、ノートに便せんに、最近はパジャマも青系統だもんね。そりゃそうだろう)


「やはり、親近感を覚えるのですか?」

 エシュニーがうつむきがちの顔をのぞき込むと、少し困ったように眉根が寄せられていた。母性本能をくすぐる表情である。

 つい、エシュニーは彼の頭を撫でた。


 されるがまま、トーリスはぽつりぽつり。

「分からないが、見ていると懐かしい気持ちになる」

「そりゃあ、毎日鏡を見れば青色がありますしね」

「そう言えばそうだった」

 一つにくくった、己の長髪の毛先に触れるトーリス。

「ではこの懐かしい気持ちは、母体回帰だろうか」

 が、続く言葉が意味不明である。


 しかし小難しい言葉と、情けない表情の対比が面白く、エシュニーはコロコロと笑う。

「また難しい言葉を覚えましたね」

「昨夜読んだ本に書いてあった」

 なんだかんだで、未だに書庫通いを続けている彼の頬も、エシュニーは指先で一つ撫でた。

「母体回帰というよりも、同族意識かもしれませんね。私も紫の小物を、ついつい集めてしまいますし」


 彼女のアメジストのような瞳を見つめ、納得した様子でうなずくトーリス。

「なるほど。では、カーテンは紫にしよう」

 カーテンの群れの中から、スミレ柄のカーテンを引っこ抜くトーリスへ、エシュニーは小首をかしげる。

「あら、青でもいいのですよ?」

「紫がいい。エシュニーの仲間だ」

 きっぱり言い切る彼は、少し得意げでもあった。

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