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第18話 撮影再開

(これは、なかなかすごいかも)


 頂上に近づくにつれて、視界は一気に広がり、彼方まで続く海と空が眼前に現れた。その美しさに思わず息を呑むが、次の瞬間、コースターは頂点に達し、ほんの一瞬の静寂が訪れた。


(この一瞬を写真にできたら……っ!!)


 そして、突然の重力から解放されたかのように、コースターは海に向かって急降下を始めた。彼女は反射的に目を見開き、口から歓声が漏れる。風が顔に強く吹き付け、髪が乱れるが、そんなことは気にならない。ただただ、波の上を滑るような感覚に身を任せ、全身でスリルを味わった。


「きゃあああああ!!!」


 誰かの悲鳴が響き渡る。桃花も一瞬、まるで海の中に飛び込んでいくかのような感覚に包まれたが、コースターは鋭く旋回し、再び空へと舞い上がった。周囲の歓声と、耳元で鳴り響く風の音が混ざり合い、彼女はただ夢中になってその瞬間を楽しんだ。コースの途中で、レールが海へと突き出す部分に差し掛かると、彼女は一瞬だけ視界に広がる絶景を目にした。まるで自分が空中を浮遊しているかのような感覚に浸りながら、広がる青い世界を楽しむ。その後すぐに、コースターはまた急なカーブを描き、彼女の身体は再びシートに押し付けられた。


「ふう……」


 やがてコースターはゆっくりと減速していき、最後は完全に停止した。桃花はようやく終わったのだという安堵感から大きく息を吐いたのだった。


「お疲れ様でした」


 そういって笑いかけてくれたのはアルだ。彼が差し出した手を取って立ち上がった。


「どうですか? またカフェで休憩します?」

「だ、大丈夫です! むしろなんか変な邪念が抜けて、気合が入ったって言うか! ほら、あの後ろの海のところで写真を撮りませんか?」


 きっと桃花もジェットコースターでテンションが上がってしまっていたのだろう。普段なら絶対に言わないようなことを口走ってしまったことに自分でも驚きながらも、とりあえず近くにある少し海に突き出した広場を指さした。そこは海辺にある公園のような場所で、ちょうど海面と空の境界線あたりも見える。そのコントラストがとても美しいと思ったから選んだ場所だった。

 それを見て桃花はハッと我に返った。


(しまった……!!)


いくらなんでもはしゃぎすぎてしまったかもしれない。いや、そもそも仕事の最中なのにこんな風にはしゃぐ女など嫌われても仕方がないのではないか。そう思った瞬間、一気に血の気が引いていったような気がした。


「す、すみません! 調子に乗ってしまって……!」


 慌てて頭を下げると、アルは真剣な顔をしていた。


「ふむ……本当に大丈夫そうですね」

「え?」


 そこでようやく桃花もわかった。


(もしかして、カフェの時からじっと顔を見ていたのって……)


「ジェットコースターに乗った時に、どちらなのか考えてしまったのですけど、もう先ほどの写真撮影の疲れは抜けたようですね」

「あ……」


(やっぱりばれてたんだ……恥ずかしいな……)


 そんなにわかりやすい顔をしていただろうか。そう思って自分の顔を両手で覆うと、アルの手が桃花の手に重ねられた。驚いて顔を上げると、そこには優しい笑みを浮かべた彼の顔があった。


「さあ行きましょう」


 そのまま手を引かれて歩き出すと、自然と顔が熱くなっていくのがわかる。


(どうしよう……心配されるのは、すごく嬉しいかも)


 そんな風に思う自分を誤魔化すように首を振って前を向く。


「ここでいいんですよね?」


 広場に近づくと、足元には細かく敷き詰められた石畳が続いており、歩くたびに心地よい音を立てる。広場の中央にはシンプルなベンチがいくつか設置されており、そのベンチに腰を下ろすこともできるようになっていた。

 その一つにアルが座る。

 それに桃花はうなずいた。


「はい、そんな感じで人を待っている感じで」

「わかりました」


 アルがうなずく。

 アルの少し暗い色をした髪が海風になびいている。その髪を遊ばせて、アルがわずかに俯く。俯きすぎないくらいで、軽く遠くを見据えている感じに調整する。カメラを構えてレンズ越しに彼を見つめると、ふいにアルがこちらを見た。その視線が桃花を捉えると同時にシャッターを切る。


(よしっ)


 うまく撮れたと思う。その証拠にすぐさま確認をすると、確かにちゃんと写っているように見えた。満足気にうなずいていると、アルが再び口を開いた。


「僕からもお願いしていいですか?」

「はい、なんでしょう?」


 なんだろうと思いながらも、素直に返事をすると、彼は言った。


「よかったら、空と海の境目と僕を合わせることはできますか?」

「……え?」


 突然の提案に桃花は目を瞬かせた。しかし、アルの表情は真剣だった。


「それが一番綺麗な背景なので、できますか?」

「はい。それは逆光でまた顔を隠して?」

「可能であれば、どちらも」


 アルがうなずく。それに桃花も同意して、二か所に移動しながらシャッターを切ろうと試みたが、どれもこれもやはり納得いくものは撮ることができなかった。結局あきらめてアルの元に戻ると、彼も困ったような表情を浮かべていた。


「難しいですか……」


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