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シンガポール 1回目 後編

 さて、仕事は順調に進み、今日は一日休日です。

 せっかくの休日をホテルでこもっているのはもったいない。


 それゆけ! マーライオン!


 みぱぱは地図を片手に地下鉄に乗ります。

 シンガポールの国土面積は東京23区よりも大きく、新潟市くらいの大きさです。そのなかに地下鉄が縦横無尽に走っています。車を持っていなければこの地下鉄は非常に便利です。バスもありますが、日本でもバスに乗るのが怖いみぱぱは地下鉄一択です。

 やってきましたマーライオン。

 う、うん。ライオンの頭に魚の身体の像から水が出てるね。

 インターネットで見たよりも小さいけど、三大がっかり観光地だからこんなものかな?


 よし! 次行ってみよう!

 地図を見るとマーライオンから歩いて行けるところにチャイナタウンの文字!

 長崎市に五年住んでいたみぱぱは、心躍りました。海外のチャイナタウンってどんなところだろう。肉まんやエッグタルトを食べ歩きできるかな?

 天気も良いのでお散歩気分で歩きます。

 せっかく歩くなら、細い裏道を歩いて見よう。シンガポールは治安がいいから怖くないはずだ。

 みぱぱは裏道を歩くとなんとなく中華風の古い家並みのあるところに出ました。


「あれ? 住宅街?」


 観光客などみぱぱくらいしかいません。というか、道を歩いている人はほとんどいません。

 まるで、映画のセットの中に迷い込んだ気持ちになります。長崎や横浜の中華街をイメージしていたみぱぱは驚きました。

 でも、静かで落ち着きのある町並みはただ目的無く散歩するみぱぱには心地よい所です。


 海風に背中を押されて、裏道を抜けて大通りに出ました。

 大通り沿いには小さな店が建ち並んでいます。ただし、日本の様に歩行者天国になって観光地化しているのではなく、あくまで普通の生活に根付いた店の数々です。本当の意味でのチャイナタウンです。

 みぱぱはその店の中にエッグタルトを売っている所を見つけました。

 手の平サイズのエッグタルトはサクッとした外側に内側はカスタードクリーム。甘党のみぱぱは大満足! これで目的二つ目クリア!

 注意:みぱぱは仕事でシンガポールに来ています。目的は仕事のためです。観光でもグルメツアーで来ているわけではありません(笑)


 さて、お昼ご飯は屋台で麺を食べることにしました。

 何度か屋台に来ていますが、気になっている料理がありました。

 それはラクサ。


「ラクサって何だろう。見た目との落差ラクサが大きいのかな? 見た目は赤いのが浮いているから辛そうだな。それともトヨタの高級車かな? いや、あれは四文字だった。じゃあ、運命の三女神のひとりで、ファイブスター物語のファティマかな? ああ、あれも四文字だ……思い出した! ガンダムSEEDのヒロインだ! ピンクの髪の毛に黄色の髪留めつけてる。そういえばこの赤いのも、ピンクに見えてきたな」


 長々と言いましたが、ココナッツミルクが入って、スパイスの利いた麺料理です。

 ココナッツミルクが入っているので、一口目は甘いのですが、徐々にそのスパイスの辛みが効いてきます。

 独特な風味がするので、好き嫌いが分かれそうな麺料理。

 そんなラクサを食べた後、街を散策します。


 日差しが強いシンガポール。

 冷たい緑茶でも飲みたいな~。そんな事を考えながらみぱぱが歩いていると、何やらパンを食べている女性達を見かけます。

 パンぐらいどこでも食べるだろうって? そのパンは食パンです。それもその食パンはサンドウィッチのように何かを挟んでいます。

 妙にみぱぱは気になり、その食パンの出所を探しました。

 ありました。

 屋台のおじさんが、何やら売っています。

 よく見ると、食パンに挟んでいるのはアイスクリームです。

 ホームランバーを二つほどくっつけたくらいのアイスクリームを食パンで挟んで食べています。

 アイスクリームの種類もバニラ、チョコ、ストロベリーなど色々あるようです。


「アイスクリームを食パンで挟む!?」


 そのカルチャーショックのため、みぱぱは両手を地面につきました。

 そして地面を見ながら自問自答します。買うべきか、買わざるべきか。

 普段のみぱぱなら、イケイケどんどんなのですが、すでにお昼ご飯を食べた直後です。食パンもアイスも結構なボリュームに見えます。ここで無理をするとマーライオンになりそうで、諦めました。

 この選択が後々、みぱぱを苦しめることになろうとはつゆ知らず……(ただ単に、その後、食べる機会が無い上に次にシンガポールに行ったのが二十年近く経っていたからです)


 さあ、食事のことばかりですが、テクテクと街を歩いていると、運動場が見えました。

 ちょうど歩道橋から中の様子が見えます。


「お!? 野球か~草野球なのかな? サッカーじゃなくて野球なのね……違う。こ、これは!」


 野球と見間違うスポーツと言えば世界広しと言え、一つしかありません。


 クリケット!


 競技人口はバスケットボール、サッカーに次ぐ世界三位とも、サッカーに次いで第二位とも言われる競技です。

 インドでは逆に野球が盛んでないため、あの『巨人の星』のアニメが野球からクリケットに変更されたと言う逸話を持つクリケット。

 ちなみに、みぱぱは良くルールがわかっていません。

 野球で言うところのキャッチャーの位置に三本の棒が立ててあり、ピッチャーはその棒を倒すためにボールを投げるのだとか、ピッチャーは助走をしてもいいけれど、投げる手の肘を曲げてはいけないとか、ピッチャーはワンバウンドで投げるとかくらいしかわかりません。

 ゆっくり見たいところですが、歩道橋の上ではゆっくりもできません。


 さあ、夜になり、みぱぱはお店を探します。

 なんの店かって?

 もちろん、海南鶏飯シンガポールチキンライスのお店。

 ちょっとおしゃれなお店に海南鶏飯の看板の文字。

 ワレ、モクテキチヲ、ミツケタリ。

 突撃!

 夜なのでなんの気兼ねもなくビールを頼み、ワクワクしながら料理を待ちます。

 出てきた料理は、ほんのり茶色に色づくライスの横に茹でられた皮つきチキン。

 日本のチキンライスのように真っ赤な色ではありません。そのかわり、小皿に調味料が付いてきます。見た感じチリソースとドロッとした醤油ソース。

 ゴクリとビールを流し込み、臨戦態勢になるみぱぱ。

 まずはチキンを食べます。

 うん、茹でチキン。

 次にライスを一口。

 ほんのり味が付いたライス。

 全体的に優しい味ですが、鶏好きのみぱぱ的にはオッケイです。

 チキンを調味料につけて食べると、アクセントになります。


「美味しいけど、これってカオマンガイ?」


 そう、海南鶏飯シンガポールチキンライスはタイ料理のカオマンガイとそっくりの料理なのです。

 後で調べると、小皿の調味料が違うだけで、同じだそうです。

 ちなみに鹿児島県奄美大島の鶏飯けいはんとは全く別物です。


 さあ、目的の三大料理プラスデザートも残すはあと一つ、肉骨茶バクテイのみです。


 仕事は順調に進み、今日は帰国です。

 肉骨茶? 食べるタイミングがありませんでした。

 細村さんは帰り支度をしているみぱぱに聞きました。


「みぱぱさん、飛行機って何時でしたっけ?」

「18時ですね」


 国際線の場合、二時間前に空港着で移動します。つまり16時には空港につきたいみぱぱですが、空港までどのくらいで着くのかさっぱりわかりません。


「じゃあ、16時半くらいに出ればいいかな?」

「え!? それじゃあ、遅くないですか?」

「だって、シンガポールって空港まで、どこから行っても大体三十分くらいで着くよ。出発一時間前にチェックインすれば十分だから逆算するとそんなもんじゃない?」


 そう、シンガポールは国土が狭い上に、交通網は発達しています。


「あのう。お土産も買いたいので……」

「そう? じゃあ、16時に出ようか」


 心配性のみぱぱですが、郷に入っては郷に従えです。最悪、お土産は買えなくてもいいかなと覚悟しました。


 三十分以内で空港に到着しました。

 国土が小さいというのはこういうことが、こういうところでメリットになるとは!


 そして帰国後、いつもの報告会です。


「それで? 今回のお土産は?」

「はい、これです!」


 みぱぱは袋を上司に渡しました。

 その袋にはどんぶりになみなみ入った茶色いスープの中に骨付きの肉の絵が浮かんでします。


「なにこれ?」

「なにって、シンガポールが誇る三大B級グルメのひとつ、肉骨茶の素です」


 そう、空港で肉骨茶の素が売っていたのですが、作り方がよくわからず、いまだに上司のキッチンのどこか奥深くで眠っているのでしょう。

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