シンガポール
東南アジアの小さい国。
貿易拠点の上に金融で大成功したお金持ちの国。
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「シン、シン、シンガポ~ル アウフ ブリューダ ザウフ……」
「それ、ジンギスカンの歌ですね。デンマークの時も同じことしましたよね。そろそろネタ切れですか?」
デンマーク編と同じ導入をしようとする上司に、みぱぱは容赦ないツッコミをします。
「う、腕を上げたな」
「そりゃ~もう長いですからね。それで今度行くのはシンガポールなんですか? デンマークなんですか? ジンギスカンなんですか?」
みぱぱの言葉に上司は口を開けて、まるでマーライオンのような顔になっていた。
「分かりました。シンガポールですね」
いつものように飛行機に乗って、移動します。
今回の仕事は事務仕事です。シンガポールで、入札案件があり、そのための書類を作らなければなりません。書類自体を作るのはお客さんなのですが、技術的なアドバイスが必要で、現地で打ち合わせをしながら書類を作ることになりました。
空港に行くとそこには日本人のおじさんが迎えに来てくれていました。
「こんにちは、細村です」
細村さんは、名前に反してなかなか貫禄のある体形をしています。
車に乗って事務所に移動します。
なかなかお高そうな車です。
「シンガポールはね。車は全て輸入車の上に、関税が高いから、その辺を走っている車は全部一千万円を超えるだよ」
「え!? シンガポールの人ってお金持ちなんですね」
「まあ、車は嗜好品扱いだからね。ちなみに家は割当制だよ。土地が少ないので勝手に家を建てると、土地が足りなくなるんですよ」
周りには高層マンションのようなものがいくつも立っています。
このマンション群も、政府の計画で造っているそうです。
綺麗な街並み。
みぱぱはシンガポールに来る前に聞いた話で、気になったことがありました。
「シンガポールってガムをポイ捨てしたら罰金を取られるって本当ですか?」
「なに馬鹿なこと言ってるんだい。みぱぱさん」
やはりインターネットで大げさに言っているだけだったのかと安心するみぱぱに、細村さんは言葉を続けます。
「持ってるだけで罰金だよ。ちなみにポイ捨てで罰金を取られるのは煙草もね」
なんとガムを持っているだけで罰金を科せられる国シンガポール。
ハンターハンターのヒソカなんて、罰金を払いすぎてバッキンガム宮殿を建てられるんだろうか?
まあ、煙草は吸わないし、車に乗って眠くなった時に目覚ましガムを食べるくらいしかしないみぱぱには、あまり関係ない話でした。
「そんなに厳しいんですね」
「まあ、他からどういうイメージで見られているか知らないけど、シンガポールって明るい北朝鮮だから」
「……明るい北朝鮮?」
「そう、経済的に成功した北朝鮮だよ。ほとんどのことが国がコントロールしているからね」
そんな話をしながら、車を運転する細村さんが、ちょっと困ったように言いました。
「あ! しまった。みぱぱさん、ちょっと遠回りしますね」
まあ、どの道が近いのか遠いのかすらわからないみぱぱはうなづくだけでした。
「どうかしたのですか? 事故ですか?」
「いいや。この時間、市内は渋滞緩和のために通行料金が高くなるんで、ちょっと迂回します」
「へ~そうなんですね。ちなみに料金所は見当たらないですが、どうしてるのですか?」
「ああ、ERPで自動引き落としだよ」
「なんですか? ERPって?」
「あれ? みぱぱさん、知らない? 三菱重工が開発したシステムなんだけどな? 日本にはないんだっけ?」
そう、今でこそ日本でも一般的になっているETCのシステムは、いち早くシンガポールでERPとして導入されていたのです。
ちなみにシンガポールに行った当時の日本はETCがまだ試験運用の時期なので、みぱぱはこのシンガポールのシステムを聞いてなんて近未来的な都市なんだろうと感心していました。
細村さんの事務所に到着して、打ち合わせをして、仕事を進めます。
「みぱぱさん、何か食べたいものはあるか?」
実はみぱぱ、シンガポールに行くということで、いくつか食べたいものがありました。
まず、三大B級グルメと言われる。
そして、デザートにエッグタルト。
「
そう言って細村さんが連れて行ってくれたのは、日本でいうところのフードコートのようなところです。
大きなテントのような建物の壁際にいくつも店が並び、中央にはプラスチックのチープなテーブルと椅子が置かれてあります。
お客は各々の店で食べ物を購入して、自分でテーブルに持って行って食べます。
いろいろな店をぐるりと見て回ると、ありました。フィッシュヘッドカリー!
みぱぱが注文すると、ライスはどうするかと聞かれました。
カレーとライスはセットじゃないの? とカルチャーショックを受けるみぱぱは、なんとか気持ちを立て直すとライスも注文します。
出てきましたフィッシュヘッドカリー。
カレー自体はサラサラのカレー。そしてそのカレーの中からみぱぱを睨む魚の頭。
要は魚のアラ煮のカレー味のような物です。
カレーは魚の味がしみ出して、若干和風カレーのような気がします。
そして、魚の身を食べてみます。
「うん、カレー味の魚ですね」
「まあ、そのまんまだな」
みぱぱの感想にストレートに返してくれる細村さん。
正直、二回目頼むかと言えば微妙です。
みぱぱ的にはカレーと魚が喧嘩しているように感じました。