マレーシア
大陸側の首都クアラルンプールと島側の第二都市コタキナバルが有名。
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「みぱぱさん、ちょっと一緒にマレーシアに行ってくれませんか?」
「へぇ? 私が、ですか?」
お客さんから言われてみぱぱは返事を躊躇しました。
お客さんの名前は谷口さん。ちょっと中年太りの五十才過ぎのおじさんです。
マレーシアでプレゼンテーションをするのに、技術的な質問が来ると困るので、一緒にマレーシアに行ってほしいということだった。
みぱぱがどう返事しようか考えていると、谷口さんは言葉を続けました。
「いいじゃないですか。深夜アニメを熱く語り合った仲じゃないですか~」
谷口さんは五十代なのですが、なぜか深夜アニメが好きで、何かの拍子にアニメの話が出てきました。
会社内では
しかし、どこかオタク臭が漏れ出ていたのでしょう。思わず、話に乗ってしまいました。今期のアニメはどれが面白いか。来季のアニメはどれが期待できるか。仕事の話とは別に話してしまったのです。
「航空券、宿泊費は支給してもらえるのですか?」
「当然、こちらで準備します」
「ちょっと上司と相談させてください」
そうして、みぱぱはお客である谷口さんの意向を上司に伝えました。
「プレゼンか……どのくらいの予定だ?」
「移動と向こうのエージェントとの打ち合わせも含んで二泊三日です」
「営業の一環だからそれくらいなら、いいだろう」
「あと、もう一つお願いがありまして」
「なんだ?」
「パネルを借りたいそうなんです。プレゼン材料として」
「わかった。でも気をつけるんだよ」
「何がですか?」
「え!? マレーシアと言えばマレートラとかマレーグマとかマレーハンフリーズが出るだろう」
「そんなに頻繁に出てくるんですか?」
「いや、マレだろう」
「……それ、言いたかっただけでしょう。ところでマレーハンフリーズってどんな動物なんですか? 初めて聞きましたが」
「なんだ知らないのか? アメリカギャングのアル・カポネの部下だよ。マレー・ハンフリーズ」
「……それって、マレーシア関係ないですよね」
「てへ」
みぱぱの会社には装置の説明や写真をのせたパネルが置いてあります。それとカタログでプレゼンをするということなのでした。
ちなみに谷口さんは英語が話せるので、今回みぱぱは日本語で谷口さんに説明するだけの簡単なお仕事です。
こうして、みぱぱはパネルと共に羽田空港で谷口さんと合流することになりました。
夕方、羽田空港に着いて電話をします。
テッテロリー、テッテロリー。
「はい、もしもし」
「お世話になっております。みぱぱです。今、羽田空港に着きましたが、どちらにいらっしゃいますか?」
「4階の焼き肉屋にいるからおいでよ」
「チェックインして、荷物をあずけたら行きますね」
みぱぱはチェックインを済ませて身軽になると、4階に行き、谷口さんと合流します。
そこにはすでに焼き肉を食べながら一杯やっている谷口さんともうひとり男性がいました。
白髪交じり細身のおじさん。谷口さんよりも年上に見えます。
「おー、みぱぱさん、こっちこっち。こちらは今回、一緒に行く真田さんです」
「初めまして、みぱぱです。よろしくお願いします」
「真田です。よろしくお願いいたします」
焼き肉を食べて、お酒を飲んで、親睦を深めてマレーシアに移動します。
格安航空のため、飛行機内では食事などは出ませんが、焼き肉食べてお腹いっぱいのみぱぱは移動中、ぐっすり眠っていました。
空港に到着するとタクシーで市内のホテルに移動します。
クアラルンプールは超都会です。高層ビルの数々。
普段、銀座にいるみぱぱとしてはこういう都会と言うのは結局、ブランド物の店が並んでいて、代わり映えしないという印象があります。そのため、田舎の方がその土地特有のものが残っていて好きなのですが、仕事ですので文句は言えません。
また、空港からホテルまでモノレールもありますが、パネルがあるのでタクシーで移動しました。
プレゼンは明日の予定なので、今日は予定無しのはずですが、とりあえず谷口さんの部屋に集合することになりました。
結構広い部屋なので、数人は言っても全く問題ありません。ちなみにみぱぱも同じくらい広い部屋を用意してくれました。
そこには現地のエージェントが来ています。真田さんと同じくらいの年、がっしりした体つきのアイダンさん。
アイダンさんと谷口さんはすでにビールを飲みながら何やら話をしています。
真田さんもすでに来て一杯やっています。
「みぱぱさんも飲みますか?」
「せっかくなので、いただきます」
昼間から飲むビール美味しい! じゃなくて、お付き合いでし・か・た・な・く、本当に仕方なく、ビールを飲むみぱぱ。ビール美味しい!
さて、明日の打ち合わせを行うかと思いきや、世間話をしながら酒を飲む。ただの飲み会か~いと心の中で突っ込みながらも、話を聞きます。国によって、仕事を進めるリズムは違います。ここは慣れている谷口さんに任せて、お酒を飲んでしました。
そして、夕方、お店にいってまた、飲みます。
そこには明日のプレゼンするお客さんも来ると言うことです。
プレゼン前にお客と飲む? 打ち合わせなどが終わって、親睦を深めるために一緒に食事をすると言うことはマレにありますが、その前に飲み会をするのは初めてです。マレーシアではマレではないのでしょうか?
お客は数人来て、ガンガン音楽が流れるパブのようなところで一緒に飲みます。明日の仕事の話はせずに、世間話をしながら無難にやり過ごすみぱぱ。
昼間っから飲みっぱなしのみぱぱが疲れ始めたころ、飲み会は終了しました。
こんな状態で、明日は大丈夫かと心配になったみぱぱに谷口さんが言いました。
「みぱぱさん、ごめん。明日のプレゼンは延期になった」
「え? いつにですか?」
「明日確認するけど、たぶん明後日だと思う」
明後日の夕方、帰国予定なので、明後日の昼くらいにプレゼンが始まれば恐らく間に合う。
次の日、みぱぱは上司にプレゼンが延期になったことを連絡しました。
そして、打ち合わせと言う名の飲み会が昼間っから始まります。
そして夕方、プレゼン延期の知らせ。
結局、三日ほどプレゼンは延期されました。
その間に飛行機の変更のために、ホテルを出たくらいで、みぱぱはほとんどホテルの中だったので、まったくマレーシアと言う異国に来た気がしませんでした。
ちなみに数少ない外出時に伊勢丹を見つけましたが、高級デパートに興味のないみぱぱはスルーしました。
さて、プレゼンは無事に終了しました。みぱぱがいる意味があったのかと言うくらい、スムーズに約2時間ほどで終わってしましました。
帰国のため、空港に向かいます。
谷口さんは別件があるということでマレーシアに残り、みぱぱは真田さんと二人で空港に向かいます。
昼過ぎの時間は道路が渋滞するということでモノレールに乗っての移動です。
そして、空港につくと大事件が起こりました。
パネルを荷物として預けるために大きなサランラップに巻き付けてカウンターに行きます。
「すみません、チェックインと手荷物を預けたいのですが」
「え? この飛行機の手荷物預かりの時間は終わってるわよ」
そう、手荷物預かりの時間を数分すぎていたのです。
さすがに1mもあるパネルを手荷物で機内に持ち込めません。
何とか交渉しようにも、係員はNoと言うばかりでした。
困ったみぱぱは谷口さんに電話をして、係員と話してもらいましたが、結果はNoでした。
「わかりました。みぱぱさん、空港に荷物を預かってくれるサービスがありますのでそこにパネルを預けてください。あとで僕が取りに行きます」
谷口さんがそう言ってくれたので、みぱぱは手荷物預かりセンターを探し、パネルを預けました。
そこからは交渉や手荷物預かりなどで時間を食われてしまった真田さんとみぱぱ。
なんとか出国審査を済ませて、搭乗口に走ります。
すでにファイナルボーディングのアナウンスが何度も聞こえてきます。
「みぱぱさん、はぁはぁ、先に行ってくれ」
真田さんは息も切れ切れ、みぱぱに言いました。
「わかりました!」
とりあえず搭乗口で状況を説明すれば、少し待ってもらえるはず。
みぱぱは汗だくになりながら走ります。
また、運が悪いのかたまたま搭乗口が空港の端にあります。空港自体かなり広いです。
何とか搭乗口にたどり着いたみぱぱは叫びました。
「ぷりーず、うぇいと! あなざー、わん、がい、うぃる、かむ!」
早く飛行機に乗れとせかす係員。ここでみぱぱが乗ってしまうとそのまま出発するかもしれません。
わざと搭乗口で待つみぱぱ。
少しすると、真田さんがやってきました。歩いています。
「真田さん、早く!」
みぱぱの声に走り始める真田さん。
こうして、なんとか飛行機に乗れた真田さんとみぱぱでした。
あの時の航空会社の皆さん、乗客の皆さん、本当にごめんなさい。
飛行機に乗るときは時間に余裕をもって行動しましょう。
「と言うことがあったんですよ」
みぱぱはいつもの通り、上司に報告しました。
「そうか、それでパネルはいつ帰ってくるんだ?」
「谷口さんに確認します」
みぱぱは帰国後、谷口さんに会うたびにパネルの話をしますが、今でもマレーシアの谷口さんの事務所に置かれています。