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アブダビ 後編

「マラソン大会があるので、みぱぱさんと嶋さんも参加してください」


 島の周辺約十キロメートルを走るマラソン大会。

 この島は重要度に合わせてエリアが三つに分かれます。

 通常、みぱぱ達は一番重要でない、一エリアしか移動できませんが、このときは三エリア全て解放して、マラソン大会を行います。

 商品も賞金もあります。

 どれだけマラソン大会に力を入れているのでしょうか?

 島に長くいると運動不足になるため、運動不足解消に企画されているようです。


「嶋さん、マラソンやっていますよね」


 そう、嶋さんは市民マラソン の十キロメートルに出るくらいマラソンをしていました。


「みぱぱさんも走っているって聞きましたよ」


 みぱぱは長距離が得意ですで、ダイエットのためにランニングをしていました。しかし、最近は忙しくて走っていません。


「まあ、安全靴ですし、のんびり完走狙います」

「僕は行きますよ」


 なぜかヤル気マックスオリックスの嶋さんです。

 それがあんなことになるとは、この時には誰も予想していませんでした。

 号令と共にスタートしました。

 まず島のアスリート軍団が飛び出します。

 嶋さんとみぱぱはその後ろについて行きます。

 正確に言うとアスリート軍団を追う嶋さんをみぱぱが追っています。

 マジか、嶋さん。どこで本気を出してるんだろう。

 みぱぱはそう思いながらも、苦しくなったらいつでもゆっくり走るつもりです。

 そのまま、二キロほど走ったところで嶋さんが急に失速しました。


「みぱぱさん、僕を置いて行ってください!」

「へ!?」

「俺の屍を越えてゆけ!」

「あ、ああ。頑張る」


 嶋さんがなぜ、名作RPGの名前を叫んだのかはわかりませんが、みぱぱのエンジンがかかりました。

 前の人は約五十メートル。

 必死で追いかけるみぱぱ。

 しかし、距離が縮まるどころか、後ろから抜かれてしまう始末です。

 中東の暑い気候の中、必死で走るみぱぱ。

 角を曲がって百メートルも行けば、ゴールです。もう、これ以上順位を上げるのは無理です。


「は~やっと、ゴールだ」


 みぱぱは、ほっとしながら走ります。

 ゴールの周りにいる人々から歓声が上がります。


「お、みんな、優しいな」


 そう思ったのもつかの間、後ろから一気に抜きさって行く影がひとつ。

 爆走して追い上げてきた人に対する歓声でした。

 みぱぱは最後の最後で順位を一つ落としてゴールしました。

 みぱぱは参加賞のジュースと商品券を貰って、嶋さんを待ちます。

 しばらく待っていると、最後の方にゆっくりと走ってくる嶋さん。

 なんとか完走です。

 なぜかアブダビの離島でマラソン大会に参加するみぱぱと嶋さんでした。


「嶋さん、大丈夫?」

「ちょっと足が痛いですが、大丈夫です」


 大丈夫ではありませんでした。

 次の日になっても足を痛がる嶋さん。


「嶋さん、医務室に行こうよ」

「嫌、大丈夫です」

「無理したら駄目だよ。折れてたり、ヒビが入っていたりしたら駄目だから、医務室に行っておこう」

「……わかりました」


 医務室に行くと、嶋さんはアブダビ本土へ緊急搬送されました。

 この島の医務室は応急処置くらいしか出来ないので、詳しい検査はアブダビ本土の病院で行うことになりました。

 結果けっか脚気かっけでは無く、結果は痛風でした。

 元々、痛風持ちの嶋さんは運動をしたせいか、汗をかいたせいか、痛風を発症してしまいました。

 それは痛いはずです。

 なんせ風が吹いても痛いのが痛風です。

 そしてそのまま、アブダビ本土のホテルで待機となりました。

 仕事の七十パーセントは終わっていましたので、残りはみぱぱ一人で行う事になりました。

 サポート役だったみぱぱが、メインとなってしまいました。

 カメラの付いていない携帯を借りていたため、嶋さんとは電話でやりとりをしながら、なんとか仕事を終わらせました。


 帰りも来たときと同じようにヘリコプターに乗って、アブダビ本土に戻りました。

 ホテルに戻ると嶋さんが白装束で待っていました。

 嶋さんはみぱぱに刀を渡すと、正座で腹を出して短刀を取り出します。


「みぱぱさん、介錯かいしゃくをお願いします」


 嶋さんは泣きながら切腹をしようとします。


「ちょ、ちょっと、嶋さん。止めてください。ホテルのロビーが血で汚れちゃいます」


 みぱぱが必死で止めていると、周りのアブダビ人が集まってきました。


「オー、ジャパニーズ、ハラキリ!!!」


 みんなが写真を撮り始めました。


「のー、じゃぱにーず、つうふう」


 周りの人は興味を無くしたように散り散りにどこかに行きました。


「嶋さん、僕は気にしてませんから……それよりもお土産を買いに行きましょうよ」


 来たときはアブダビで待ち時間がありましたが、帰りは翌日の飛行機で帰ります。

 みぱぱたちはお土産を買うために、近くのスーパーへ行きます。

 ここはみぱぱ達がホテルにいる間、ご飯を買いに行っていた、なじみのあるスーパーです。

 色々な物を売っていますが、基本的にアブダビは輸入品がほとんどです。

 中東といえばデーツ! デーツとはなつめやしの実です。

 これはお土産に買っていても誰も手をつけません。その上、みぱぱはモーリタニアで食べ過ぎて胸焼けを起こしましたので、パスです。

 そうすると、日本で売っていないようなチョコレートやクッキーを中心にお菓子をいくつか買います。


「嶋さん、こ、これ!」


 食料品の輸入が多いアブダビの中でも、国産品。

 ラクダのミルク。


「これ、試してみませんか?」

「僕は嫌ですよ。みぱぱさん、ひとりでどうぞ」


 みぱぱは一番容量が少ない物を買いました。


「見た目は牛乳同様真っ白だね。匂いは少し獣臭いかな? ちょっと飲んでみると、ちょっと獣臭いですけど、そんなに変な味じゃないね」

「みぱぱさん、誰に食レポしているんですか?」

「じゃあ、一気に飲んでみるね。う、胃から獣臭が上がってくる。臭い。なんかお腹がゴロゴロしてくる」

「よかった、飲まなくて。僕、牛乳でもお腹がゴロゴロするんですよ」


 次の日、みぱぱ達は空港に行って、是非買うべきお土産と勧められた物を探します。


「あった! 高級チョコレート!」

「……みぱぱさん、本当に買うんですか?」

「え!? なんで? 嶋さんは買わないの?」

「買いません。だって、この一枚で千円もするんですよ」

「でも、ここでしか買えないよ。ラクダのミルク入りチョコレートなんて」

「みぱぱさん、懲りないですね」


 みぱぱはラクダのミルク入りチョコレートを買って帰りましたが、やっぱり獣臭くて不評でした。

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