アブダビ
中東の小国。石油が取れるお金持ちの国。
~*~*~
「みぱぱ、みぱぱ、これ、知ってるか? はやっているんだろう。U,U,U」
「U・S・A かーもんべんべいべー」
「ちが~う、みぱぱは流行り物に弱いな。よく聞いてな。U,U,U、U・A・E かーもんべいびーアブダビ」
「上司、音痴ですね」
「みぱぱもな」
「お互いさまです」
みぱぱと上司はニヤリと笑い合います。
「二人とも、いーかげんにしてください!」
嶋さんがしっかり締めてくれました。
今回の出張はアブダビです。
アブダビの中でも特殊な場所へ行くみぱぱと嶋さん。
今回は嶋さんがメインで、みぱぱがサポートとなります。
エミレーツ空港の綺麗なお姉さんを堪能した後、二人はアブダビ空港へ到着します。
まずは、二人でお客さんの所に行きます。
「よーきたな。ほな、書類をわたしてや」
色黒で頭に白い布ゴトラをつけたムハマドさんが出迎えてくれます。
現場はここからヘリコプターで移動しますが、許可書が必要になります。
ムハマドさんに必要な書類を渡し、3~4日間許可待ちです。
「はい、書類はOKです。明日は九時に来てや」
許可書が出る間、ただ待っているわけではないのです。
2日ほど安全講習を受けなければなりません。
さて、次回の講習は~。
警報が鳴ったときの対処。
ヘリコプターが落ちたときの脱出方法の三本になります。
来週もまた見てくださいね。ウンガウンウン。
なんか、今日が日曜日の夕方の気分になりましたが、とりあえず次の日、講習を受けにいきます。
バスに乗って、講習会場に行く嶋さんとみぱぱ。
そこは講習専門の会社です。
みぱぱ達だけでなく他の人達もたくさん来ています。
受けつけに行き、コースを連絡します。
みぱぱ達は非常に簡易的なコースです。
「警報が鳴ったとき~」
「警報が鳴ったとき~」
二人ひと組の講師がスケッチブックを使って説明してくれます。
「みぱぱさん、アレって?」
「うん、ひとブーム終わったら、暴走族の姿でどけどけ、じゃまだ~って叫びそうだな」
警報の種類で危険度や集合場所が決まります。
そして、ある警報が鳴ると、ガス漏れです。風上に逃げるように指導されます。
次はシーサバイバルです。
アブダビ本土から現場の島までは海です。万が一、ヘリプターが海に落ちたあと、無事だったとしても、救助がいつ来るか分かりません。
その間、生き残る技を学びます。
「先生! 僕わかっちゃった。海で遭難したら、金の名刺を海にバラまいて救助のヘリコプターに助けて貰うんですよね」
「みぱぱさん、それ、あれれ? おかしいな~の奴ですよ。アブダビで通じないですよ~」
嶋さんの的確なツッコミ。
そして、華麗にスルーする講師はライフジャケットの使いかた、海での過ごし方を習います。
水中で怖いのは体温の低下です。低体温症になれば死んでしまいます。
足はクロスにして、膝裏を守ります。そして、手もクロスにして脇の下に手を入れます。
関節部分は皮膚が薄く、血管が表に近いので熱が逃げやすいのです。体温を保つ基本は血液の保温です。
他の人がいれば、肩を抱き合い、体温を保ちます。
大勢いれば、隣の人の肩を合わせて、足を内側になるように円になります。
「これって、このフォーメーションになったら、アレを歌うのかな? うぉーおお、さ、輪になって待とおう♪」
「ちょっと、みぱぱさん」
「どう? このジャニなみの歌声は」
「いや、いや、みぱぱさんは音痴ですから、静かにしてください」
嶋さんは冷たく言い放ちます。
へこむみぱぱを残して、一日目の講習が終わります。
二日目、同じように講習場へ行きます。
今回は着替えを持ってくるように言われています。
何をするかというと、ヘリコプターからの脱出方法。
ヘリコプターが海に落ちた場合、いつまでもその場にいたら溺れてしまいます。
そのため、脱出方法をそれ専用の屋内プールで学びます。
普通の服のまま、ライフジャケットを身につけてプールの脇で講師を待ちます。
「みぱぱさん、ヘリコプターが落ちたら、ドア開けて出るだけじゃないんですかね? 飛行機だってモニターで説明するだけなんだから、わざわざ濡れる思いなんかする必要は無いんじゃないんですかね?」
「ん? 今、揺れる思いって言った? ゆれ~る、思い、身体に感じて~♪」
「濡れる思いです。みぱぱさん、ザードも下手なんだから黙っててください」
みぱぱと嶋さんがアホなやりとりをしていると、講師のお兄さんが説明してくれます。
「ヘリコプターが落ちたら、慌てずに対処してください。脱出にはタイミングあり、遅すぎても速すぎても駄目ですよ。飛行機は着水してもしばらく浮かんでいますが、ヘリコプターは速やかに沈んでいきます。そうかといって早く出てしまうと、大変なことになります。何か分かりますか?」
「何だろう? さっきのザードがヒントかな?」
「みぱぱさん、なんでアブダビでザードがヒントになるんですか」
みぱぱと嶋さんはこそこそと話します。
「分からなければヒントを出します。日本の大人気Web小説『異世界に召喚された失格勇者はコンバットスーツで無双します ~魔王のことはどうでも良いが、いきなり俺を殺そうとした国王! てめえは許さねぇ!!~』の第一話です」
「あ~、誰もが知ってるあの大人気作『異世界に召喚された失格勇者はコンバットスーツで無双します ~魔王のことはどうでも良いが、いきなり俺を殺そうとした国王! てめえは許さねぇ!!~』ね」
「みぱぱさん、知ってるのですか?」
「嶋さん、知らないの? ああ、『コンバット無双』って言えば、嶋さんだって知ってるだろう」
「ああ、それなら知ってます。超面白いですよね。いきなり主人公が首を切られそうになるシーンから始まる大逆転エンターテイメントですよね」
みぱぱ作『異世界に召喚された失格勇者はコンバットスーツで無双します ~魔王のことはどうでも良いが、いきなり俺を殺そうとした国王! てめえは許さねぇ!!~』をよろしくお願いします。
「嶋さん、そうです! 着水してすぐはハネが回っているので、その時に外に出てしまうと首がすっ飛びます。ですから、ヘリコプターの中に水が満たされてから七秒経ってから外に出ます。そうするとハネは水の抵抗で完全に停止します。そして、ドアは開かない場合がありますので、このガラスの部分を外して、窓から出ます。良いですか」
「そうか、飛行機と違ってハネが回っているもんな。満水になってから七秒か。結構長いよな。嶋さん、泳ぎは大丈夫?」
「まあ、人並みには泳げます。みぱぱさんはどうですか?」
「元水泳部だけどなにか?」
「スゴイじゃないですか」
みぱぱが水泳部だったのは小学四年生の一年間だけでした。一年と言っても泳げる期間は四ヶ月程度ですし、そのうち一ヶ月ほどは怪我をしてあまり泳いでいません。実質三ヶ月の水泳部のみぱぱです。
プールに入ったみぱぱは、水面近くに準備されたヘリコプターの客席を模した箱の中に入り、椅子に座ります。
シートベルトをすると、安全のため、箱の外にはエアボンベをつけた人が待機しています。
「それじゃあ、みぱぱさん行きますよ」
みぱぱを乗せた箱はゆっくり下がります。
足下から水が上がる感覚。
安全と分かっていても、なんだかぞわぞわします。
頭まで水につかると箱は止まりました。
みぱぱは息を止めたまま、七秒数えます。
シートベルトを外して、窓のガラスを外し、外の出て行きます。
時間にして三十秒もなかったと思います。潜水で20mほど泳げるみぱぱですが、妙な緊張感で心臓がバクバク言っていました。
嶋さんも同様の訓練をします。
「次に、ヘリコプターが落ちたあとひっくり返る事があります。その時はすでにハネが着水しているので、すぐに出ても大丈夫ですよ」
同じように箱に入ると、今度は逆さまになります。
箱の動きが止まるとすぐにシートベルトをはずそうとします。しかし、ライフジャケットの浮力なのか、ひっくり返ったからなのか、上手く外せないみぱぱ。
一度落ち着いて、再度シートベルトを外すと、今度は簡単に外せました。
あとは先ほどと同じように外に脱出しました。
慌てたみぱぱとは違い、あっさりと訓練が終了する嶋さん。
最後に救命ボートに乗り込む練習をします。
足場のない水の中から、ヘリが膨らんでいるボートに乗り込むのは結構大変です。
先生があらかじめボートの中で待機します。
ボートにとりついて登ろうとするみぱぱ。しかし水で滑って上手く登れません。
先生がみぱぱの両脇を掴み、引き抜くように引き上げてくれます。
次は、嶋さんです。
嶋さんが上がれないときはみぱぱがサポートします。
しかし、あっさりと上がってしまう嶋さんでした。
若さか? それとも身長か?
嶋さんは元バレーボール部で身長が180cmあります。165cmしかないみぱぱとは大違いです。
嫉妬心に駆られたみぱぱは、ボートによじ乗ろうとする嶋さんを押して水中に落とそうとする気持ちを、グッとこらえました。