「ファー」
工場長が叫びます。
みぱぱたちはハワイのゴルフ場に来ています。
工場長はゴルフをします。林原さんは大学時代にゴルフ場アルバイトをしていたので少しは出来ます。みぱぱと嶋さんは打ちっぱなしで何回か行った程度です。
ちなみに工場長が叫んだ「ファー」とはゴルフボールが隣のコースなどに行ってしまった時、人に当たる危険があるので注意するための掛け声です。
旅の恥はかけ捨て。
この旅行のもう一つの目的。
中途採用の新工場長との交流。
工場長がゴルフをするというので、レンタルクラブでゴルフをする面々。
青々とした綺麗なゴルフ場。
柔らかい芝生。
天気は上々。ハワイの燦々と降り注ぐ太陽。
暖かい風。
ゴルフをするにはとても良い気候。
しかし、まともに飛ばないゴルフボールたち。
あきれ果てる工場長。
打数を数える余裕もありません。
ひたすら目の前のボールを叩く、みぱぱ。
初ゴルフの感想は。
「疲れた~。ゴルフ場は綺麗で気持ちいいのですが、もう、ゴルフは良いかな?」
丸一日、ゴルフをしたみぱぱは疲れ果てました。わざわざハワイまで来て何やってるんだろうと、少し後悔するみぱぱ。
「あ! クラブが1本ない!」
ゴルフを終えて、クラブの確認をする嶋さんが叫びます。
どうやらラウンドの途中で、クラブを置き忘れてしまったようです。
これからクラブを探してコースに戻るわけにもいかないので、罰金を払う嶋さん。かわいそうです。
夕方、ロビーに向かうみぱぱに向かってくるアメリカ人の男性が一人。酔っ払っているのか、なにか大きな声を出しながら歩いて来ます。たまに足を地面に踏みしめています。
その声が聞こえるくらいまで近づいて来ました。
男性はみぱぱを睨みながら言いました。
「This is USA!! This is USA!!」
ん? そうだね。ハワイはアメリカだよね。
当たり前の事を言っているアメリカ人にきょとんとするみぱぱ。
男性が通り過ぎてから、しばらくしてみぱぱは男性の言葉の本当の意味を理解しました。
日本人で一杯のハワイにアメリカ人観光客が文句を言っているのです。
ハワイは日本人の観光地ではなくアメリカ人の保養地だと言っているのです。
まるで沖縄に観光に行く中国人に文句を言っている日本人のようです。
気持ちは分からなくはないですが、ぷりぷり怒ってはせっかくの旅行が台無しですよ。
そんな気持ちのまま、みぱぱはロビーへ向かいます。
「さあ、全員そろったのでお店に行きますよ~」
みぱぱ一行が行った先はビュフェタイプのレストランです。
みぱぱ、林原さん、嶋さんは顔を見合わせます。
作戦発動!!
みぱぱは、必死で蟹を皿に盛ります。ただただ蟹を皿に取るみぱぱ。
そして蟹で一杯の皿を社長の目の前に置きます。
「社長! 蟹好きですよね。どうぞ!」
社長の目の前に献上します。
社長は無類の蟹好きです。うるさい、もとい高尚な話を封じるためには口を塞ぐに限ります。
蟹を喰う間、人は静かになる。名言です。
『Sound Only』のモノリス社長がSoundを無くすとただのモノリスです。あとは、好き放題! 飲めや歌えやの大騒ぎです。
いや~楽しい。食事会でした。
Question:会社の金で飲む酒は美味いか!
Answer:超美味しい!
静かな社長は最高です!
次の日はみんなで観光に向かいます。
「このー木、何の木気になる気になるー見たこともない木ですからー、見たこともーないー実がーなるのでしょうー♪」
「何ですか? その歌は?」
「日立の歌を知らないの? 嶋さんは世界・ふしぎ発見を見てないの?」
「ああ、なんか聞いた聞いたことがある歌詞だと思いました。でも、みぱぱさんが音痴過ぎて分かりませんでした」
みぱぱはダメージを受けて亡くなってしまった。
こうして『みぱぱのお仕事海外旅行記』は打ち切りとなったのでした。
さて、新みぱぱのお仕事海外旅行記が始まります。
「すみません。どれが日立の木ですか?」
みぱぱはガイドに聞いてみます。
「全が一で、一が全です」
なんか禅問答のような返答をするガイドさん。
数本ある日立の木。
どれがCMの木なのか、育成具合で分かりません。
人によってこれかな? と言う日立の木を見たあと、バスで移動します。
「嶋さん、アリゾナ記念館へみんなを連れて行ってくれてください。運転手に乗り換えと降りる場所を聞いてくださいね」
山下さんから嶋さんへ指令が下ります。
ハワイのバスはバス停名を言ってくれません。
おまえら、俺が言わなくても分かってるだろう。じゃあ、降りたいバス停の前で紐引きな! と言うスタイルです。
そのため、初見さんは運転手に行きたい場所を言うと降りるバス停が何番目か教えてくれます。
嶋さんが運転手に聞いて、何番目で乗り換えるかみんなに伝えます。
みんなで、バス停のカウントダウンを心の中でします。
心の中でカウントダウンが終わったみんなは、嶋さんの動向を待っています。さながら初めてのお使いです。
「いくすきゅーずみー」
嶋さんが動きました!
イエス!!
嶋さんの活躍によりみぱぱ達は戦争記念館に到着します。
プルプル。
電話が鳴ります。
林原さんの携帯電話が鳴ります。会社の電話を転送にしています。
仕事の電話だろうか?
ゴクリ。
林原さんは緊張して電話を取ります。
「もしもし、今日の弁当は何個必要ですか?」
工場で、いつも取っているお弁当屋さんから電話がかかってきたのです。
「あ、すみません。今日は弁当いりません」
「そうですか。では、また電話します。ガチャ」
「おかしいな? ハワイに来る前に休みだって連絡しておいたのにな」
習慣って怖いですね。お弁当屋さんに事前に連絡をしているのが、習慣で電話をかけてきたようです。
さて、 アリゾナ記念館を見て回るみぱぱ一行。
慰霊碑などを見て回ります。
戦争の是非はみぱぱには分かりませんが、戦争によって確実に大勢の人の命が失われます。
戦争など起こらずに平和な世界が続く事を祈るみぱぱでした。
「おー! でっかい!」
戦艦ミズーリの上で、40.6cm砲を見て思わず声を上げるみぱぱ。
青い空に向かって伸びる巨大な砲門。
「甲板にいる状態でこんなの発射されたら、鼓膜破れるよな」
なんかずれている感想を口にするみぱぱに対して、嶋さんが話しかけます。
「みぱぱさん、この戦艦ミズーリって、あの硫黄島の戦いに参加したり、湾岸戦争に参加した有名な戦艦なんですよ」
バスで自信が付いたのか、どや顔で教えてくれる嶋さんでした。
一通り観光も終わり、ロビーに集合するみぱぱ達。
明日はもう、帰国です。最後の夕飯となります。
「さあ、楽しかった社員旅行も今晩のみです」
工場長が集まったみんなに話しかけます。
これは、みんなでご飯を食べに行く流れです。
昨日は海鮮系の食べ放題の店でした。
ハワイアンの店だろうか? ステーキだろうか?
みぱぱはわくわくしながら工場長の言葉を待ちます。
「あとは自由時間で!」
工場長がそういうと各々グループを作ってエレベーターに乗り込みます。
あ! これ、やばい。タイの二の舞だ。
みぱぱは誰かが社長と山下さんに声をかけるか様子を見ます。しかし誰一人、二人に声をかけることなくロビーからいなくなってしまいました。
みぱぱがゴルフに行ったときは、別の人が二人と一緒に行動していることを知っていました。
この旅行中、二人がぼっちにならないように気にしていました。
しかし、今回みたいな突発的なグループ分けには手が打てません。
工場長はもちろん、森谷さんも林原さんも嶋さんもいなくなりました。
ロビーの椅子にぽつんと座る社長と山下さん、そして立ち尽くすみぱぱ。
「社長、どうします?」
「みぱぱ、山下。日本食を食べに行こう!」
当然社長のおごりで、それなりにお高い日本食レストラン。
しかし、なんでハワイまで来て日本料理!? しかし、みんなに置いて行かれてちょっと不機嫌な社長に意見を言えるはずもありません。みぱぱは黙ってついて行きます。
こうしてタイの社員旅行の時のようにぼっちを作る事無く、ハワイの社員旅行は終わりました。
ここで一句
社員旅行 年寄り達を ぼっちにせず