「サワディ・カップ」
今日は自由時間です。
昨日は観光地を回ったので、今日は買い物に行きます。
さて、今日は何曜日でしょうか? そう、土曜日です。
タイで土曜日に買い物に行くということは……そう、ウークエンドマーケットです。
そこは小さな露店が数多く並ぶ市場です。
色とりどりの衣服。小物が数多く並びます。木彫りや陶器のお土産の数々。
蒸し暑い気温の中、広すぎて迷ってしまうほどの露店街を、ミネラルウォーター片手に見て回るみぱぱ。
「しゃっちょうさん、そこのしゃっちょうさん。やすいよ!」
ちょっとおかしな日本語が聞こえてきます。
もろ、タイ人です、という顔のおじさんがにこやかに話しかけてきます。
「私は社長じゃないですよ」
「しゃっちょうさんじゃない? じゃあ、ぶっださん」
「そう仏陀です。横になった方が良い? ってそれはぶっだじゃなくて、部長だろう。それに部長でもないよ」
「ぶっださん、ちがう? じゃあ、ひらしゃっいんさん、ひとついかが?」
おじさんは食い下がります。
「誰が平社員だ……あ、平社員です。で、何売ってるの?」
「ガルーダあるよ。ガルーダ知ってる?」
「ああ、大将軍ガルーダだろう。知ってる知ってる」
「だれもコンバトラーVのアンドロイドの話をしていないよ。15体も試作機を作ってたら、商売あがったりだよ」
おじさんはやれやれと言った顔で俺に言いました。
「じゃあ、もしかしてビックガルーダ!?」
「もう、コンバトラーVネタは良いわ! ガルーダと言ったら神様だよ。ホラ、安くしてやるから買っていけ!」
「え? いくら?」
「ブイブイブイビクトリーで二本でどうね。日本だけに~」
「おい! 結局コンバトラーVかい! よし、買った!」
木彫りのガルーダ像を買ったみぱぱは上機嫌で他の店を回ります。
「あら、みぱぱさん、上機嫌ですね」
そこにはちょっと退屈そうな山下さんと社長がいました。
「あれ? 二人とも買い物ですか?」
「まあ、そうですね」
「他の買い物来ている人もいますよ。別のアクティビティに行ってるメンバーもいます」
「あら、そう。みんな楽しそうね」
「楽しいですよ。仕事じゃなくて海外に来れるなんて最高です!」
「その割にはクルーズでは寝てましたけどね」
「アイガー!」
「それを言うならアイヤー! でしょう」
元気がなさそうな山下さんと社長が気になりますが、海外に関してはみぱぱなんかよりもよっぽど詳しい山下さんのことです。タイなんかは来すぎて退屈なのかも知れません。
さて、お土産品も買ったみぱぱ達社員一同は夜、ホテルのロビーに集まります。
最後の夜、社員みんなでタイ舞踊とタイ料理に行きます。もちろん会社持ちです。
長椅子にみんな座ります。みぱぱの会社だけで無く、他のツアー客も多くいます。
金キラキンの衣装に身を包んだ女性達。長いつけ爪、頭には塔を乗っけています。
エキゾチックな音楽が鳴り始めて女性達は妖艶な動きで踊り始めました。
そしてテーブルには食事が並べられます。
串焼きや海鮮料理、そしてグリーンカレー。
「みぱぱ、これあげる。ここってタバコ吸えるのかな~」
森谷さんが、料理をみぱぱにくれました。
その他の人も次々とみぱぱに料理をくれます。
タイ料理と言えばパクチー。
今でこそ日本でもパクチーが一般的になり、好きな人が多いですが、当時はパクチーなど食べ慣れていません。
おじさんたちを中心にパクチーがきつい料理はみぱぱに回ってきます。
基本的に何でも食べるみぱぱは次々と料理を平らげていきます。
「みぱぱさん、これ食べますか?」
同僚の林原さんがグリーンカレーをそっと渡してきます。
「どうしたんですか?」
「辛くて食べられません」
そう、林原さん、辛いのが苦手です。
「じゃあ、いただきます」
そう言って、二人前以上の料理を食べてお腹いっぱいになったみぱぱですが、流石に食べ過ぎました。
げっぷも出ます。
「パクチー臭い」
次の日の午前中、初めての社員旅行は終わり、帰国しました。
「そういえば、山下さん、体調は大丈夫ですか? ウィークエンドマーケットで会った時、なんだか元気がなかったみたいですが」
「別に体調が悪かったわけじゃないのよ。ただ……」
「ただ、なんですか?」
「せっかくの社員旅行なのに私と社長は誰からも観光に誘われなくて、寂しかったのよ。あの時もみぱぱさんはそそくさとどこか行ってしまうし」
そう、山下さんと社長は仕事で海外に行きますが、観光ではあまり行ったことがなく、どうしていいか分からなかったようです。
その上、誰かがオプショナルツアーや観光に誘ってくれるのを待っていたそうです。
「そんなの、言ってもらわないとわからないですよ。山下さん達は海外慣れているので、自分たちでプラン立ててるもんだと思ってましたよ」
黙っていては誰もわかりませんよ。