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タイ 社員旅行 前編

 タイ

 東南アジアの国。タイガーアッパーカットで有名なムエタイの国。タイ料理も日本ではすでに一般的ですね。


~*~*~


「みぱぱよ。今日は社長から大事な話があるらしいぞ」


 上司はそう、みぱぱに不穏な雰囲気で話しかけます。


「なんでしょうね」


 社員はみんな、椅子に座って待っています。みんなを見回せる椅子には真っ黒なモノリスが置かれています。

 唐突に電気が消えて、モノリスがボゥっと光りました。


『SOUND ONLY』


 映像は出てきません。


「みんなよく集まってくれた。本日は人類保養計画タイ作戦について説明する」


 遠い本社にいる社長の声が会議室に響きます。

 ゴクリ。社員は固唾を飲んで社長の説明を聞きます。

 社長は淡々と計画を説明して、最後にこう締めくくりました。


「作戦実行期間は木曜の夜から日曜日。月曜日からは通常業務とする。以上、皆の検討を祈る」


 金曜日は会社全体をお休みにして、木曜日の夕方からタイへ社員旅行をするという話でした。


「この会社って社員旅行があったのですね」

「私も初めてだよ」


 上司も驚いているようです。


「タイか~タバコ吸えるかな~」


 社歴が長い森谷さんも驚いているようです。

 唐突に言い渡された社員旅行。これまで国内でもなかったのに、いきなり海外。

 みんな動揺が隠せません。

 別に社員旅行積立をしているわけでもありません。どうやら今期は業績が良かったので、税金に持っていかれるくらいなら社員旅行で使ってしまえという考えらしいです。

 給料上げろよ、とはみぱぱは思っていても口には出せません。


 さて、ウキウキウォッチングな準備期間が過ぎて、いざタイへ。


 木曜日、仕事を早めに終えて空港へ向かいます。

 本社組はタイの空港で合流します。

 タイのホテルに着いたのは曜日が変わっていました。

 二人一組のホテル。

 みぱぱは森谷さんとです。


「みぱぱ、飲みに行こうか。そしてタバコを吸いに行こう」

「イヤですよ。もう遅いから寝ます。おやすみなさい」


 次の日の朝、みんなで寺院周りとランチクルーズをします。

 オプショナルツアーを会社で予約しておいてくれたようです。

 このツアーも会社持ちです。よ! さすが、太っ腹会社! (ゴマすり中)


「あー! これ、見たことあります。この前に来ると身長213.5センチメートル、体重119kgでハゲで眼帯で胸に大きな傷がある男が、アイガー! アイガー! って叫びながら、波動を出して襲ってくるんですよ!」


 でっかい仏陀が横になっています。

 春麗使いだったみぱぱはテンションが上がります。


「うん、みぱぱさん。何言っているのか、わからないです」


 ゲームをしない林原さんにはストⅡネタは通じませんでした。

 王宮や寺院を見て回ります。

 石造りの寺院は長い年月で黒く汚れていたりして、歴史を感じます。

 仏像や古い建物を見て回ったみぱぱ一行は川をクルーズします。


「それでは、お昼はビュッフェなので皆さん、好き料理を取ってください」


 ガイドの合図で、料理争奪戦が始まります。

 あちらこちらで、波動拳やら、ふんふんと声が聞こえたり、バリバリと電気を発する音が聞こえてきます。

 そんな激戦をすり抜けて、お腹いっぱいになったみぱぱを襲うものがありました。

 睡魔です。

 今回の旅行のために頑張って仕事を片付けて、昨夜は寝るのも遅く、なおかつ午前中は歩き回ったみぱぱは眠気に打ち勝てませんでした。

 眠気を覚まそうと、船から川を見ますが、茶色で汚い川は見てて楽しくありません。

 素直にテーブルに突っ伏して眠ってしまうみぱぱ。


「みぱぱよ。寝てしまうとは、何ごとだ。生き返らせてやるから、もう一度観光をするんだ」


 まるで、ドラクエの王様のようなことを言うのは、海外部長の山下さんです。

 山下さんは英語がベラベラなおば……年上の女性です。


「すみません、山下さん。私の屍を超えていってください」


 みぱぱは誰がなんと言おうが眠気に逆らえませんでした。

 クルージングの半分くらい寝て過ごしたみぱぱでした。

 さて、夜ご飯はみんなで海鮮の店に行きます。

 食材をかごに入れて、会計をします。そして、料理の仕方を指定して、料理をして貰います。

 タイと言えば海老、そして蟹。

 実は社長は蟹が好物です。るんるん気分で蟹を2匹かごに入れています。

 林原さんは海老が好物。

 そして、森谷さんはタバコが好物です。

 会社支払いなのでみんな好き放題かごに入れます。海老や蟹以外にも魚なども入れていきます。


「海老フライのお客様、お待たせしまいました」


 林原さんお待ちかねの海老フライ。


「ふふふ」


 林原さん、思わず笑みがこぼれます。

 海老フライが多すぎて、彫りの深いバットに立った状態で敷き詰められて持ってきました。


「林原さん、食べきれますか?」

「ふふふ」


 不敵に笑う林原さん。

 食べきれませんでした。ごめんなさい。


「おい! どういうことだ!」


 別のテーブルで社長がお店の人に文句を言っています。


「俺は二匹しか取ってないぞ! なんで三匹来るんだ? 一匹戻せ!」


 蟹が一匹多かったようです。

 仕方なく、お店の人は不思議そうな顔で一匹引き上げました。


 美味しい海鮮を食べて、ビールを飲んで良い気分でお店から出ました。

 料理のお会計は済んでいるので、飲み物だけ個別で支払います。

 そこでみぱぱはふと、気が付きました。


「社長、さっき、一匹多いって言ってましたが、先払いなのでそのまま貰っておけば良かったんじゃないんですか?」

「も~早く言ってよ~」


 社長はここに来て気がつきました。

 そんなみぱぱと社長のやりとりを聞いた森谷さんが話に入ってきます。


「何の話? そう言えば、蟹が来なかったな~まあ、タバコが吸えれば良いか」


 どうやら森谷さんが取っていた蟹が社長の方に行っていただけのようです。そのため、ちゃんと三匹分のお金を払っていました。もったいないことをしました。それは、お店の人も不思議そうな顔をするはずです。

 ごちそうさまでした。こちらを見るお店の人はまるでそう言っているように見えたみぱぱでありました。


 ホテルに戻ったみぱぱ達は夜の街に遊びに行こうと言う話になりました。

 ホテルを出て、通りに出るとトゥクトゥクが何台もホテルの客を待ち受けていました。

 そこはなぜか街灯のほとんど無い真っ暗な道。トゥクトゥクのおじさん達は何か手にカタログっぽい物を持っています。


「なんか怖いですね。どうします?」

「止めましょうか?」

「ホテルでタバコを吸おう」


 みんなそのなんとなく怪しげな様子にびびってホテルに戻りました。

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