ベトナム
ベトナム戦争でアメリカに勝った国。南北に細長く、海岸線が長い地形。
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「おい、みぱぱ。ベトナムの仕事が取れたのは知ってるな」
「はい、宮本さんが十年以上営業しててやっと実現したんですよね」
宮本さんはベトナムを中心に活動している個人商社。みぱぱの会社とは二十年以上の付き合い。
しかし、ベトナムという国は貧乏なのでなかなか金額的に折り合いつかず、受注までいきませんでした。
「そうだ、今回は国の支援でなんとか受注できた。これを足がかりにベトナムも増やして行くぞ!」
「そうですね。あのあたり少ないですもんね。で、そんな話をするために私を呼んだのですか?」
「いやいやこれから本題だ。設置前に現地調査に行ってくれ」
「いいですが、ベトナムのどこですか? ハノイですか? ホーチミンですか?」
ベトナムは北のハノイは首都で、南のホーチミンは昔のサイゴン。南北の二大都市です。
「ああ、ダナンだよ」
「ヨーグルト?」
「それはダノン、ダノンはフランスの企業だよ」
「あ、フランスでいいです」
「うるせぇ、とっととハム太郎! 走ってダナンへ行け!」
ダナンは、ベトナムの真ん中くらいにある都市です。
ハノイ、ホーチミンに次ぐ第三の都市として発達途中だそうです。
夕方、到着したみぱぱはホテルにチェックインすると、早速夕飯を食べに街に出ます。
夜のダナン。
誰もいません。
片側二車線の大きな通りだと思うのですが、店らしい店もない、背の低い古い建物はあるのですが、どこも閉まっています。
たまに、バイクが通るくらいです。
え! まだ21時過ぎなのに人通りがない。もしかしてベトナムって夜は出歩いちゃ駄目なの?
携帯の地図を見ながら店がありそうな通り目指して歩きます。
やっと見つけた店は東南アジアによくある入り口にドアなど無いオープンな店に、チープなプラスチックのテーブルと椅子の海鮮の店。
やっぱり、ベトナムって田舎なんだな~と一日目終了。
朝、車が迎えに来て現場へ出発です。
さすがに朝は人が多いです。車よりもバイクが非常に多いです。
バイク達はどこに行くのか分かりませんが、みぱぱ達は郊外へ向かいます。
ホテルがあった所はそれなりに街でしたが、現場は緑の多い田舎。
道路の両端に掘っ立て小屋がぽつりぽつりと見えます。そしてしばらく行くと学校のような建物に車は入っていきます。
学校のような物ではありません。学校です。ただの学校ではありません。
職業訓練校です。
溶接の練習、ミシンの使い方など、手に職を付ける学校です。
日本の援助で溶接機やミシン、自家発電機などがありました。
水のタンクもステンレス製のピカピカのがありました。
しかし肝心の入れる水が汚れていては意味がありません。
その水を綺麗にするのがみぱぱの会社の機械です。
まずは打ち合わせを行います。
打ち合わせ相手は校長先生。なんか新鮮です。
「こんにちは、私の名前はウチョウです。父がダイ・ウチョウで、私がコ・ウチョウです」
「どうも、初めまして、みぱぱです」
「ほ~う、お父さんがみぱで、あなたがみぱぱ、するとお子さんはみぱぱぱですかね?」
「いえ、逆です。子供がみぱで、そのパパなので、みぱぱです」
さらっとみぱぱの名前の由来を挟みながら、打ち合わせが始まりました。
人当たりのよさそうなおじさん校長と学校の設備担当のおじさん、こちらは商社の林さんとみぱぱの四人で打ち合わせを行いました。
図面を見ながら装置の概要と問題点の確認。
さっそく、打ち合わせした建物の隣の設置予定場所に移動して、装置が入るか確認します。
「雨風がなるべく防げるところがいいんですよね」
「そうですね。その方が装置が長持ちしますよ」
「それでは、ここですね」
「ここですか?」
「そう、CoCo
なぜに、ベトナムの校長先生が日本のカレー屋さんを知っているのかは不明ですが、校長先生が指さした先は駐車場でした。それも整理のされていない。物置のような。
「この荷物は……」
「片付けるから、だいじょうぶだぁ~。アイーン」
設備担当のおじさんが志村けんの物まねをしながら太鼓判を押してくれました。
「わかりました。それで処理水はそこのステンレスの水槽ですよね。原水はどこから来ますか?」
「じゃあ、その水槽も見に行きましょう」
そう言って一行が移動したのは先ほど打ち合わせした建物に戻ります。
そして二階に上がり、屋上へ。
へ!? 屋上!?
柵のない屋上に設備担当の志村けんが上がっていきます。
「みぱぱさんもどうぞ」
高所恐怖症のみぱぱは、しり込みします。
「柵、無いんですよね」
「無いけど、だいじょうぶだぁ~。アイーン」
みぱぱは何とか上ると、なるべく端に行かないようにして水槽に近づき、水槽の状態と配管を確認してそそくさと降りていきました。
「じゃあ、お昼ご飯にしようか」
まだ、11時を過ぎたころですが、切りが良かったのでしょう。お昼にすることにしました。
みんな、車に乗ってちょっと行ったところのローカル屋台。
さて、ベトナム料理と言えば何でしょうか?
生春巻き? バインミー (ベトナム風サンドウィッチ)?
いえいえ、フォーでしょう。
まあ、フォーは有名ですよね。
サイコガンダムに乗って現れた時には衝撃的でしたね。え!? それはフォウ・ムラサメだって?
フォーとはお米で作った麺に牛のだし。あっさりとしたヌードル。
実はみぱぱはそんなにフォーは好きではありません。しかし本場のフォーは……うん、まあ、普通。
多分、日本で食べるのとそんなに変わりません。
さて、お腹がいっぱいになった一行は学校に戻り、打ち合わせを続ける……と思うでしょう。違います。
みぱぱ一行はこじゃれたカフェに行きました。
え!? ベトナムにこんなおしゃれなカフェがあったんだ。そんな失礼な事を考えているみぱぱ。
店には手入れされた庭があり、そこに装飾された丸テーブルにはパラソルがついていて、きつい日差しを和らげてくれます。
「みぱぱはアイスか? ホットか?」
赤いきつねか? 緑のたぬきか? のように聞いてくる商社の林さん。
「何がですか?」
「コーヒーだよ」
みぱぱ、ピーンチ!
みぱぱはコーヒーが飲めません。厳密に言うと飲めますが、嫌いです。できれば飲みたくありません。
「コーヒー以外にありますか?」
「紅茶もあるよ」
「あいすてぃー、ぷりーず!」
みぱぱは背の高いグラスに注がれた琥珀色の紅茶。中の氷が暑い日差しを浴びてきらめいています。
「落ち着く~。林さん、そのコーヒーのそこに入ってるのは何ですか?」
同じように背の高い氷の入ったグラスは白と黒のツートンカラーになっています。白い部分は底に少しですが、真っ黒なコーヒーとのコントラストが綺麗です。
「ああ、これ? 練乳だよ。ベトナムのコーヒーは見ての通り、濃く入れるから練乳で甘くして飲むんだよ。ベトナム人って甘いのが好きだからね」
見た目だけでもわかるコーヒーの濃さ。
甘いのが好きならコーヒーも薄く入れればいいのにと思うみぱぱでしたが、ベトナムはそういう文化だそうです。
そういえば、中東に行ったとき出されるミルクティー (ホット)も牛乳ではなく練乳でした。
さて、夏の風に吹かれながら、食後のティータイムが終わり、一行が学校に戻った時はすでに14時を回っていました。
ちょっとみんな、のんびりしすぎじゃない?
そんな風にお昼休みが終わり、電気の関係や基礎工事の打ち合わせをして、お仕事終了です。
「みぱぱさん、明日の朝、帰国ですよね。夜、一緒に食事に行きましょう」
林さんが食事に誘ってくれました。
すでにスマフォを持っているので、地図で店の場所を教えてもらうと、ホテルから歩いて30分もかからないところでした。
「これくらいだったら、散歩がてら歩いて行きますよ」
「じゃあ、7時くらいに店で。迷ったら携帯に電話ください」
ホテルに戻って、準備をして店に向かうみぱぱ。
「あれ?」
店に向かう途中から、栄えたところに出てきます。近代的な建物が多く立ち並び、観光客らしき人々も多くみられます。
どうやら、たまたまみぱぱが泊ったあたりが街の外れたところにあっただけのようです。
待ち合わせの店は川沿いの綺麗な近代的なレストラン。
林さんと合流して、まずは乾杯。
「結構、このあたりは白人多いですね」
みぱぱは店の近くに来てまず気になったと事を聞いてみます。
「そうですね。ダナンは観光地ですからね」
「え! そうなんですか? みんなどんなところに行くんですか?」
「海ですよ。ダナンはベトナムの沖縄ですよ。今は暗いから分からないですが」
「今の時間に見える観光地はありますか?」
「ああ、それなら、ほら」
林さんは橋を指さしました。
「橋ですね」
「あれはドラゴンブリッジですよ。よく見てみると、ほら龍がいるでしょう」
よく見ると大きな橋にうねるようにくっついている巨大な龍がいます。
「あれが、土日になると火を噴くんですよ」
「火を?」
「そう、火の呼吸、壱ノ型、
「ちょっとちょっと、火の呼吸はないですよ。炎の呼吸か、日の呼吸ですよ」
「じゃあ、龍の呼吸、壱ノ型……」
「いや、もういいです」
そんなダナンを後にして、みぱぱは帰国しました。
さて、恒例の上司への報告会です。
「ベトナムはどうだった?」
「現場は田舎ですが、ダナン自体は結構、都会です」
その後、別の社員が試運転に行って、無事にベトナム1号機は導入しましたが、その後、2号機が未だに決まっていないベトナムでした。