アルジェリア
北アフリカ。サッカーが強いようですがそれ以外、イマイチよく分からない国。
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「ちょっと、アルジェリアに行ってくれ」
「良いですけど、アルジェリアって北アフリカですよね。どこ経由ですか?」
イタリア来い、イタリア来い! 以前、フランス経由で行った上、同僚がイタリア経由でリビアに行って、イタリアの良さを聞かされています。『ARIA』や『王様の仕立屋』で勝手なイタリアブームになっているみぱぱは心の中で祈っていました。
「あ!? フランス経由だよ。みぱぱは以前もパリ経由で行ったから慣れてて良いだろう」
おいおい、上司よ。あんたは何も分かってないよ。分かってない! そんなことで部下の心をつかめると思うなよ。頑張れ管理職!
「そうですね。分かりました」
みぱぱはにっこり笑って了承しました。
「ああ、それから今回はS社の人と一緒に行ってもらうから」
S社の古村さんと成田空港で合流して飛行機に乗ります。このあたりは『フランス トランジット アルジェリア往路』を読んでください。
パリを経由して、アルジェリアの現場に入りました。
現場に入るなり、アルジェリア軍の鬼軍曹が待っていました。
「よく来たな、ひょっこども! これから私に話しかけるときは最初と最後にサーを付けろ。いいな!」
「サー! イエス、サー!」
「アルジェリアは危険な土地だ! テロリストがいる。お前達日本人を誘拐して身代金を要求してくる。それを防ぐために俺たち特攻野郎Aチームがいる。いいな!」
「サー! イエス、サー! ってこんな砂漠しかないところにテロリストが出るんですか?」
みぱぱは飛行機から見た地形を思い出していた。
見渡す限りの砂漠に一本の道路。
こんな所に来るよりも街中の方にいるんじゃないだろうか?
「俺たちがいるからそう簡単には襲ってこない。しかし、備えあれば憂い無し。よし! 今から走るぞ」
「サー! イエス、サー!」
みぱぱ達は教官と一緒に走り始めた。
「ファミコンウォーズがで~たぞ~!」
「ファミコンウォーズがで~たぞ~!」
「……」
「こいつは、どえらいシミュレーション!」
「こいつは、どえらいシミュレーション!」
「……」
「のめり込める!」
「のめり込める!」
「……」
「のめり込める!」
「のめり込める!」
「……」
「かぁちゃん達には内緒だぞ!」
「かぁちゃん達には内緒だぞ!」
「ちょっと、待つっス。なんっスか、そのかけ声は!?」
一緒に走っていた古村さんが急に叫び声を上げた。
「え!? 何って、軍隊式で走る時はファミコンウォーズの歌を歌うのが全世界共通だろう?」
「なんっスか、そのファミコンウォーズって」
「……え!?」
「……え!?」
二十代の古村さんにはファミコンウォーズが分からないようです。世の中は広いと思い知らされたみぱぱでした。
キャンプから現場まで約2キロメートルくらいですが、みんな、数台のバスで移動します。その際、必ずアーミーエスコートが無いとバスは出発しません。アーミーエスコートとは軍隊がバスの一団の前後を護衛する事を指します。
朝、キャンプから現場に移動し、お昼にキャンプに帰ってきます。お昼ご飯を食べて、また、現場に行きます。
その移動の全てが軍隊の護衛付きです。軍隊がいないと移動も出来ません。
これだけ聞くと非常に危険なように思えますが、そもそも道路に車があまり通っていません。
それ以外は現場関係者しかいません。
本当に軍隊なんかいるのかな? と不思議に思うほど平和でした。
しかし、そんな平和はすぐに崩れました。
いつものようにお昼ご飯が終わって現場に戻っていると、そこには誰もいません。
みぱぱは嫌な予感がしました。
現地の人のまとめ役に電話をします。
プルプルプル、エルピー、プル。
「おーい、ジョージか? なんで誰も現場にいないの? 午後から休みだったっけ?」
「U・S・A!」
「は!?」
ジョージはいきなり、カーモンベイビーのU・S・Aと叫びました。
なんでここにアメリカが出てくるんだ? みぱぱはジョージの言葉を待ちます
「アルジェリア・バーサス・USA!」
アルジェリア対アメリカ!?
バーサスと言うことはアルジェリアとアメリカが戦う!? 戦争? アルジェリアってそんなにアメリカと仲が悪かったのか?
国外避難は可能なのであろうか?
そんなみぱぱの考えを、粉々に砕くジョージの言葉が続きます。
「ワールドカップ! アルジェリア・バーサス・USA!」
あ~、そう言えばサッカーのワールドカップ予選やってたな。アルジェリアとアメリカで勝った方が、本戦出場だったな。アルジェリアにとって、世紀の一戦って奴だな。ある意味、戦争か~。
「オッケー! 終わったら帰ってきてね」
「サンキュー!」
最低でも90分はヒマになりました。恐らくいろいろあって最低でも2時間は帰ってこないだろう。
キャンプに戻ってゆっくりしたいところですが、バスが出ない限り帰れません。
仕方が無いので、人気の無い現場をぐるぐると散歩をして時間を潰すしかなかったみぱぱでした。
いつもの人の声や車、重機でうるさい現場は、誰もいない静かな砂漠。
こうなると据え付け途中の機械達は、まるで廃墟のようでした。
実はみぱぱはこういう風景が好きなのです。
昔、観光地化される前の長崎市の軍艦島に行ったときも、その廃墟のわくわくしていました。
そんなことをしていると、夕方になり、ジョージを初めアルジェリアの人々が帰ってきました。肩を落として。
「ジョージ、残念だったな。今日は仕事にならないだろうから、明日からまた頑張ろう」
「サンキュー、みぱぱ」
そしてジョージの涙はタクラマカン砂漠に吸い込まれていったのだった。
そんなサッカー大好きアルジェリア人ですが、意外と真面目に仕事をしてくれました。
おかげで、特に危険なこともなく、仕事は順調に終わり、みぱぱはアルジェリアを発つことになりました。
「古村さんは帰らないんですか?」
日本から一緒に来た古村さんに声をかけました。
「ボクはまだ帰れないっス。ファミコンウォーズの歌を完璧に歌えないと帰れないみたいんっス」
「そうか、大変ですね。頑張ってくださいね」
「『ポケモン言えるかな?』だったら完璧なんっスけどね」
『ポケモン言えるかな?』だったらみぱぱが居残り決定でした。ファミコンウォーズで良かった。
そんな、古村さんをアルジェリアに置き去りにしてみぱぱは一人、帰国の途につきました。このあたりは『フランス トランジット アルジェリア復路』を読んでください。
装置は順調に稼働して、たまに部品などの注文の連絡が来る日々が続きました。
そして三年もしないうちに『アルジェリア人質事件』が起きました。
みぱぱが行った現場とは離れていますが、同じアルジェリアです。
本当にアルジェリアは危険な土地だったのです。みぱぱはスリランカの洪水以来、非常に多いな衝撃を受けました。
アルジェリア人質事件の被害者のご冥福をお祈りしております。