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スリランカ

 スリランカ

 インドの南東に位置する島国。その南にはモルジブがあります。

~*~*~

「みぱぱよ。動物は好きか?」

「ええ、どちらかと言うと好きな方ですが? なぜですか?」

「今回は国立公園サファリパークだからだよ」

「富士ですか? 行ったことがありますよ。ライオンがやる気なさそうに寝そべってこっちみてるだけですよね」

「そんな楽しい所にお前を行かせるか! スリランカだよ。スリランカ。ちなみにライオンがやる気なくて刺激的じゃないというなら、言っとくけど、北部にはテロ組織がいるから刺激的な旅になるぜ~」(現在、スリランカ政府は北部過激派と和解して安全という情報を聞いております)

 そんな上司の不穏な言葉をいただいたみぱぱは、シンガポール経由でスリランカ、コロンボ国際空港へ到着。

 お迎えの車に乗っていざ、国立公園へ出発しました。距離約150kmの車の旅です。

 高速道路などなく、ひたすら下道を走ります。

「あと数年後に来てくれたら、高速道路ができてスムーズに行けるんだけどな」

「そうなんですね。びくびく。ちなみにテロ組織って活発に活動しているのですか?」

「過激派のことか? あいつらがいるのは北部だよ。俺たちが行くのは南部だから問題ないよ。おっとロケットランチャーが飛んで来やがった、そんなもんに当たるかよ」(ロケットランチャーなど飛んで来ません)

 こくごく平和に、順調に車の旅は続きます。

 結構、田舎を走ったかと思うと街中を抜け、また田舎道へと走ります。

 道路は舗装されているところもあれば、そうでもないところもありました。

 昭和の日本を思い出すような穏やかな田舎道をひたすら走ります。

「よし、ここでお昼にするぞ。食べ物はお金を出すが、アルコールは自腹で払ってくれ」

「昼間っから、お酒を飲みませんよ。あれ? 運転手さんはどこへ?」

「おれか? 俺の飯は別だから、一時間もしたら戻ってくるから、ゆっくり食べてな。おっと、手りゅう弾だ。誰だよ、こんなところにピンを抜いた手りゅう弾を置きっぱなしにしたやつは」(手りゅう弾など見かけません)

 みぱぱは海が見えるきれいなレストランに一人取り残されました。

 メニューを見てもどれを選んでいいのかわかりません。

 こういう時は、鉄板メニューで攻めます。

「はんばーがー、ぷりーず」

「ふぁっとかいんどおぶびあ?」

「いや、ビール飲まないって」

 いや、飲んでおけばよかったです。

 レストランで一人、静かに海を眺めていました。

 涼しい海風が潮の匂いを運んで、ゆっくりとした時間が流れます。

 そして出てきたハンバーガーは直径15センチはありそうな大きなハンバーガー。日本のハンバーガーのようにキムタクが片手で持てるようなサイズじゃありません。崩れないように真ん中に長いピックがさしてあります。その横に山盛りのフライドポテト。

 出来立てのハンバーガーを、両手で持って、口の横にケチャップをつけながらが、ほお張るみぱぱ。ナイフとフォークがありましたが、ここは手に持って食べるのが美味しい。

「風が語りかけます。うまい、うますぎる」

 みぱぱは思わず、棟方志功ばりに呟きました。

 しっかりとしたバンズ、肉汁たっぷりハンバーグ、チーズに野菜。食べ終わるまでハンバーガーが手放せませんでした。

 そして、熱々で塩の良く効いたフライドポテト。ケチャップもちょっとつけて次々に口に消えていきました。

 やっぱりビールたのんでおけば、よかった。いやいやまだ仕事も始まっていないのに、お酒なんて飲んでられない。

 帰りにのもーっと。

 お腹いっぱいになったみぱぱ一行は、国立公園へ向かおうとして、渋滞にハマってしまいます。

 街中とはいえ、まだ昼過ぎ渋滞に早いのでは? と思って前を見ると、渋滞の原因は人でした。

 道いっぱいの人だかり。

 その人たちは何やら旗を持っています。

 濃い青色に手のマークと濃い緑色に象のマークの二つの旗でした。

「サッカーの試合でもやっているのですか?」

「いや、ちょうど選挙が近いから、選挙運動してるんだよ」

「え!? でも、政党名なんて書いてないじゃないですか?」

「ああ、文字が読めない連中もいるから、絵と色で政党が分かるようになってるんだよ。お手てさんチームとゾウさんチームにね」

 日本の場合、文字が読めないという人はほとんどいません。そのため、文字や人物の写真で選挙活動をしますが、文盲者がそれなりにいるスリランカでは、色や絵で政党を分けているそうです。

 実際、投票もチェックマークで政党が色と絵で分かるようになっているそうです。

 そんな、選挙活動を横目に、みぱぱたちは目的地の国立公園へ到着しました。  

 ヨーロッパやアメリカなどからもお客が来る国立公園はホテルも併設しているため、そこの水処理装置の据え付け指導と試運転です。

 いざ、仕事となりましたがここのスタッフ優秀です。

 順調に仕事が進み、日曜日になりました。

 日曜日はお休みです。

「みぱぱ、日曜日はどうする?」

「別に何も考えて無いですよ」

「じゃあ、街に行こうか」

「ありがとう。ナーラカさん」

 ナーラカさんに連れられて、街に観光。と言ってもあまり街で見る物はあまりありません。

 スリランカで見るものは、寺院。

 スリランカは仏教は半数以上です。

 それもそのはず、仏陀がインドからスリランカに三回来たらしいのです。

 掘っ立て小屋があちらこちらに見えるような、決して綺麗な町並みとは言えないのですが、寺院は綺麗です。

 タイなどの寺院に似ています。(恐らくスリランカの方が古いのでしょうが、みぱぱはスリランカより前にタイに行っているため、このような感想になります)

 綺麗な花びらや果物が所狭しとお供えされています。

「スリランカの人は敬虔な仏教徒だな」

 思わずみぱぱがつぶやいてしまうような美しい風景でした。

 そんなスリランカで順調に仕事は終わりました。

 後はフリータイム!!

「みぱぱ、サファリツアーに行ってきて良いぞ」

「いいの? やった! サンキュー、ナーラカさん」

 観光客と一緒にジープに乗ってサファリツアーへ出発。

 家族連れやカップルなど、ヨーロッパ、アメリカ系のお客のなかに一人紛れ込むみぱぱ。

 日本のサファリパークの車と違って、こちらのジープはガードがなく、結構オープンです。怖いです。

 そして中に入るときはゲートがあるのですが、国立公園内には仕切りはありません。

 舗装されていない道を走るジープ。

 動物たちも気まぐれなので、見つけられない可能性もあります。

 運転手は無線を使いながら、いまどこにどんな動物がいるかの情報を共有しながら、お客を運びます。

 スリランカヒョウが有名らしいのですが、夜行性なため、みぱぱが行った昼間には見つけられませんでした。

 代わりにいたのがゾウ。

 え~ゾウなんて、日本の動物園にだっているじゃないかと思った、そこのあなた。

 ええ、ゾウなんてどこの動物園にもいます。

 しかし、ジープを追いかけて威嚇するゾウを見たことがありますか?

「お客さん、やっべーです。なんか、気が立ってるゾ~ウ。こっちに走ってくるゾ~ウ。しっかり捕まってくださいね、いったん距離を取りますゾ~ウ」

 何がゾウの逆鱗に触れたのか分かりませんが、見た目は小走りな感じなのですが、あの巨体が走ってきます。

「怖い。あの、優しいゾウに戻ってくれ」

 みぱぱはビクビクしていましたが、他のお客は楽天的なのか仲間同士できゃっきゃ、きゃっきゃと騒いでいました。

 ゾウこえーよ。

 次の日もお休みです。

「みぱぱ、今日はハイキングに行ってみたらどうだ?」

 ハイキングと言うことは徒歩か。徒歩なら危険な動物もいないところを行くのだろうな。

「いいですね。今日はハイキングにします」

 このハイキング、みぱぱさん大恥をかきます。

 ハイキングの参加者は、みぱぱのほかはアメリカ人の老夫婦でした。

 ガイドに連れられて暑さ和らぐ木陰を歩いて行きます。

 みぱぱは、老夫婦と楽しく話をしながら歩いて行きます。

「あら~日本から来たのね。大変ね。飴ちゃん食べる?」

「あ、ありがとうございます。アメリカからここはまで遠かったでしょう」

「ええ、でも私たち、あっちこっち旅行しているからこれくらい大丈夫よ。飴ちゃん食べる?」

「ありがとうございます。へ~旅行好きなんですね。私も結構、あっちこっち行きましたよ。仕事でしたけど」

「そうなのね。仕事なの。大変ね。飴ちゃん食べる?」

「ありがとうございます。ところで、今まで行ったところで、オススメというか印象に残った所はどこですか?」

「そうね~色々行ったけど、”ぐらんきゃのん”が印象的だったわね。飴ちゃん食べる?」

「ありがとうございます。ぐらんきゃのんですか?」

「そうよ、あら? 知らない? 結構有名と思うけど?」

 人が良さそうなおばあちゃんは不思議そうな顔でみぱぱに飴を差し出していました。

 みぱぱはニワトリよりも小さな脳みそをフル回転して、『ぐらんきゃのん』を検索してみた。

「すみません。知りませんね。いいとこなんですか」

「いい所よ。あなたも機会があれば一度、行ってみるといいわよ」

 そして、話は老夫婦の孫の話になり、どんどん歩いて行きます。

 しかし、みぱぱはずっと『ぐらんきゃのん』のことを考えていました。

 あ! ついにみぱぱは、気がつきました。

 皆さん、分かりましたか?

 答えは「グランド・キャニオン」。

 切り立った崖などで有名な荒野のイメージで有名なグランド・キャニオン。こちらも国立公園です。

 そりゃ~グランド・キャニオンを知らないって言うと不思議な顔をされるに決まっています。

 しかし、グランド・キャニオンの話が出てから五分以上経っています。

 会話はキャッチボール。流れる川のように話題も流れています。お互いキャッチボールのタイミングで話さないと楽しくない。

 みぱぱはすぐに思い出さなかったことを後悔しました。

 アメリカ人~!! 発音が良すぎるんだよ~!! エセ英語をしか使えないみぱぱには結構つらかったです。(それでも、比較的やさしい英語で話してくれていたのですが、それでも聞き取れないみぱぱでした)

 さて、仕事も順調。国立公園も堪能したみぱぱが、スリランカを離れる日が来ました。

「みぱぱ、お土産だ。日本に持って帰りな」

 現場を離れるみぱぱにナーラカさんは国立公園の帽子とジャケットをくれました。

「ありがとう。ナーラカさん、何かあったらメールで連絡くださいね。メールで。メールでだからね」

 電話ではテンパってしまうみぱぱはメールで連絡してもらうように念を押しました。

 すごくよくしてくれたナーラカさんとのお別れです。

 みぱぱは帰国して、装置も順調なのか、特にナーラカさんから連絡もありませんでした。

 そして、起こったのです。

 インドネシア・スマトラ沖地震が原因の津波が。

 スリランカ南東にある国立公園はモロに津波の被害を受けました。

 しばらくして、装置が水没したとホテルの支配人からメールが来ました。

 スタッフも大勢、津波にのまれたそうです。その中にナーラカさんも含まれていたそうです。

 津波で亡くなった国立公園のスタッフのご冥福をお祈りしております。

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