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キリバス

 キリバス

 太平洋の島国。一番に2000年を迎える国で有名になりました。

~*~*~

「おーい、みぱぱくん。キリバスに行きたいか~!!」

「いえ、別に? 仕事ですか?」

「ちょっと、ノリが悪くないかね?」

「そのノリに乗ったら、成田空港でクイズに間違えて戻されそうだから、結構です。それで、どんな仕事ですか?」

「う、うん。据え付け指導と試運転なんだけど」

 しょんぼりした上司を放っておいて、成田からフィジー経由でキリバスへ入国。

 まあ、国際空港ですが、国内空港のないキリバスは簡単に入国できました。

 太陽の光と潮のかおり満載のキリバス。

 空港からタクシーで一度ホテルへ。

 キリバスという国は、場所によっては道路の右も左も海が見える細長い領土です。

 くの字に待っている曲がり角に空港があり、ホテルまで約10キロ。

 古いタクシーで向かう途中、地球温暖化を体験しました。

 満潮時だったのか、途中の道路が水浸し、海水まみれ、波の満ち潮引き潮で海水が満ち引きしていました。

「ああ、いつもの事じゃ、気にするでない」

「そうなんですね。キリバスではもう当たり前の風景なんですね」

 タクシーの運転手は慣れたもので、気にするみぱぱにそう語りかけてくれました。

 地球温暖化で海面上昇が当たり前なのか。日本にいると本当に海面が上昇しているのか実感が湧かないみぱぱも、海抜の低い国に来るとはからずも実感してしまいます。

 そんなことを考えながら進んでいると、道路の途中で急にタクシーは止まりました。

 運転手のおじさんはおもむろに車から降りると、前輪のタイヤのナットを締め始めました。

「ナットが緩んでたのですか? 大丈夫ですか?」

「ああ、いつもの事じゃ、気にするでない」

「おい! そこはいつもの事じゃ気にするぞ。本当に大丈夫か?」

 みぱぱの心配をよそに、タクシーは無事にホテルに着きました。

 ホテルと言っても、一階が食堂になっていて、二階以上が宿泊施設になっています。

 みぱぱがホテルに入り、声をかけると奥から返事がありました。

 コケコッコー! クックルルドゥー!

 ニワトリがうるさく鳴いていました。

「あー、はいはい、お客さんね。食事? 宿泊? それとも、あ・た・し?」

 奥からでっぷりとしたおばちゃんが出てきました。

「宿泊です。予約してあるみぱぱです。よろしくお願いします」

「はいはい、それじゃあ、これに名前書いてね。鍵どうぞ」

 みぱぱが部屋に入ると、そこにはベッド、机と椅子、シャワー、洗面所にトイレと大きくはないが一般的なホテルの設備でした。

 しかし、このホテル、色々と問題があります。

 その問題はのちにゆっくりと分かってきます。。

 その日は、現地の人と軽く打ち合わせをして終了。

 さて、ご飯を食べるために一階に行きました。

「はいはい、お客さん。何にする? 定食? 麺類? それともあ・た・し?」

「メニューください」

「はいはい」

 でっぷりとしたおばさんは、素直にメニューをくれました。

 それを見てみぱぱは思わずつぶやきました。

「あれ? メニューがスラスラ読める! 英語力が上がったか?」

 いえ、決してみぱぱの英語力が上がったわけではありません。

 ただ単に日本語でも書いてあるだけです。

 キリバスは日本の援助が結構入っているため、工事などで日本人が長期間滞在しています。

 そのため、その日本人達がメニューに日本語を書き込んでいたのです。

 おかげでみぱぱは料理に迷うことはありませんでした。

 まあ、そのメニューには写真も一緒にあったので、日本語がなくてもなんとなくどんな料理かは分かったのですが。

 さあ、食事も終えた夕方、明日からの仕事に備えようとみぱぱはシャワーを浴びました。

 シャワーのコックを開くとちょろちょろと水が出てきました。

 いつまでたっても水です。温かくなりません。

 暑いキリバスでも冷たい水では厳しいのです。その上、なんだか水が臭いのです。

 でも、身体を綺麗にして寝たいみぱぱは我慢してさっさとシャワーを浴びて布団に飛び込みました。

 ガタガタ震えながら眠ったみぱぱは次の日の朝、目が覚めました。

 目覚ましが鳴ります。

 コケコッコー! クックルルドゥー!

 朝、五時、日の出と共にニワトリが鳴き始めます。

 八時に迎えが来るので、朝ご飯を食べないみぱぱは七時に目覚まし時計をかけていました。

 二時間も早く、起こされました。

「勘弁してくれよ。ここのニワトリはイスラム教か?」

 イスラム教の国に行くと夜明けにアザーンが流れます。アザーンとはお祈りの合図に流れます。だいたい日に五回流れるのですが、一番初めが夜明けなため、みぱぱ的超迷惑目覚まし時計です。

 それはさておき、くっそうるさいニワトリの鳴き声で目が覚めます。

 朝起きて、歯磨きして、うがい。このうがいも臭い水でうがいします。でもこれだけだと後味が気持ち悪いので、最後のうがいはミネラルウォーターで行います。この判断が、後々みぱぱを地獄へ落とします。

 さて、お仕事は概ね順調。

 現地でのお仕事のパートナー、バウロさんはお腹でっぷり、いやいや、かっぷくのいい気の良いおじさん。

 お昼ご飯を食べに地元の食堂へ。

 ホテルの食堂とは違って日本語でメニューを書いていません。英語でも書いていません。キリバス語です。

「分かるかーーー!!」

 みぱぱはメニューを放り投げました。

「おお、みぱぱよ! メニューを投げてしまうとは何事だ! しかたのない奴だな。おまえに刺身を与えよう!」

 気を遣ってくれたバウロさんは、日本人って刺身好きなんだろうと、勝手に刺身定食を頼んでくれました。

 確かに日本人は刺身が好きです。でもちゃんと新鮮な魚で醤油とワサビが必要なのですよ。

 出された刺身定食。見た目は新鮮ですが、海外で生は怖いです。

 しかし、他にご飯はありません。

 恐る恐る食べました。

 魚はマグロ。と言うのもキリバスにはフィッシャーマンズスクール(漁師育成虎の穴)があるくらい、漁船員育成に力を入れています。

 マグロ自体は悪くありません。

「しょ、醤油! ワサビ! プリーズ!」

 そう叫んでも、ただただ波の音に吸い込まれて行くだけだったのです。

 さて、キリバスは小さな国ですが日本人が工事で滞在しておりました。

 その上、みぱぱの会社が大昔、別の国向けで納めた装置を持ってきて使っていると言うことでした。

「つまり、どういうことが分かるな。みぱぱ」

 定時報告でその事実を突きつけられたみぱぱは、生唾をゴクリと一つ飲み込んで言いました。

「様子を見てこいと言うのですね」

「僕は君のような勘の良いガキは好きだよ」

 そんないきさつで挨拶に行ったみぱぱ。

「今日はみぱぱです。うちの装置を使っていただいているようで、何か不具合はありますか?」

「おう、麻雀できるか?」

「あの~装置は順調ですか?」

「だから、麻雀できるか?」

「一応、出来ます」

「よし、麻雀しよう」

 麻雀は数少ない娯楽なんでしょうが、打つメンバーが決まっていて飽きていたらしいのです。

 小学五年生から麻雀をたしなんでいたみぱぱは良い遊び相手だったようです。

 楽しく昼間っから麻雀をしていると、玄関がノックされました。

「ちーす、三河屋で~す。伊勢エビ取れたんですが、いりませんか?」

「なんだ、また伊勢エビか、ポン。前のがまだ冷凍室にあるけど、まあ良いか、カン。置いといてくれ、チー」

「毎度! サザエさんによろしく伝えてください」

 それは30cmはありそうな立派な伊勢エビ。日本だと間違いなく高級食材です。

「すごい立派じゃないですか」

「立派に思うだろう、リーチ。そう思って良い値で引き取ってやったら、ポン。結構な頻度で持ってきて困ってるんだよ、ロン」

「そうなんですね。それ、チョンボです」

 さすがは珊瑚礁の国、キリバス。海産物が豊富です。

 そして、キリバスにいるのは日本人だけではありません。

 仕事が順調に進み、試運転を行うと地元の人が集まってきます。

 その中に見慣れない日本人が一人いました。

「こんにちは」

「ニーハオ、ショーロンポー、チンジャオロース、ホイコーロー」

 え? 日本人じゃない!? どう見ても日本人なのに中国人? なんで中国人がキリバスに?

 実はキリバスには中国の宇宙観測基地チャイナスペースがあるのです。

 そこに勤務している人が噂を聞きつけ、様子を見に来たようです。

 こんな小さな国に、日本人以外に中国人も、と思ったら、他にもいました。

 オーストラリア人がいました。

 実はこのオーストラリア人は同じホテルに泊まっています。

 ジャックとオリバーの二人は技術者らしく、みぱぱよりも長くホテルに泊まっていました。

 夕方、みぱぱよりも早くホテルに戻っていていつも陽気にビールを飲んでしました。

「オー、ジャポネ、仕事終わったか? 一緒に飲もうぜ!」

 みぱぱは有楽町にあるパスタ屋さんではありませんが、ビールは大好きです。

 オリバーとジャックの二人と仲良くなったみぱぱは、二人から今度の日曜日にドライブに誘われました。

 仕事も九割終わっているみぱぱは喜んでOKしました。

 るんるん気分のみぱぱに不幸が訪れました。

 土曜日の夕方からお腹の調子が悪くなったのです。

 どうやら、このホテルの水は庭の井戸から取っているらしく、うがいだけでもお腹を壊してしまったようです。

 トイレ、ベッド、トイレ、ベッドのヘビーローテーション!

 それは一晩中、続きました。もう出る物がないと思われるくらいトイレに行っても収まらない腹痛。

 日曜日、ジャックとオリバーにお腹痛くてドライブに行けないとお断りしました。

「オーマイ、ガー。この魔法の豆でも飲んで安静にしてな」

「ありがとう、ジャック。でもこの豆を飲んだらお腹から天高く豆の木が生えて、人食い大男の家に行けるようになるんだろう。サンキュー、バッド、ノーサンキューだ」

 優しいジャックが気を遣ってくれたが、みぱぱはせっかくの休みをジャックとオリバーと過ごすのではなく、ベッドとトイレと一緒に過ごしたのでした。

 月曜日、なんとか腹痛が収まったみぱぱはキリバスでの最大の仕事が待っていました。

 装置の開業祝い。

 キリバス大統領をはじめ、お偉いさんの挨拶。

 お供え物の果物。

 そして腰ミノをつけたお姉さん達の踊り。

 国をあげてのお祝いでした。

 それもそのはず、キリバスではじめての水処理装置は、水不足に役立つため、皆の期待が高かったのです。

 第二次世界大戦、日本軍とアメリカ軍で五千人以上が戦死したこのキリバスで、現地に貢献できて満足して帰国したみぱぱでした。

 帰国後、恒例の報告会。

「おう、キリバスはどうだった?」

「次に行くときは、あそこのホテルだけは絶対やめてください。マジで!」

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