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サウジアラビア 1回目 前編

 サウジアラビア

 中東最大の国。石油で有名。お金持ちの国。お金持ち故、観光客が入れません。最近までは。

~*~*~

「今回のミッションはツーマンセル(二人組)でやってもらう!」

 突然、ミッションインポッシブル風に指令が降りました。

「どこに誰と何をしに行くのですか?」

「場所はサウジアラビア。森谷さんと、据え付け指導と試運転だ!」

 森谷さんは会社の大ベテランのおじさん。

 海外での大型案件には大体この人が指名されます。

 今回はこの森谷さんについて、大型案件での仕事のやり方を学んで来いという話です。

 これまで出張は、ほぼ一人で行くみぱぱですが、今回は二人で行くというだけで気持ちが楽になっています。

 名前だけは聞いたことがあるサウジアラビア。どんな国かみぱぱはドキドキしていました。

 ビザを取得して、いざサウジアラビアへ。

 日本から香港で乗り換えて、カタールへ入り、そこから車でサウジアラビアへ入国します。

 ここでラッキーな出来事が起こります。

 ラッキースケベではありません。

 ラッキーグレードアップ!

 航空会社のオーバーブッキング(過剰予約)。

 香港からカタールへの飛行機便がエコノミークラスに席が足らず、ビジネスクラスへ。

 ゆったりとした長旅。

 ビジネスクラス、サイコー! 

 でも、みぱぱは大半寝ていました。

 夜、カタールに到着。

 お迎えと合流も問題なし。

 いざ! サウジアラビアへ。

 高速道路の入り口のような入国審査場でパスポートを渡すと何やら、様子がおかしい。

 運転手の人が詳しい話を聞いてくれました。

「あんたら、あかんで~。入国できへんわ」

「ワァイ? ミドルイーストピープル!?」

「あんたら、ビザの期限が切れとんや。ピザの賞味期限やないんやで。ビザやビザ」

「え!?」

 慌ててビザの有効期限を確認すると、昨日まででした。

 実は、日本でビザを取得した後、一度出張予定が変更になっていたのです。

「どうしたらいいのでしょうか?」

 下手したらこのまま、日本に帰国?

 最悪のシナリオに怯えるみぱぱ。

 そして、タバコ吸いたいなーとつぶやく森谷さん。

「とりあえず、カタールに戻って、ビザの申請やな」

 車はUターンしてカタールに戻ります。

「どれくらいかかりますか?」

「まあ、申請してみんと分からんな? 2~3日くらいかな? ピザなら30分以内にお届けや!」

「いやいや、ピザはいいんですよ。ピザは。困りましたね。森谷さん」

「そうだね。それよりタバコ吸いたい」

 ビジネスクラスになんて乗ったからか、いきなりつまずく、みぱぱたち。

 次の日、ビザを申請して、2日後、再度サウジアラビアへ向かいます。

 今度は問題なく、入国できました。

 そして車で現場へ向かうみぱぱたち。

 延々、車を走らせてたどり着いた先は砂漠!

 そう、サウジと言えば砂漠!

 じつはみぱぱ、小さいころから砂漠にあこがれを持っていました。

 なぜかわかりませんが、砂漠ってかっこよさそうじゃないですか。砂丘じゃないんですよ、砂漠。

 砂漠の真ん中に走る道路。右を見ても砂漠、左を見ても砂漠。

 お! ラクダがいる。

「野生のラクダだ! 写真撮ろう!」

「気を付けいや~、飛行機飛んどるから」

 みぱぱが写真を撮ろうとすると、運転手のおじさんが注意してきます。

「どういうことですか?」

「飛行機は戦闘機や。写真なんか撮っとったら、スパイと間違えられて、カメラ没収か、最悪捕まるで」

「マジっすか!」

「マジや! 空に向かってカメラ向けてたら、だいたいアウトやな」

「装置周りの記録写真くらいしか取れませんね。気を付けましょう。森谷さん」

「そうだね。タバコ吸いたい」

 今はデジカメなので取ったものがすぐ確認できるから、まだいいのですが、フィルム時代は現像に時間がかかるため、怪しい奴はとりあえず拘束。写真を確認後、フィルム没収の上、解放のようです。

「あとな、野生のラクダっちゅうのはおらんのやで。全部、持ちぬ主が決まっとる。家畜やけんのう。日本だって野生の馬っておらんやろ」

「そうなんですね」

 そんな話をしながら、キャンプに到着。

 今回の現場は、日本勢だけでなくヨーロッパ勢などもいる大きな現場。

 キャンプから現場まで朝、バスで移動。お昼ご飯を食べにバスでキャンプに戻り、夕方、バスでキャンプに戻るという、時間を気にしながら仕事をしなければなりません。

 据え付け指導から行うため、ワーカーと呼ばれる作業員に指示を出して仕事をします。

 このワーカーもいろいろ種類がいて、機械設置組、配管組、電気組、力仕事組に分かれます。

 機械設置組は機械を設置したり、タンクの組み立てをします。

 配管組はその名の通り、こちらの指示で配管をどんどん組み立てていきます。

 電気組は配線をしてくれます。

 最後に力仕事組は、ここを掘れ。これを持ってきて。これのボルト締めといて。と言う単純作業を行ってくれる人々です。

 彼らの中でも、序列と能力があり、みぱぱたちの一番初めにする仕事は、誰に言えば仕事がスムーズに運ぶかを見極めることです。

 ちなみにこのワーカーたち。サウジアラビア人は一人もいません。

 インド、フィリピン、インドネシア、バングラディッシュからの出稼ぎがほとんどです。タイからの出稼ぎも通常はいるのですが、どうも、サウジアラビアの王家の宝が盗難にあい、それがタイで見つかったため、タイ人入国禁止だそうです。

 サウジアラビア人は基本的にオフィスで事務仕事。

 インド人が全体をまとめるフォアマンをやっている場合が多いようです。

 さて、彼らは基本的に指示したこと以上の仕事はしません。

 下手なことをすると怒られます。

 そして、あまり長い指示も覚えれれません。

 そのため、あっちに指示を出して作業をしている間、こっちに指示を出して作業をさせて、作業が終われば、問題ないか確認して次の指示を出します。

 そんなバタバタと指示を出して、みんなそれなりに作業をしているとき、一人暇そうにしている男がいました。

 基本仕事はたんまりありますから、暇な人を見つけると次々に指示を出します。

「おい、ここの配管をやってくれ」

「いえ、わたくしはちょっとお偉い機械屋さんなのでそんなことはできません」

「ああ機械屋か。それで、何ができる?」

「ポンプの芯だしなんかお任せください」

「わかった」

 とりあえずポンプの芯出しは運転直前に行うので、今のところ不要なのです。

 工事は進み、とりあえずフィルターの装着を森谷さんがしていました。50本以上装着するため、蓋をしめる前に数を確認します。

 その横で暇にしていた機械屋さんが一緒にフィルターの数を数え始めました。

 機械屋さんが数えてくれるならと、数えるのをやめて別の作業をする森谷さん。

「何本だった?」

「へ!? わたくしは数を数えられませんよ」

 なんと機械屋さん、数を数えるふりをしていただけなのです。

 これはおかしいと、ポンプの芯だしを指示してみました。

「わたくし、道具を持ってきていません。道具を貸してください」

「なんだ、自前の道具がないのか。わかった、ちょっと待ってろ、借りてくるから」

 人の派遣だけで、道具は現場で共通で使うことなんかもあります。

 怪しいと思いながらも道具を借りてきて、芯だしをお願いしました。

 するとポンプの横に座り、どの道具で何かし始めました。

 そして、しばらくするとその機械屋さんは言いました。

「あの~すみません。この道具どうやって使うのでしょうか?」

 それから、その現場で機械屋さんの姿を見た者はいなかった。おそらくクビになって国へ帰ったのでしょう。

 ちなみに、ワーカーはちょくちょく補充されるのですが、たまたま見かけた採用試験。

 巻き尺のあるところを指し示して、ここの長さはいくらだ?

 足し算、引き算のテストなど、ここは小学校か? と言うことをしていてびっくりしたみぱぱでした。

 びっくりしたのはこれだけではありません。

 お昼ご飯でもないのに、たまにバスが迎えに来ます。

「なんで? バスが来てるの?」

 みぱぱは残って作業をしている人に聞きます。

「ああ、あれはお祈りの時間だからprayerプレイヤー roomルームに行っているのですよ」

「イスラム教徒か。大変だね」

 イスラム教は1日に5回お祈りの時間があり、礼拝室でお祈りをします。

 街などではこの時間、お店は閉められて、イスラム教徒でなくても道路に出てはいけないと注意されます。

 現場の場合、イスラム教徒以外は普通に仕事しています。

「でも、あんなにイスラム教徒がいるんだな」

「何言ってるんですか? あれ、半分くらいはお祈りに行くって嘘ついて、さぼってるだけですよ」

 マジか! それが分かって残って仕事している君ってけっこう真面目?

 この人、インド人で電気組のラジャさん。

 電気組は危険をともなうためか、なかなか優秀な人がいます。

 小柄で、人懐っこい笑顔。こちらの指示に素直に聞いてくれる上に、この現場の仕様に合わないところも教えてくれる超優秀な人。

 しかし、一つ問題があったのです。

 電気配線はつなぎ終わった後、繋ぎ間違いや、逆につないでいたりなど普通にあるため、通電していろいろ確認を行います。

 そうすると、制御盤側と機械側に一人ずつ必要になります。

 ポンプの回転方向があっているか確認するラジャさん。

「回すよ~。大丈夫だった?」

「ノー! ノー!」

 首を横に振るラジャさん。

 そして配線を入れ替えて再度テストします。

「回すよ~。大丈夫だった?」

「イエス! イエス!」

 首を横に振るラジャさん。

 ん? 今、イエスって言ったよな。

「どうだった?」

 もう一度聞き直す、みぱぱ。

「イエス! イエス!」

 首をもう一度横に振るラジャさん。

 はっきりイエスって言ったよな。

 みぱぱはラジャさんに近づいて再度確認する。

「合ってた?」

「イエス、イエス」

 首を平行に横に振るラジャさん。

 インドの映画などを見た人は知っている動き。

 インド人は首を中心に回すように首を振る、ノー。

 頭を平行に動かす、イエスというジェスチャーをするのです。

 近くならわかるのですが、遠目にはわかりません。

「ラジャさん、日本人のイエスはこっちね。わかった?」

 そう言って、頭を縦に振るみぱぱ。

 それを見てラジャさんも気が付きました。

 恥ずかしそうに言いました。

「イエス! イエス!」

 そう言って首を平行に横に振ったラジャさんでした。

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