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第24話 乙女の階段を上がる親父娘(2)

「…あ」


 目の前に、あきらさんが立っていた。


「さぁくぅ~、今夜は婚活だからね」


 耳元でミオに意味ありげに言われると同時に、喉まで上がってきた名前を飲み込んだ。そんな俺を見たミオは、飲み物を取ってくる、と俺の手から空のグラスを取って放れて行った。

 今度は、明さんしか視界に入らなかった。


「少し、お話しても?」


「あ、はい…」


 声に力が入ってないのが分かった。だって、後ろに無造作に流したヘアースタイルに、黒のスリーピース姿は少し痩せたように見えるし、シャンパングラスを片手に立つ、別人みたいな見たことのない明さんにドキドキしてるから。


「さくちゃん、お腹空いてない?」


 そっと聞いてくれる声にもドキドキする。


「あ… 大丈夫… みたいです。… はい」


 本当に、明さんだよね? 何、この色気? カッコよさ? フェロモン? あ、ヤバいもう視覚的にも限界… 鼻血出そう。


「じゃぁ、外に行ってみないかい?」


 ビックリした。急に真横から知らない人に声を掛けられた。

 ミオが好きそうなヴィジュアルバンド風の長髪イケメンで、一生懸命髪を立ててボリュームだしているけど… 薄いなぁ。可哀想。に未来はある意味明るいが。でも、おかげで鼻血は大丈夫そうだ。変に仕事モードに切り替わって、冷めた。


「いえ、結構です」


「星が綺麗だよ、行こうよ」


 キッパリハッキリ断ったのに、俺の手を取ろうとしてきた。婚活だから、頑張る感じなのか?


「じゃぁ、ボクと行こう?」


 その手を押しのけて、フルーツの盛り合わせが乗った皿が出てきた。

よく聞き慣れた、もう聞かなくていい声に、うんざりとその皿を押し返した。


「結構です。私なんかより、私の友人のほうが貴方のお好みじゃないですか?」


 合コン用に気合の入ったヘアースタイルとスーツ姿の一史かずしを、嫌味たっぷりに鼻で笑ってやった。


「あら、私のタイプじゃないわ」


 シャンパングラスを両手に戻ってきたミオは、一つを俺に渡し、空いた手で一史の手にしている皿から果物を取って、美味しそうに食べた。


「こういう場に来たのだから…」


 髪が薄いヴィジュアルバンド君が、もう一度俺の手を取ろうとした。


「お二人共すみません。この方は、僕と行きますので」


 その手から避けた俺の手を、明さんが握ってくれた。握って軽く引っ張りあげられ、明さんの動きと同調して自然と立ち上がった。靴擦れが痛んだけれど、大きな左手が腰に添えられて、体中に電気が走った。


 大きくて暖かくて… 久しぶりの感覚に、さらにドキドキして… 一気に頭に血が上って、ああ、また鼻血がでそう。


「どうかした?」


 ぎこちない立ち姿に、明さんが耳元でこそっと聞いてくれた。

けど、その声が耳から背中、更に腰まで電気が走ったみたいに、ビリビリした。


「あ… 両足、靴ずれしちゃってもうちょっと、座ってたいかなぁ~って」


 そう言うと、明さんは小さく笑って、一気に俺を抱き上げた。慌てたミオが、俺の手からシャンパングラスを取り上げた。


 お、お姫様抱っこって、顔がメチャクチャ近いじゃん!! この下斜め四十五度って、メチャクチャ視覚的に来るものがあるし! 明さんが触れている所から、体温が上がっていくのが分かる。


「ちょっ、明さん、目立ってる目立ってる」


 明さんデカイから、尚更、皆の視線が集中してる。


「さくちゃん、僕、ちょっと怒っているんだ」


 って、囁くようにニッコリ言われると、怖いんだけど。ちょっと正気に戻った。


航大こうた、抜けるね」


 その一言で、ミオといつの間にか後ろに立っていた三上さんが、涼しい顔で俺たちに手を振った。受付で、預けたコートを受け取ると、二人分を俺にかけてくれた。お姫様抱このまま。


「寒くない?」


「ん… 大丈夫」


 下斜め四十五度から見える明さんがカッコ良くって、それしか言えなくて、明さんのコートを握りしめて、そこから香る明さんの匂いに浸ってしまった。



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