「…あ」
目の前に、
「さぁくぅ~、今夜は婚活だからね」
耳元でミオに意味ありげに言われると同時に、喉まで上がってきた名前を飲み込んだ。そんな俺を見たミオは、飲み物を取ってくる、と俺の手から空のグラスを取って放れて行った。
今度は、明さんしか視界に入らなかった。
「少し、お話しても?」
「あ、はい…」
声に力が入ってないのが分かった。だって、後ろに無造作に流したヘアースタイルに、黒のスリーピース姿は少し痩せたように見えるし、シャンパングラスを片手に立つ、別人みたいな見たことのない明さんにドキドキしてるから。
「さくちゃん、お腹空いてない?」
そっと聞いてくれる声にもドキドキする。
「あ… 大丈夫… みたいです。… はい」
本当に、明さんだよね? 何、この色気? カッコよさ? フェロモン? あ、ヤバいもう視覚的にも限界… 鼻血出そう。
「じゃぁ、外に行ってみないかい?」
ビックリした。急に真横から知らない人に声を掛けられた。
ミオが好きそうなヴィジュアルバンド風の長髪イケメンで、一生懸命髪を立ててボリュームだしているけど… 薄いなぁ。可哀想。に未来はある意味明るいが。でも、おかげで鼻血は大丈夫そうだ。変に仕事モードに切り替わって、冷めた。
「いえ、結構です」
「星が綺麗だよ、行こうよ」
キッパリハッキリ断ったのに、俺の手を取ろうとしてきた。婚活だから、頑張る感じなのか?
「じゃぁ、ボクと行こう?」
その手を押しのけて、フルーツの盛り合わせが乗った皿が出てきた。
よく聞き慣れた、もう聞かなくていい声に、うんざりとその皿を押し返した。
「結構です。私なんかより、私の友人のほうが貴方のお好みじゃないですか?」
合コン用に気合の入ったヘアースタイルとスーツ姿の
「あら、私のタイプじゃないわ」
シャンパングラスを両手に戻ってきたミオは、一つを俺に渡し、空いた手で一史の手にしている皿から果物を取って、美味しそうに食べた。
「こういう場に来たのだから…」
髪が薄いヴィジュアルバンド君が、もう一度俺の手を取ろうとした。
「お二人共すみません。この方は、僕と行きますので」
その手から避けた俺の手を、明さんが握ってくれた。握って軽く引っ張りあげられ、明さんの動きと同調して自然と立ち上がった。靴擦れが痛んだけれど、大きな左手が腰に添えられて、体中に電気が走った。
大きくて暖かくて… 久しぶりの感覚に、さらにドキドキして… 一気に頭に血が上って、ああ、また鼻血がでそう。
「どうかした?」
ぎこちない立ち姿に、明さんが耳元でこそっと聞いてくれた。
けど、その声が耳から背中、更に腰まで電気が走ったみたいに、ビリビリした。
「あ… 両足、靴ずれしちゃってもうちょっと、座ってたいかなぁ~って」
そう言うと、明さんは小さく笑って、一気に俺を抱き上げた。慌てたミオが、俺の手からシャンパングラスを取り上げた。
お、お姫様抱っこって、顔がメチャクチャ近いじゃん!! この下斜め四十五度って、メチャクチャ視覚的に来るものがあるし! 明さんが触れている所から、体温が上がっていくのが分かる。
「ちょっ、明さん、目立ってる目立ってる」
明さんデカイから、尚更、皆の視線が集中してる。
「さくちゃん、僕、ちょっと怒っているんだ」
って、囁くようにニッコリ言われると、怖いんだけど。ちょっと正気に戻った。
「
その一言で、ミオといつの間にか後ろに立っていた三上さんが、涼しい顔で俺たちに手を振った。受付で、預けたコートを受け取ると、二人分を俺にかけてくれた。お姫様抱このまま。
「寒くない?」
「ん… 大丈夫」
下斜め四十五度から見える明さんがカッコ良くって、それしか言えなくて、明さんのコートを握りしめて、そこから香る明さんの匂いに浸ってしまった。