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第20話 親父娘の乙女心は大混乱

8・親父娘の乙女心は大混乱


 柄にもなく可愛い格好して、クリスマスのイルミオネーション通りをお手々繋ぎながら歩いて、いつもは入らないお洒落なレストランで食事。大晦日は二人で除夜の鐘を突きながら年越し参りして、正月は皆で美味しいお酒とお節食べて…


「んなことあるわけないっつーの。稼ぎ時に色恋沙汰が入る隙間なし! それどころか、休みもなし!あるのは手荒れ! 肌荒れ! 睡眠不足と栄養不足! 一番不足してるのはあきらさん成分!」


 大晦日の十一時まで確り働いて、最終電車に飛び乗って車内で年越し。実家の玄関開けたら、そのまま用意されていた布団に潜り込んで… 目が覚めたら元旦どころか二日の昼だったし。

 正月休み、三日しかないのに、食って寝て終わり。おかげで体重と肌の調子は戻ったけど… それが現実だ。


「で、今が一月末です… と。あ、家の鍵どうしたの? 変えたの?」


「一個追加して、今は二個。あのバカの合鍵使えるけどな。マスターに話したら、一個じゃ心配だからって、他の部屋も全部二個になった。ま、いいんじゃね? 防犯強化で」


「それはよかった。で、話戻すけど… 恋人としての時間はともかく、肝心の明さんとは会えているの?」


 そう、気がついたら二月は目の前。あのバカのことなんか、今の今まで忘れてた。

 十二月の忙しさの反動で、一月は気がついたらもうすぐ終わる。ので、何となく気持ちもまったりしてる。休日もガンガン遊ぶではなく、今日みたいに早々に実家から部屋に戻って、部屋でゆっくりしてるのがほとんどだったし。

 そんな今日は、部屋でミオと湯豆腐鍋で酒盛り。


「カットは来てくれたよ。普通にお客さんとして、営業時間内に制服で。

ちゃんと俺のこと指名してくれたんだけど… あ、そのキノコ欲しい」


 気の利いた話し、出来なかったなぁ… 明さん、寝てたから。


 鍋奉行のミオがせかせかと両手を動かしているのを見ながら、俺は冷酒をチビチビ呑み進めた。


「なんか明さん、クリスマス前よりも疲れてるみたいで、ほとんど寝てた」


「ふぅぅぅん… 連絡は取り合っているんでしょ? はい、豆腐多め」


 取り分けた小皿を受け取り、代わりに缶酎ハイのお代わりを渡した。


「サンキュー。明さんの仕事時間が把握しきれてないから、LINEで一言二言。お互い、気がついた時にスタンプ押すぐらい。まぁ、元々、ああいうの苦手だから、お互いにさ…」


「どうかしたの?」


 忘れてた。んじゃなくて、見なかったことにしてたんだ。あの日のことを。


「見ちゃったんだよな。年末さ、この近くの喫茶店でメチャクチャ美人でスタイルの良い女の人と会ってた。スーツ姿で、二人っきりで」


 なんだか、声を掛ける雰囲気じゃなかった。


「それ、本人に聞いた?」


「なんかさ、お似合いだったんだよ。大人の恋人って感じでさ… 俺、仕事中だったし」


 言い訳だ。自分が余りにもガキ臭くって、声を掛けられなかったんだ。


「まったく… 工藤さんが東京に出てきた理由、知ってる?」


 ピッタリと箸を止めた俺を尻目に、ミオの箸はスイスイと変わらず動いていた。


「聞いてない」


 そういえば、明さんのこと、あんまり知らない。明さんはあんなに俺の醜態を見てるのに、俺は明さんの格好いい所しか見てない。


「私さ、そこのとこ三上さんから聞いたんだけど… 聞きたい?」


「いつの間に仲良くなったんだよ?」


「初めてのファミレスで、咲と工藤さんが行っちゃった後。で、聞きたい? 聞きたくない?」


 明さんの過去かぁ…


「まったく気にならないって言ったら嘘だけど、そういうのは本人から聞くもんだろ?」


 聞けてないんだよな。あの時、挨拶すら出来なかったし。



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