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第16話  『特別』(2)

 このショートパンツ、いつものより短いし、フードに猫耳までついてやがるし…


「別に、謝らなくてもいいよ。

俺も… 会いたかったから」


 あきらさんに会えるのはとっても嬉しいけど、この格好はとっても恥ずかしい… でも、いつもの格好は何となく着たくなくって。

ってか、似合ってるのか? 変じゃない?


 そんな事を考えながら、そっとドアを開けた。


「今日が年内最後の休みだって聞いていたから、何処か行くかと思っていたんだけど、さくちゃんの体調が心配だったんだ。お節介だったね」


 少し困ったようなそれでも優しい笑顔の明さんを見て、すごくホッとした。


「そんな気力も体力もない」


「みたいだね。お腹、空いているだろう? 少し早いけど、夕飯一緒に食べようかと思って、買ってきたモノばかりだけど。用意しておくから、髪、乾かしちゃいなよ」


 大きな手で頭を撫でられて、頷いてドアを締めるしか出来なかった。だって、なんて返事していいか分からないし、絶対変な顔してる。顔が熱い。でも、でも、嬉しいな。

 ってか、夕飯って言った? 夕飯? うわぁ~… 時計、四時過ぎてる。朝風呂のつもりだったけど、どんだけ寝てたんだよ、俺。


 伸びた髪にドライヤーをかけてて気がついた。仕事ばっかで太陽の下に出てないせいか顔白いし、目の下にクマあるし、肌荒れも酷いな。肌荒れなんて、手だけで十分なのに。化粧水と乳液使ったの、いつぶりだ? ハンドクリームはマメに使ってるけど、追いつかないし。


 そんな感じに鏡の前で百面相しても、これ以上良くなるわけがないから、そっとダイニングに戻った。最近ベッド代わりにしていたソファの前のテーブルには、幅いっぱいに料理が並べてあった。


 あ、さっき出した冷酒の隣に、シャンパンもある。


「こんなに沢山!!」


「さくちゃんには、足りないでしょ?」


 クマの縫いぐるみの隣に座ると、明さんの座るところがないことに気がついた。ソファは二人がけの一つだけ。テーブルを挟んで向こう側にはテレビ。小さいながらもラグが引いてあるとはいえ、床に座ってもらうのは忍びないので、縫いぐるみを床においた。


「隣、いいの?」


「もちろん! どうぞ」


 素足に縫いぐるみの毛並みがちょっとくすぐったいけど、これはこれでモフモフしていて気持ちいい。

 明さんは、「アルコールは軽いほうから飲もうね」と言って、慣れた手付きでシャンパンを開けて、グラスについで渡してくれた。


「お疲れ様」


「いただきます」


 チィン… と、グラスを合わせて一口飲んだ。すっごくフルーティで、メチャクチャ飲みやすい。でも、二日は腹に入れてないから、気をつけないと回るな。


「明さん、仕事は休み?」


 用意してくれた料理を、遠慮なく食べすすめる。美味しくて、箸が止まらない。


「昨日の夜、仕事帰りに一回来て、今日は朝から仕事に出たよ。

ちゃんと終わらせて、さっき来たんだよ」


「昨日の夜?… じゃぁ、もしかして、俺のことベッドに運んでくれた?」


「さくちゃんは、もっとお肉付けていいと思うよ」


 それが出来れば、胸に付けたい。


「醜態ばっか、晒してるぅ… 俺ばっかだらし無い所みせてる」


「頑張ってる証拠だよ。それに、みっともないって言うなら、僕だってそうだよ」


「どこが? あ、これ、すんごく美味しい」


 サーモンのカルパッチョが、口の中で溶けた。


「こんなでかい図体して、さくちゃんに嫌われるのが怖いし、昔の彼氏にヤキモチも焼いてる」


 いつもの優しい眼差しで覗き込まれて、次の皿に伸ばした手も、口の中のモノも勢いよく呑み込んで止まった。


笹瀬ささせ君とも、この部屋でこんな風に食事した?」


 剥き出しの膝に、明さんの大きな手がのった。大きくて熱くって質量を感じる手… 膝を包み込んで、ゆっくりと上がってきた。


「ど、同居してた友達も一緒だったから… 三人で食べてた」


 見れない。明さんの顔が見れなくて、ショートパンツの裾で止まった明さんの手を見てた。すごく、大きな手。


「そっか、三人か」


 ドキドキしてて、頷くのが精一杯。


「デートの時に、可愛い格好してたの?」


 耳の横で、しゃべんないで~。どうしたの? どうしちゃったの明さん? なんだか、怖いよ。


「… いつもの格好」


 ヤキモチ? ヤキモチ通り越して、怒ってる?


「これは?」


 明さんは膝の手はそのままで、もう片方の手でツンって胸元を引っ張った。


「あ… こ、これは、ミオが誕生日プレゼントにって… らしくないよな? 似合わないよね?」


 俺、こういう時どんな対応すれば正解なんだ? ってか、皿と箸を持った手はどうすればいいのさ?


「かわいいよ、似合ってる」


 肩に、明さんの顔! 重みと温度が、息がリアルに!!


「あ… あの、明さん…」


 どうすればいいんだよ~ お願い、ミオ様教えて! お願い!



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