3・
今朝は、最悪の目覚めだった。
自分の匂いで目が覚めた。これでもかっという程の酒と煙草の匂い。それらが混ざり合った匂いが自分から発せられていると分かって、改めて女を捨てているなと実感しつつ、目覚めの一本を吸ってしまった。まぁ、無理して女らしくあろうとも思ってはいないけれど、流石に今朝は臭すぎた。秋で良かった。真夏だったら、暑さで匂いも倍増しで死ねる。
… 確か、昨夜は中学時代の部活の飲み会があって、仕事が終わった後に地元に戻って飲み会に参加して、一時過ぎまで飲んで実家に転がり込んだんだった。記憶を飛ばさなかったのと、ちゃんと実家に帰りついたのは自分で褒めよう。けれど、二日酔いは酷い。さすがに、この状態で原付バイクに乗るのはまずい。ヘルメットも被れないし。
そんなわけで、今日の待ち合わせの喫茶店にはのんびりと歩いて行った。それでも、待ち合わせ時間の5分前にはついた。
「相変わらず、女捨ててるわね。お酒臭いわ、ものすっごく」
目の前で、この喫茶店の名物・ビックパフェを食べながら、友人の
俺たちの行きつけの喫茶店で、一番奥の窓際の四人席がお気に入りだ。ミオの前にはいつものビックパフェとスマートホン。俺の前には冷めたホットコーヒーとタバコとライター。灰皿は二人の真ん中。これが、ここでのスタイルだ。
「オヤジのパチンコの誘いは断ったんだから、褒めろよ」
咥えていたタバコに火を付けて、深く吸った。五臓六腑に染み渡る。
「私との先約があったからでしょ。良かったじゃない。下手なパチンコ打ってお金をどぶに捨てるより、こうして美味しいパファに使えるんだから。
有意義でしょう?」
「奢らねぇよ?」
パフェを食べながら言うミオに、思わず突っ込んだ。
「ケチ」
高校からの友人のミオは、細いけれど量がある茶色い髪を背中まで伸ばして、その日の気分で好きにアレンジを楽しんでいる。今日は、また一段と細かく編み込んで、洋服と合わせたスチームパンクを模したピンで飾っている。茶色の瞳はハッキリとした二重で、左右で視力が違うらしい。細身で色白で大きな胸で… 黙っていれば美人だ。
「所詮、胸の大きさか…」
「女の魅力? まぁ、それも一理だわね」
自分で呟いた言葉に肯定で返されて、落ち込んだ。
「ってか、
自分を変える気ねぇ…
確かに、前までそう思ってた。ありのままの、飾らない自分を好きになってくれる人を選べばいいと。
「夏まではね。あ、でもちょっと違うか」
「違うって?」
「変えるんじゃなくて、成長? でも、これは変えることかなぁ…」
「あのさ、何をグチグチ言ってるか知らないけれど、タバコ終わっちゃうわよ」
ミオに言われて手元を見れば、いつの間にか指に火が付きそうだった。
「ん~… 辞めようと思ってさ」
ギュッと灰皿にタバコを押し付け、半分以上残っている箱をミオの前に押し出した。
「辞めるって、タバコ?」
「そ。パチンコも麻雀も、少し控える。そうすりゃぁ、タバコ要らないし。
酒は辞めるつもり無いけど」
「どうしたの?」
パフェを食べる手を止めて、ミオが
「ん~… 笑ってさ、白い歯が見えるのって、良くねぇ?」
明さんが笑うと、大きな口から綺麗な歯が覗く。太い眉と、つぶらな瞳の目尻を下げて笑うあの顔を見ると、なんでかドキドキする。
「CMにありがちなやつね」
ミオは、容赦なくタバコの箱を握りつぶした。それはそれは本当に容赦なく、俺の目の前で。
「それとさ、最近は休みの日もあんまり吸わなくなったから、この際辞めようと思って。酒入ると、吸いたくなるけど。まぁ、また値上げするみたいだし。浮いた金で、チビ達にオヤツでも買ってやろうかな」
きっと俺なんか、明さんにとっては妹みたいなものだろうな。いや、きっと感覚だと弟だ。この前、カットの後にラーメンを食べに行って、何となくそう思った。
自分でリクエストしておいてなんなんだけど、二人でカウンターに並んでニンニクたっぷりのラーメン食べるって、女として見られてないだろ? うん、ないな。
そう思って、胸がズキッとした訳だ。