いっちゃんが眩しいものでも見ているように、こっちを見ている。でもぼくは、そんなにきれいな物じゃない。
「あなたが年下でも、俺はかおるさんって呼ぶから。なんか、その方がしっくりくるし」
「じゃあ、ぼくはこれからも…いっちゃんって呼んでていい?」
「当たり前じゃん!それに、そう呼んでもらえるの気に入ってるんだ」
初詣のあの日以降、君に会うのを避けて自分から距離を置いていた筈なのに。
ぼくに会いに、店に来てくれたことも知っている。それでもなんとなく、ぼくが触れていい人ではないのだろうと諦めていた。いい人だからこそ、彼の事を…愛してしまったからこその決断だった。憧れの人でいるだけで良かったのに。彼はぼくとは生きる世界が違う。断ち切ることができなくて、たまに連絡する度女々しい男だと自嘲しても。
君は普通の恋愛をして、普通に幸せになって欲しいと心から願っていたから。メル友のままでいられたなら、どれだけ気が楽になっただろう。
「…なんか、あの合コンに感謝だな。また、かおるさんに会えて良かった」
なんでそんな風に笑えるんだ?ぼくは君を、散々傷つけたのに。
「あなたから連絡が来ない間、ずっと考えていたんだ。もしかしてかおるさんに嫌われるようなことしたのかなとか、もう…飽きられたのかな、とか。でも、それは想像でしかないじゃん。直接会って話を聞ける、やっと…あなたの気持ちが聞ける気がして」
「飽きるなんてとんでもないよ!ぼくは君にふさわしくない…正直、君に会うのは止しておこうと決めたとき、すごく辛くて。いっちゃんが店に来て顔を見れるだけでいいと思っていたけど、やっぱり無理だった」
「なら…今なら正直に聞けるかな。俺のこと、どう思う?」
「そんなの、今まで何度も…」
「そっ、そうじゃなくて…!俺の…恋人になって欲しい、って思ったから」
ぼくが言い出したくて言えなかった言葉を、君から言って貰えるなんて。
もう、我慢しないでいいのだと分かれば答えはひとつしかなかった。
× × ×
「…ぼくで、いいの?」
薫が押し殺したような声で問うと、累は頷いて手を伸ばす。薫の頭を撫で、自分の方へと引き寄せる。薫の頭を撫でながら、耳元で囁き掛けるように言った。
「去年、初めて会った時に…一目惚れしちゃったんだ。俺はあなたが好きだよ。…かおるさんが良ければ…もっと俺のことを知って欲しいし、俺もかおるさんのことを深くまで知りたい」
「例えばどんなこと?」
「そ、そうだね…好きな食べもの、好きな音楽、何処を触られて気持ちがいのかとか…何をされたいのとか…デートは何処に行きたいのかとか」
「ふふ…いっちゃん、エッチだ」
顔を真っ赤にしつつ、累は素直に「ああそうだよ」とだけ返した。一瞬見つめ合うと累の方から顔を寄せ、薫の唇に唇を重ねる。薫の腕が累の背中に回され、強く引き寄せると、二人は座布団の上に倒れ込んだ。口づけは性急さを増して、累の舌が薫の唇をなぞると応酬するように薫が口を開く。舌を絡め、鼻から息を吐き出せば甘い声まで漏れ出てしまう。
累は頭の中で「きもちいい」と何度となく連呼し、キスした回数を数えるのをやめて夢中で薫と唇を重ねた。室内にはリップ音と荒い息遣い、累のか細い悲鳴に似た嬌声が木霊する。二人は互いにたった一度の口づけでは足りなくて、とうに限界を迎えていた。薫の方から顔を離すと、うっとりと自分を見つめる累と目が合い、堪らず喉の奥が鳴ってしまう。
「…累、おふとん行こ」
「うん」
もつれあうように二人は寝室へ向かい、畳の上に置かれたダブルサイズのベッドに転がった。薫が累の服を、累が薫の服を脱がせて上半身裸になれば、薫の膝上に累を跨らせる。薫が累の胸元へ指先を這わせ、小さい突起を掠め撫でる。びくん、と累の腰がしなる様子を見て、薫はにやりと笑った。
「ここ、弱いの?」
「うぁっ…それは、その、駄目…めちゃくちゃ弱いみたい…だから」
「そっかぁ。よく言えました…。そんな累に、ご褒美あげるね」
薫は容赦なく累の乳首に喰らい付き、その先端を甘噛みして舌先でその周りを擦るように舐める。累の甲高い嬌声が漏れ、累の頭の中が真っ白になりかけた。
「あっ…!かおるさ、だめっ…俺ばっかり…!」
「いいよ、後でいっぱい気持ちよくしてもらうからね」
「っ…!」
累のズボンのベルトを外し、下着の上から既に勢いよく隆起するそれを指先で突くと、薫が累の様子を窺うように顔を見つめる。薫と目が合うと累は羞恥心で涙目になり、ぞわぞわと首筋に何かが這い上がる感触がして、堪らず腰が浮いてしまう。
「ね、ここ、きもちい?」
「ンぅ…くすぐったい…」
「なら、ここは?」
「っ…!そこ、違っ…!」
薫が累の下着の隙間から指を這わせた先──それは累の臀部で、本来ならば全く触れないだろうと思っていた場所だった。しかし薫はその先を知っているようで、ゆっくりと解すようにその場所の周りを撫で回している。
「ここ、出すだけじゃなくて…気持ちよくなれるトコなんだよ」
「はぁっ…!?な、何を…」
「それじゃ、試してみようか?」
薫がもう片方の自分の指先を口に含み、濡らしてから累の後孔に宛がう。
「っ…!」
「痛かったら言ってね、すぐやめるから」
薫の人差し指が入り込み、徐々に奥へと進行する。体感したことのない感触と圧迫感が自分の中に入って来ると、指先の触れる辺りにびりっとした刺激を感じた。
「な、なに?」
「……見つけた」
薫がひと際嬉しそうに言い、その箇所を手探りで刺激する。累は何が何だか分からないうちに、頭の奥が
「かっ、かおるさっ、駄目、おかしくなるっ…!」
「うん…すごい…指が喰われてるみたい」
薫の声が上ずり、色を含んでいることに累は気づいていない。累の雄は起立したまま下着を濡らし、とうに限界を超えていた。
「ふあっ……!」
「ン、いいよ…。見ててあげるから、気持ちよくなって」
「あぁっ……!やっ、見ないで、見ない、で…っ…あっ…!」
ひと際強く指先で累の胎内を揉みしだくと、累の腰が思い切りしなりビクンと痙攣した。あまりに強い絶頂の衝撃に累の全身から力が抜け、くたりと薫に寄り掛かる。
「はは…いっちゃん、すごくえっちだなぁ…ぼくも…危なかった」
「うぅっ……もっ…ほんとにおかしくなるとこだった…」
「ん?」
「かおるさん…相当ドSだな?」
「ああ…今更気づいた?ぼくが恐くなっちゃったかな」
「いや…。むしろ、えっと…凄く、その…良かった、って言っていいのかな…」
恥じらう様子の累がぼそぼそと何か呟くと、薫がにっこり微笑みかける。
まるでまだ終わってはいないのだと、合図するように。