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第10話 相思相愛

 いっちゃんが眩しいものでも見ているように、こっちを見ている。でもぼくは、そんなにきれいな物じゃない。

「あなたが年下でも、俺はかおるさんって呼ぶから。なんか、その方がしっくりくるし」

「これからも…いっちゃんって呼んでていい?」

「当たり前じゃん!それに、そう呼んでもらえるの気に入ってるんだ」

 初詣のあの日以降、君に会うのを避けて自分から距離を置いていた筈なのに。  

 ぼくに会いに、店に来てくれたことも知っている。それでもなんとなく、ぼくが触れていい人ではないのだろうと諦めていた。いい人だからこそ、彼の事を…愛してしまったからこその決断だった。彼はぼくとは生きる世界が違う。断ち切ることができなくて、たまに連絡する度女々しい男だと自嘲しても。

 君は普通の恋愛をして、普通に幸せになって欲しいと心から願っていたから。

「…なんか、あの合コンに感謝だな。また、かおるさんに会えて良かった」

 なんでそんな風に笑えるんだ?ぼくは君を、散々傷つけたのに。

「あなたから連絡が来ない間、ずっと考えていたんだ。もしかしてかおるさんに嫌われるようなことしたのかなとか、もう…飽きたのかな、とか。でも、それは想像でしかないじゃん。直接会って話を聞ける、やっと…あなたの気持ちが聞ける気がして」

「飽きるなんてとんでもないよ!ぼくは君にふさわしくない…正直、君に会うのは止しておこうと決めたときすごく辛くて。いっちゃんが店に来て顔を見れるだけでいいと思っていたけど、やっぱり無理だった」

「なら…今なら正直に聞けるかな。俺のこと、どう思う?」

「そんなの、今まで何度も…」

「そっ、そうじゃなくて…!俺の…恋人になって欲しい、って思ったから」

 ぼくが言い出したくて言えなかった言葉を、君から言って貰えるなんて。

 もう、我慢しないでいいのだと分かれば答えはひとつしかなかった。


×   ×   ×


「…ぼくで、いいの?」

 薫が押し殺したような声で問うと、累は頷いて手を伸ばす。薫の頭を撫で、自分の方へと引き寄せる。薫の頭を撫でながら、耳元で囁き掛けるように言った。

「俺はおまえが好きだ…愛してる、薫。…かおるさんが良ければ…もっと俺のことを知って欲しいし、俺もかおるさんのことを深くまで知りたい」

「例えばどんなこと?」

「そ、そうだな…好きな食べもの、好きな音楽、何処を触られて気持ちがいのかとか…何をされたいのとか…」

「ふふ…いっちゃん、エッチだ」

 顔を真っ赤にしつつ、累は素直に「ああそうだよ」とだけ返した。一瞬見つめ合うと累の方から顔を寄せ、薫の唇に唇を重ねる。薫の腕が累の背中に回され、強く引き寄せると、二人は座布団の上に倒れ込んだ。口づけは性急さを増して、累の舌が薫の唇をなぞると応酬するように薫が口を開く。舌を絡め、鼻から息を吐き出せば甘い声まで漏れ出てしまう。

 累は頭の中で「きもちいい」と何度となく連呼し、キスした回数を数えるのをやめて夢中で薫と唇を重ねた。室内にはリップ音と荒い息遣い、累のか細い悲鳴に似た嬌声が木霊する。二人は互いにたった一度の口づけでは足りなくて、とうに限界を迎えていた。薫の方から顔を離すと、うっとりと自分を見つめる累と目が合い、堪らず喉の奥が鳴ってしまう。

「…累、おふとん行こ」

「うん」

 もつれあうように二人は寝室へ向かい、畳の上に置かれたダブルサイズのベッドに転がった。薫が累の服を、累が薫の服を脱がせて上半身裸になれば、薫の膝上に累を跨らせる。薫が累の胸元へ指先を這わせ、小さい突起を掠め撫でる。びくん、と累の腰がしなる様子を見て、薫はにやりと笑った。

「ここ、弱いの?」

「うぁっ…それは、その、駄目…めちゃくちゃ弱いみたい…だから」

「よく言えました…ご褒美、あげるね」

 薫は容赦なく累の乳首に喰らい付き、その先端を甘噛みして舌先でその周りを擦るように舐める。累の甲高い嬌声が漏れ、累の頭の中が真っ白になりかけた。

「あっ…!かおるさ、だめっ…俺ばっかり…!」

「いいよ、後でいっぱい気持ちよくしてもらうからね」

「っ…!」

 累のズボンのベルトを外し、下着の上から既に勢いよく隆起するそれを指先で突くと、薫が累の様子を窺うように顔を見つめる。薫と目が合うと累は羞恥心で涙目になり、ぞわぞわと首筋に何かが這い上がる感触がして、堪らず腰が浮いてしまう。

「ね、ここ、きもちい?」

「ンぅ…くすぐったい…」

「なら、ここは?」

「っ…!そこ、違っ…!」

 薫が累の下着の隙間から指を這わせた先──それは累の臀部で、本来ならば性交渉には全く触れないと思っていた場所だった。しかし薫はその先を知っているようで、ゆっくりと解すようにその場所の周りを撫で回している。

「ここ、出すだけじゃなくて…気持ちよくなれるトコなんだよ」

「はぁっ…!?な、何を…」

「それじゃ、試してみようか」

 薫がもう片方の自分の指先を口に含み、濡らしてから累の後孔に宛がう。

「っ…!」

「痛かったら言ってね、すぐやめるから」

 薫の人差し指が入り込み、徐々に奥へと進行する。体感したことのない感触と圧迫感が自分の中に入って来ると、指先の触れる辺りにびりっとした刺激を感じた。

「な、なに?」

「……見つけた」

 薫がひと際嬉しそうに言い、その箇所を手探りで刺激する。累は何が何だか分からないうちに、頭の奥がくすぐられているような快感を覚えた。あられもない声を上げ、自分の中に何度となく打ち寄せてくる波をやり過ごそうとする。いつの間にか薫の指が一本から二本に増え、敏感になったその場所前立腺を挟んで擦り、指先で揉んでいる。

「かっ、かおるさっ、駄目、おかしくなるっ…!」

「うん、すごい感じてるね…指が喰われてるみたい」

 薫の声が上ずり、色を含んでいることに累は気づいていない。累の雄は起立したまま下着を濡らし、とうに限界を超えていた。

「ふあっ…いっひゃ…」

「ン、いいよ…。見ててあげるから、イって」

「あぁっ……!やっ、見ないで、見ない、で…っ…あっ…!」

 ひと際強く指先で累の胎内を揉みしだくと、累の腰が思い切りしなりビクンと痙攣した。あまりに強い絶頂の衝撃に累の全身から力が抜け、くたりと薫に寄り掛かる。

「はは…いっちゃん、すごくえっちだなぁ…ぼくも…危なかった」

「うぅっ……もっ…ほんとにおかしくなるとこだった…」

「ん?」

「かおるさん…相当ドSだな?」

「ああ…今更気づいた?ぼくが恐くなっちゃったかな」

「いや…。むしろ、えっと…凄く、良かった…」

 恥じらう様子の累がぼそぼそと何か呟くと、薫がにっこり微笑みかける。

 まるでまだ終わってはいないのだと、合図するように。

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