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第6話 王様ゲーム

「それじゃ、それぞれ自己紹介しよ!俺は幹事のレンな、よろしく~」

「あたしはマキ。彼氏募集中です!」

「マキの友達で、片ひよりって言います。よろしく…」

「あっ、啓と累さんとかおるさんはパスな。もうみんな知ってるから」

「えーっ!俺もなんか自己紹介したい!一条啓です!兄貴よりも大人っぽいって言われます!」

「ふふ…弟さんは君とあまり似てないね?」

「…あぁ…俺の方が童顔みたいで、よく言われますよ」

 個室になっているその座敷部屋にやってきて数分後、累は早々に帰りたくなった。と言うのも薫がぴったり隣に寄り添うように座り、テーブルの下で累の手を指先でなぞったり握ったり太腿を撫でてくるからだ。それは自己紹介の間も続けられ、累は話半分にしか他の参加者の名前を聞くことができなかった。

 彼の考えていることが全く持って分からない累は、ぞわぞわと這い上がるような感触にひたすら耐えるしかない。

 突き放されたと思った瞬間、この前触れなく続いている濃厚接触にどう反応すれば良いのか分からず困惑している。無論、嬉しくはあるのだが。

 全員が飲み物を注文し、ちらほらと食事メニューが運ばれるようになった頃。

 ちびちびグラスを傾けていた累が、急に肩を震わせた。

「っ!」

「どうしたの?ルイさん」

「あっ、いや…俺、合コンって滅多に来なくて…」

「もしかして初めて?」

「えっと…ハイ、初めてです」

「ふふっ、累さんかわいい~!啓とは大違いね!」

「なんだソレ、俺の方がオッサンだってのかよ」

「拗ねるんじゃない、弟よ」

 自分の心を誤魔化すように不貞腐れる弟へぎこちなく笑みを返し、この状況をどう打破すべきかひたすら考える。誰がこの場を仕切るべきかは頭で分かっているが、幹事である啓の友人はすでに酔っぱらって座敷の隅でうずくまり、眠っている。

「合コン初めてならあれやらなきゃ、アレ!」

「アレって…」

「そりゃ当然、王様ゲームだよ!」

 今は令和何年だ?と思いながらも累は苦笑しつつ、渋々その提案に頷いた。少しでも気が紛れればいいと思ってのことだ。しかし、彼の努力は虚しくも崩れ落ちるのであった。

 幹事以外のスマートフォンにゲームアプリがインストールされ、ルーレットによってそれぞれが王様と、1から8までの数字に振り当てられる。便利な世の中になったものだと、何故か累は数歳しか違わない彼らにジェネレーションギャップを感じるのであった。

 そしてルーレットを何度回しても、何故か累と薫ばかりに何かしらのイベントが訪れてしまう。

「「王様だーれだ!」」

「はい」

「薫さんつよーっ!これで王様2回目かよ…」

「それじゃ、命令するね…3番が王様の膝に乗る」

「えっっ」

 声を上げたのは累だった。一回目は累が王様になり、4番が王様に唐揚げを食べさせる、というもので4番は薫が引いていた。次は啓が王様になり、王様以外全員目を瞑り、一人ずつ意中の相手がいたら指を指すと言う質問に、累は恥ずかしながら正直に小指で薫を指差した。他の参加者はまだ悩んでいるのか指を出さず、誰かに対する明らかな好意は累のみ知られてしまったことになる。そして3回目、再び薫が王様になり、累が薫の膝の上に乗ることになった。

「兄貴、大活躍だねぇ」

「うっさい…!えっと、どう乗れば…」

「ぼくと向かい合わせになって、膝上に跨ってくれればいいよ」

(はっ、はずかしすぎるだろ!!)

 薫の命令に従うが、弟の面白いものを見ているような視線が背中に突き刺さる。周りもすっかり出来上がって、ふたりの初対面とは思えない親密さに囃し立てる有様だった。既に何度も会っているので、当然と言えば当然なのだ。

「…こ、こうですか…」

「うん。…はぁ、いい匂いする…」

「そっ!それはさっき、唐揚げの檸檬汁が服に飛んで…」

「ううん、いっちゃんの匂い」

「!」

 爆弾発言とも取れる言葉に、累は再び顔を赤らめて薫の膝から離れようとした。だが薫が累の腰を両手で掴み、離れなくしている。すっかりペースを握られリードされている状況に、累は泣くに泣けず溜息を漏らした。

「…いっちゃん?」

「ルイ、だからいっちゃんなのかな…?」

「にしても近くないか?」

「もしかして既に両想いだったりして~」

 好奇心に満ちた言葉に肩が震えてしまい、そんな累の顔を見上げて薫が少し心配そうに言う。だが何となく、にやけているようにも見えた。

「…嫌だったら言ってね?」

「い、嫌じゃ…ないです…」

「ひゅぅ~!」

 幾多の歓声に包まれる中、啓からは「はぁ~、なるほどなぁ」と納得されてしまい、累はひたすら薫の整った顔を睨むように見つめることしかできなかった。


×   ×   ×


 宴もたけなわになった頃、電車の終電が近いとふたりの女性が離脱した。啓は何か知っているようで、ふたりの背中を笑顔で見送る。

「それじゃあ続きいくよ!」

 人数が減っても王様ゲームは更に続く。王様と1から6の番号が割り振られ、初の女性参加者から王様が選出された。出された命令は「向かい合う人と手を繋ぐかキスをする」というものだった。

 男性陣の阿鼻叫喚はさることながら、一番目を惹いたのは累と薫だ。ずっと向かい合っている上、この上なく親密な様子に嬉々として出された命令だった。卓を挟んで右端に座る男女、マキと社会人の男性は、少し恥ずかしそうに手の平をぺちりと合わせた。残るは啓ともう1人の女性、そして累と薫が残る。ひよりと名乗った気の弱そうな女性に、啓がアイコンタクトすると恥ずかしそうに人差し指だけ差し出してくる。啓は何故か嬉しそうに、人差し指だけ出して指先でタッチした。

「あっ、あれだ!宇宙人が出てくる映画!」

「ひよりったら、恥ずかしがりなんだから…でも良いじゃないの、相手はあの啓くんなんだから」

「そんなにコイツがモテるたりするんですか?」

「あっ!その、えっと…そう、ですね…啓さん、素敵ですし…」

「累くんも可愛いけど?ねぇ」

「ねぇ、と云われても…」

 そう言って、薫は顔を上げて累の顔を見つめる。そして…累の後頭部に手を回し、半ば無理やりに唇を奪った。

「!?」

「あっ」

「わぁぁぁぁ!」

 突然の展開に、現場はそれまで以上の熱気に包まれる。

 累はもしや薫が酔っているのかと思ったが、自分も彼も未だに烏龍茶しか飲んでいないことに気が付いてしまう。

 恥ずかしいのと混乱しているのとほんの少しだけ嬉しいのとで、今すぐ気絶したくなる気分だった。 

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