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第146話《記憶喪失篇》失われた記憶

ルミエールside


奴隷を救ってから二ヶ月後。

私たちは落ち着いた日々を過ごしていた。


「さて……」


そんな中、私は工房に籠って、この二ヶ月間、研究していたアイテムと睨めっこする。


「ん〜……どうすっかな〜……」


それは指輪型のアイテム。

奴隷紋を付けられた際の効果の中に、傷の即時回復というものがあった。

どうにかしてこれを再現したい。

再現できれば、戦闘の負担が減るはず。

なんで指輪型かって?

そんなの婚約指輪に決まってるでしょうが!

リファと婚約したというのに、未だに法律の改正が見えない。

まあ、仕方ない。

ルールを変えるというのはそう簡単にいくことじゃない。

だから、待てる。

だが、肉体的関係は進んでいるのに、目に見えての関係の象徴がない。

足りないのは、婚約指輪。

ということで、前回の経験を活かして、即時回復機能のある指輪を作りたいのだが、この二ヶ月、失敗続きだ。

何度調整しても、回復できない。

むしろ爆発したりしていた。

あの時は指吹っ飛ぶかと思った……

他にもチビアンデッドを召喚したり、水が出たり、雷が出たり。

試作品の総数、367個。

マジで頭おかしくなるかと思った。

それほど失敗に失敗を重ねているわけだ。


「はぁ〜……」


原因がわからない。

最初は魔法のイメージが不十分なのかと思い、《魔法封印魔石》に回復魔法を封印して、使ってみたのだが、爆発した。

なら、指輪に使っている素材がダメなのかと思い、素材を変えたのだが、小さなアンデッド、チビアンデッドが現れた。

すばしっこくて処理するのに時間がかかった。

私の中でこの二つが原因だと思っていたので、予想が外れた。

それから一向に何が原因か分からず、二ヶ月近く経過してしまった。


「う〜む……」


本当に何が原因なんだろうか……

私は落ち着いて、考える。


「もしかして……?」


私は新たに一つの可能性を見出していた。

それは『魔力の相性』だ。

私の今までの発明品は魔力を『使用する』

しかし、今回の発明品は魔力を『取り込む』

根本的に違うのだ。

これまで、私の体内に魔力を流すような発明品は無かった。

しかし、今回は傷を癒すために、魔力を流す必要がある。

魔法は基本的に自分自身の魔力を使用する。

回復魔法もその例外ではない。

このアイテムは内側から魔力を流して傷を癒す。

そう考えると、残る原因は『魔力の相性』だ。

では、奴隷紋はなぜ回復効果を得たのか。

完全なる推測になるのだが、私の中に微弱ではあるが魔力があるということだ。

私はケイオスに魔法を、魔力を奪われた。

とは言っても魔力というのは湧き出るものだ。

多分、今の私はお風呂に栓がされていない状態で水を流しているのと一緒なのだろう。

だから、魔力が発生してもすぐに消える。

貯まらないから魔法を使えない。


「じゃあ、魔力の相性がいい人を探すか〜……」


そう思い立った私は王宮にいる全員に頼んで《魔法封印魔石》に回復魔法を詰めてもらうことにした。


─────────────────────


「カーニャ、リュウキ!」


私は早速工房から出て、家の中にいた二人に声をかける。

リファは、真面目なことに自主練をするために《シュタルク》へ行っている。


「どうかしましたか?」

「ちょっとこれに回復魔法を使って欲しいんだよね!」

「わかった」


二人は魔石に回復魔法を使用する。


「ありがと!」


私は次に王宮へと足を運んだ。


「やっほ〜!メディ!」

「ルミ!今日はどうしたの?」

「ちょっと実験をしててね!これに回復魔法を使って欲しいんだ!」

「いいわよ!」


私が《魔法封印魔石》を渡すとメディは回復魔法を使用する。


「ありがと!」


私はメディのところを後にする。

じゃあ次は……!!


「お姉様〜〜!!」

「「「ルミ!!」」」

「なんだよ、今ルミは私のことを呼んだんだぞ?」

「いいえ?私のことを呼んだのですよ?」

「何を言っているんです?私に決まってるじゃないですか」

「全員ですけど」

「「「気のせいです」」」

「いや、気のせいじゃないんだが?」


この人たちは本当に人の話を聞かない。


「ルミ、あなたがこちらに来るとは珍しいですね?」

「お母様!」

「何かあったのか?」

「お父様まで!ちょうどいいところに!」

「はい?」

「これに回復魔法を使ってくれませんか?」

「よくわからんがいいぞ?」


そう言ってお母様とお父様も回復魔法を使ってくれた。


「「「私もやります(るぜ)!!」」」


急に来たなこの人達……

まあ、とりあえずお姉様達の分も回収できたし!

一旦実験してみるか!


「ありがとうございました〜!」


そう言って私はアトリエに戻り、工房に籠った。


─────────────────────

「さて……試しますか!!」


私の目の前には八個の指輪が並んでいた。

まずは可能性の高い、血縁関係のある奴から!

私はお父様のものを手に取り、指につけて、指先を浅く切る。

すると。


「ぐえっ!」


指輪から魔石が外れておでこに激突した。


「いっつぅ〜……」


お父様はダメか……


「じゃあ次は……」


今度はお母様のリングを手に取り、装着する。

すると。


「あっつぅ!?」


指輪が燃えた。

お母様もダメか……


「次っ!!」


その後、お姉様方のものを試したのだが。


「寒っ!!」

「あががががががっ!!」

「目がああっ!!」


体温を奪われ、ビリビリペンみたいになって、砂埃が目に入って。

もう、散々だった。


「はぁはぁ……」


もうすでにボロボロだった。


「つ、次……っ!!」


私はメディの指輪をつける。

すると。


「うおおっ!?」


凄まじい突風が巻き起こり、スカートが捲れる。


「ちょっ!?」


私はスカートを抑える。

それからしばらくして止んだ。


「つ、次っ!!」


カーニャの指輪をつけると。


「痛い痛いっ!!」


指を見ると傷が大きくなっていた。

これは傷を開く効果があるらしい。

私は慌てて指輪を外す。


「はぁはぁ……」


私はその場に崩れ落ちる。


「さ、最後の一個……!!」


私はリュウキのリングへと手を伸ばす。

そして、そのリングをつけた瞬間。


「うえっ!?」


私の体は空中に舞う。

ヤバっ!!

受身間に合わな……!!

そう思った直後、ゴン!!という音と共に私の頭はカッチカチの床に叩きつけられた。

そしてそのまま、意識を失った。


─────────────────────

リファリアside


「ふっ!はっ!せやっ!!」


私は《シュタルク》に来て、一人肉弾戦の訓練をしていた。

ルミ様のあの強さは努力の結晶。

私も少しでも追いつけるようにしないと!!

そう考えながら、さまざまな動きの練習をする。


「はぁはぁ……」


私は汗だくになった体を拭く。


「ふぅ……」


私は道場の床に寝転ぶ。


「ルミ様……」


二ヶ月前。

ルミ様は私に内緒で危険を冒した。

事件が解決した後に聞いたのだが、連絡しなかったのは忘れていただけだったようだ。

しかし、こうも言っていた。

『忘れていなくても、リファは巻き込まない』

ルミ様のことだ。

私を危険な目に遭わせられないとか言うのだろう。

まあ、今回に限ってはルミ様の発明した淫紋ありきの潜入だったため、正解といえば正解だ。

私には淫紋を施してもらっていなかった。

そんな状態で行っていれば確実に孕んでいた。

だが、婚約者としては一言欲しかった。

そんなことを言えば、ルミ様はきっと、『リファは私のことになると見境がなくなるから言わない』というのだろう。

確かにルミ様のことになれば見境がなくなる。


「心も鍛えないと……」


そうは思うが、鍛えても根本は変わらない気がする。

正直言ってどうにか出来るとは思っていない。

だが、出来るだけ抑えようとは思う。


「精神統一しますか……」


私はルミ様に教わった坐禅を組む。


「ふぅ…………」


上を向いている足裏には道場の汚れが少し付着している。

私は目を閉じて集中する。

そんな時だった。


「リファっ!!ルミがっ!!」


リュウキが今までにないほど慌てた様子で道場に駆け込んで来たのは。


「ルミ様に何かあったんですか!?」

「いいから!!」


私は服を回収し、道着のまま、アトリエへと向かった。


─────────────────────


カーニャside


「最近は事件も無いし、ゆっくり出来ていいですね……」


私はリュウキにコーヒーを入れて、そんなことを言う。


「そうだな……」


リュウキはコーヒーを啜りながらそう言う。


「平和が一番だ」

「ですね……」

「そんな世界が出来るといいな……」

「出来ると思いますよ。道のりは長いと思いますが」

「フッ……そうかもな」


リュウキは少し口角を上げてそんなことを言う。

きっと、ルミ様なら……

そんなことを思っていると、ゴン!!という鈍い音が聞こえてきた。


「なんだぁ!?」

「ルミ様……!!」


私はすぐさま工房の扉を叩く。


「ルミ様!?何があったんですか!?大丈夫ですか!?」


私の言葉に返答はない。


「ルミ様、開けますよ!!」


私がドアを開けると。


「ルミ様っ!!!」


そこには頭から血を流して倒れているルミ様がいた。


「どう…し……た……?」


リュウキは固まった。


「おい!!ルミ!?しっかりしろ!!何があったんだ!?」


私が周囲を見ると。


「これは……!!」


そこには《魔法封印魔石》の埋め込まれた指輪があった。


「この魔石は……」


リュウキの顔から血の気が引いていく。


「私の魔法のせいなのか……?」


私は動揺するリュウキを他所に、《インカム》でメディに連絡を取る。


「メディ!!ルミ様の工房に来てくださいっ!!」


私の切羽詰まった声を聞いたからだろうか、バタバタする音がする。


『わかった!!今すぐいく!!』


そう言って通信は途絶えた。


「私の……?私のせい……?」

「リュウキ!!しっかりしてください!!」


私の言葉が届いていないようだ。


「しっかりしろ!!リュウキ!!」

「……っ!!」


ようやくリュウキが戻ってきた。


「わ、悪い……」

「このことをリファ様にお伝えください」

「わかった!!」


リュウキは猛スピードで出て行った。

私はその辺にあった《即効完全薬》を飲ませる。

傷は塞がったが、失った血が再生するわけでは無い。

それに加えて、脳への損傷も治せるわけでは無い。


「ルミ様……!!」


私はルミ様の手を握っていた。

すると。


「カーニャ!!」


メディが到着した。


─────────────────────


「容体は?」

「とりあえず《即効完全薬》を飲ませて傷は塞ぎましたがそれ以外はなんとも……」

「わかった。外傷の原因は?」

「おそらく、リュウキの魔石の入った指輪かと」

「どういうこと?」

「ルミ様は二ヶ月前から傷の自動治癒の出来るアイテムを作成しようとしていました。その中でルミ様とリュウキの魔力の相性が悪かったんだと思います」

「なるほど……事故ってことね……」


それにしてもあそこまで動揺しているリュウキは初めて見た。


「とりあえず、《エグゼイド》に搬送するわ!!」


そう言ってメディはルミ様を担いで、《エグゼイド》へと向かった。

私もそれを追った。

─────────────────────

リファリアside


「カーニャか?ああ、わかった!」

「どうかしましたか?」

「ルミが《エグゼイド》に搬送されたそうだ!」

「わかりました」


私達は急旋回し、《エグゼイド》へと向かった。


「カーニャ!」

「リファ様……」


《エグゼイド》に到着すると、カーニャが入り口にいた。


「ルミ様は……?」

「生きています」

「はぁ……」


とりあえず一安心だ。

だが、カーニャの表情は曇りきっている。


「………万時解決というわけではなさそうですね」

「はい……とりあえず着いてきてください」


言われた通り、カーニャに着いていくと一室の病室に着く。

そこには頭に包帯を巻いており、上半身を起こした状態のルミ様がいた。


「ルミ様……?」

「───あなたは、誰?」


ルミ様のその衝撃的な言葉に私は、いや、私とリュウキは絶句した。


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