目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
第34話《笑顔の国篇》潜入、敵の本陣

ルミエールside

宿に戻った私たちは作戦を考えていた。

「なるほど……王宮の地下ですか……」

「それと、リファも聞いたと思うけど、サウスターの発言から鑑みるに外にいると何かしらの方法で私たちを監視してる可能性が高い。」

「昼間に行動を起こすのは得策ではありませんね」

「そう。だから夜に動きたい。それと、私達が侵入してくると読んでトラップを仕掛けている可能性がある」

「ルミ様は弱点が多いですからね」

「うるさい」

実際そうだけど!!

「宿の会話は聞かれてないんですよね?」

「多分」

「でも、服屋での様子は見えていた可能性がある……」

「同じ屋内なのに何が違うんだろう……」

しばし沈黙が流れる。

「───人、じゃないでしょうか?」

なるほど……

私の会話が聴かれていない部分は必ず一人もしくは二人の時だ。

ってことは……

「サウスターは国民に細工をしてる……?」

「その可能性が非常に高いですね……」

「ちょっと待って……」

「どうかしました?」

「国民を通して私たちのことを監視してるのだとしたら、私がマッサージに悶えてる様子も見られてるのでは……?」

「そうですね」

「え、絶対トラップあるじゃん」

「そうですね。おそらく的確に弱点をついてきますね」

「マジか……」

不謹慎だけど……

すっごく興奮する……!!

「本当に変態ですね」

「唐突な変態呼ばわり!?」

「どうせあなたのことです。『不謹慎だけど、興奮する〜!』などと愚行しているのでしょう?」

「ソ、ソソ、ソンナワケナイジャナイデスカイヤダナー」

若干、ふざけた感じの声色で言ってくるリファに、視線を逸らしながら棒読みで返事をした。

なんで心を読んでくるかなぁ……

まあ、兎にも角にも、王宮に潜入することは決定した。

王宮内に仕掛けられたトラップが懸念点ではあるけれども、なんとかなるだろうと思った。

「じゃあいつ侵入する?」

「今夜、と言いたいですが、あまりに急すぎますね。明日の夜にしましょう」

「わかった!オニキス、もうちょっと調べといてくれる?」

『わかった〜!』

オニキスは元気よく返事をすると、再び分裂体を影に送り込んだ。

「じゃあ明日は肩慣らしがてら、依頼でも受けよっか!」

「はい」

こうしてこの日、私たちは眠りに就いた。


─────────────────────


翌日、私達は冒険者ギルドに向かっていた。

もちろん、何があってもいいように、耳には盗聴器の受話器をつけて。

「どんな依頼を受ける?」

「そうですね〜……とりあえず、サクッと片付けられるやつがいいですね」

私達は自然な会話をしながら、ギルドに向かって足を進める。

すると受話器から。

『て、敵対する気はないのか……?それとも気付いていないのか……?』

サウスターの困惑する声が聞こえてきた。

まあ、この国に来てから三日ほど経つが、未だにサウスター関連の情報を話してない。

どういう形で私たちを監視していたかさえわかれば、あとは容易い。

上手いこと、公衆の面前でサウスターの話題を避け、どれほど違和感に気付いていないように振る舞うか。

これだけでいい。

そんなことを考えていると、ギルドに到着した。

「さて、じゃあ行きますか!」

私達がギルドの扉を開けると、その場にいる全員がこちらに注目した。

その表情は嘘くさい笑顔を貼り付けたようなものだった。

本当に悪趣味だと思う。

もう少しの我慢だからね……!

私たちは受付嬢に話を聞く。

「受ける人がいなくて困っている依頼はない?」

「ありますよ〜!こちらですね〜!」

そう言って目の前に出してきた紙書かれていたのは、『ウッドホーンディアー討伐』だった。

ウッドホーンディアー。

それは鹿型の魔物にして、森の生態系のトップに位置するモンスター。

「本来は森の奥深くに生息してるんじゃ?」

「はい。本来はそうなんですが、ここ最近、ウッドホーンディアーがそこまで深くないような森で見掛けられたり、依頼は異なるんですが、グライラビットやケイブセンチピード、ブレイジングブラッドベアーなども出現しているんです」

かなり高ランクの魔物だ。

普段ならそんな高ランクの魔物がホイホイ出てくるような環境ではない。

ということは何か人為的な原因がある可能性が高い。

例えば、サウスターが何かした、とかね?

「よし、その依頼、全部受けるよ」

「わかりました〜!」

相変わらず気味の悪い笑顔で受付嬢は言った。

「じゃあ行こうか!」

「はい」

私たちは森へと繰り出した。


─────────────────────


「さてと……」

森に着いた私たちは情報を共有していた。

「ここ最近、高ランクの魔物をよく見かけるようになったみたい。」

「なるほど……ルミ様はサウスターの仕業ではないかと疑っていると?」

「That's right!だからここは三手に分かれよう」

「なるほど……個々人で探ってみると?」

「そう。私はブレイジングブラッドベアーを、リファはウッドホーンディアーを、オニキスはケイブセンチピードとグライラビットを倒そう!」

「わかりました」

「何かあったらこれで伝えて」

そう言って私が渡したのは《インカム》だ。

これもかなり苦労した。

アトリエがないから尚更だ。

ライアスの時に連絡が途絶えて、自ら危険な道に進むことになってしまったため、連絡様のグッズは必要だと考えていた。

そこで開発したのがこの《インカム》だ。

これは魔力を通すことによってもう一方のインカムに情報を伝えられる。

私の持つ《インカム》にはスイッチがあり、押すことで魔石の魔力を通して、情報を伝えられるという仕組みだ。

「わかりました。では」

そう言ってリファは《量産型シエル》に乗って飛んでいき、オニキスも影に入っていった。

「さて……こっちもやりますか!」

そう言って振り返った視線の先には数匹のブレイジングブラッドベアーがいた。

「とりあえず、遠距離から牽制だね!」

私は《クレシェンテアルク》を取り出し、射撃用意をして、《シエル》の上に立って構える。

「グルルガアアア!!」

そんな雄叫びを上げて、一匹が火球を吐いてくる。

私は《シエル》でサーフィンするかのように火球を避ける。

そして避けきると同時に矢を放ち、ブレイジングブラッドベアーの額に直撃させる。

バタンという音を立てて、ブレイジングブラッドベアーは倒れる。

「「「グルルガアアア!!」」」

それに怒った三匹が連続で火球を吐いてくる。

流石にこれ以上遠距離はキツイな……

そう考えた私は、《クレシェンテアルク》を仕舞うと、《ラファールランス》を組み立てる。

「てやああ!!」

私は一匹のブレイジングブラッドベアーの真上に《シエル》をつけ、そこからの落下の勢いを利用して、ブレイジングブラッドベアーを貫いた。

「グルルガアアア!!」

背後から襲ってくる気配を感じたので、肘打ちで一瞬怯ませた後に、《ラファールランス》でブレイジングブラッドベアーを貫いた。

「グルルガアアア!!」

次の攻撃に移行しようとしたが、《ラファールランス》が引っ掛かり、すぐに抜けそうになかった為、《ファンタズムエッジ》に切り替え、ブレイジングブラッドベアーの火球を斬り伏せる。

「てやあああ!!」

私は一歩踏み込み、ジャンプし、そのままブレイジングブラッドベアーの首を切り落とした。

「こんなもんかな!」

私は武器を仕舞い、周辺を探索していた。

すると、とあるものを見つけた。

「これは……」


─────────────────────


リファリアside

ルミ様と分かれ、しばらくした時。

「キュルルゴオオ!!」

ウッドホーンディアーの鳴き声が聞こえてきた。

「見つけた……!!」

私はウッドホーンディアーに気づかれないよう、息を潜める。

まずは個体数を把握しないと。

草むらに隠れて、様子を伺う。

私の視線の先には四体のウッドホーンディアーがいた。

四体……なんとかできそう……!

私は《アムールエスパーダ》を抜いて、ウッドホーンディアーに斬りかかる。

「「「キュルルゴオオ!!」」」

気付いたウッドホーンディアーは蔦を伸ばし、私を絡め取ろうとする。

私は剣先に炎を纏わせ、処理していく。

「《バーニングストライク》!!」

私は一体目のウッドホーンディアーの首を斬り落す。

「「「キュルルゴオオ!!」」」

残りの三体は仲間がやられたことに怒り狂っている様だった。

「参ります」

ウッドホーンベアーたちは次々と木の槍や蔦などで攻撃してくるが、私はそれを回避したり、斬ったりして確実に距離を詰めていた。

「《ライトニングソニック》!」

私は稲妻の如き速さで、残り三体の急所をついて、撃退した。

「こんなものでしょうか……」

この戦闘で気づいたことがある。

「魔力が吸い取られてる……?」

魔力はそれほど使っていないにも関わらず、魔力がいつもより多く減っている気がする。

何か原因が……?

私がそう思ってもう少し奥に入ってみると、とあるものを見つけた。

これが魔力を……!

ルミ様に連絡しないと!

私は《インカム》でルミ様に繋いだ。


─────────────────────


それは球のような形をした水晶だった。

これからは、魔力を持たない私でさえも感じることができるほどの強い魔力を放っていた。

そんな時、リファから通信が入る。

『ルミ様。水晶玉の様なものを見つけたのですが』

「こっちも見つかった。それで?」

『近づくと魔力が吸収されている気がするんです』

「魔力が?」

『はい』

「なるほど……この魔力に近づいてはいけないと本能的に感じた奴らが街の近くに追いやられる形で来たんだね……」

『だとするとこれは……』

「うん。サウスターが何かした可能性が高い。」

『壊しますか?』

その質問に少し考える。

今ここで破壊してもいいが、それだとサウスターに気付かれる可能性がある。

そう考えると、破壊は私が指示したタイミングでオニキスがするというのが最もローリスクだ。

「いや、まだ大丈夫。」

『わかりました』

すると今度はオニキスから報告が入る。

『主〜!水晶玉見つけた〜!』

「それ、まだ壊さないでね?」

『わかった〜!』

「あと、新しい仕事頼める?」

『任せて〜!』

「新しい仕事は簡単。私が壊してって言ったら、水晶玉を四箇所同時に破壊して欲しいの」

『わかったよ〜!』

そう。もうすぐ日が暮れる。

潜入する時が刻一刻と迫っている。

『ルミ様、戻りましょう』

「うん」

私は一旦通信を終え、《シエル》に乗って街へと戻った。


─────────────────────


その日の夜。

「さてと……」

私達は怪しまれないようにするため、いつも通りの生活を送った。

もちろん、ギルドからの依頼達成金も貰った。

自室でいつもの格好に着替えた私たちは出発の準備を整えていた。

「今日は新月か……」

「こういうことにはお誂え向きですね」

「だね!じゃあ忍んで行こうか!」

「はい」

部屋の入り口から出ると、流石にバレそうなので窓からシエルに乗って飛び立った。

新月ということで月明かりはない。

そのため空を飛んでいても一切気付かれることはない。

私達は少し飛ぶと、王宮の近くに降り立った。

「さてと……」

「油断なく行きましょう」

「もちろん」

私たちは王城を徘徊している看守たちの隙をついて侵入していく。

現状特にトラップはない。

もちろん油断せずに進んでいく。

まあ、結局いっぱいトラップに引っかかることになるんだけど。


─────────────────────


サウスターside

「どうやら来たみたいだな」

俺は水晶玉越しに王宮内に侵入してくる二人を捉えていた。

森に配置している水晶玉に近づいた時点で敵対することは確信していた。

まあ、問題はないだろう。

ちゃんとトラップを仕掛けてある。

王女アイツの性格なら必ず引っかかるようなトラップだ。

「さぁ、無様な姿を晒してくれよ?ルミエール=ラウエル?」

この時の俺は完全に舐めていた。

ルミエール=ラウエルという人間のことを。

そして知ることになる。

人の心がどれほど強く、自分がどれほど愚かな行為に走っていたのか。

コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?