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第30話《農業の国篇》豊穣祭

ルミエールside

アグリュート王と話した後、宿に戻っていた。

「ルミ様」

「何?」

武器の手入れをしていた私にリファが話しかけて来た。

「聞きたいことがあります」

「聞きたいこと?」

「はい。」

すごく改まった様子だったため、思わず姿勢を正す。

「田植えについてです」

「へ?」

意外な言葉が出て来たせいで間の抜けた返事をしまった。

「ですから私に田植えについて教えてください!」

バンと机を叩いて言ってくる。

「いいけど……また急にどうして?」

「私はわからない事は事前に調査して準備しておくのです」

「真面目だね〜!」

「昔からそうしないと自分のダメさが露呈してしまいますから……」

「そっか……」

リファもみんなに認めて貰えるように頑張ってたんだな〜!

「そんなに頑張る必要ないよ?」

「え?」

「だって、他の人が認めなくても私がリファを認めてるじゃん!」

「ルミ様……」

「私がこう言っても『癖だからやめられない』って言うんでしょ?」

「そこまで見透かしているんですか?」

「見透かすも何も、そんなのちょっと考えればわかることなんだから!」

そう言って私はリファにウインクした。

「さて、何から説明しようかな〜!!」

私はリファに田植えについて一晩中説明した。


─────────────────────


翌日、私達は田植えの出来る格好で水田前に来ていた。

二人とも裸足で。

リファには昨日、専用の長靴があることを話したのだが、本人が『ルミ様が裸足でなさるのならば、私も裸足でします。弟子が師匠を差し置いてそんなものを使うわけにはいきませんから!』とのことだ。

まあ、アグリュート王と『裸足で田んぼに入るの気持ちいい』という話で盛り上がっていたから、気になったのだろう。

個人的にはどっちでもいいけど。

でも、リファは裸足でやるという事は綺麗な足も泥だらけになるって事だよね!?

それは若干興奮するかもしれない。

まあ、貴族令嬢が田植えをするという状況だけで十分面白いのだが。

その令嬢が可愛いとくれば完璧だ。

むさ苦しい男が泥だらけになるより、可愛らしい女の子が泥だらけになる方が興奮する。

「さあ、皆集まってくれて感謝する!!今年も豊穣祭の前座として田植えをする!!今回は特別なゲストが来ている!先日からこの国を賑わせていた森のモンスター大量発生事件を解決した冒険者のお二人だ!」

っていうか事件そんな名前ついてたんだ……

「ミスリルランクの冒険者、ルミエール=ラウエル殿とその弟子にしてプラチナランクの冒険者リファリア=リヴェルベロ殿だ!」

「「「うおおおおお!!」」」

なんか異常に盛り上がっていた。

因みに、今回の事件を解決したことにより、リファはゴールドランクからプラチナランクに昇格していた。

「ではお二人に挨拶してもらいましょうか!!」

「「え!?」」

無茶ぶりがすぎませんか、アグリュート王!?

結局断りきれず、挨拶のために登壇することになってしまった。

「えっと……」

ヤバい。言うことが一切思いつかない。

そんな困っていた私を見て、リファが。

「みなさん。ここにいらっしゃるルミエール=ラウエル様の本業はご存知ですか?」

「リファ!?」

この子、私が王女ってことバラそうとしてない!?

「「「王女様!!」」」

リファがそのことを口にする前に、集まっていたみんなが声を揃えて言った。

「な、なんで知ってるの!?」

「当たり前じゃないですか!アグリュート様が言ってたんですから!ですからこんなに人が集まって盛り上がってるんですよ!」

すると民衆の中の一人が発言した。

「アグリュート王!?」

「ははは!安心してくれ!彼らには『王女』ではなく『冒険者』として接してくれと頼んでいるさ!」

「全く……自由すぎます!!」

「ルミ様も人のこと言えた立場じゃないですよ?」

「ま、まあ、今日は私の事はルミって呼んでね!それと敬語も無しで!」

「「「わかった〜!!」」」

民衆は再び声を揃えて言った。

どこかのアイドルかな?

そんなことを思いつつ、挨拶を終え、降壇した。

「お二人からの挨拶も終わったということで!みなさん!今日で田植えを終わらせる勢いで行きましょう!!」

「「「はい!!」」」

そして田植えが始まった。

苗を受け取った私とリファは田んぼの縁に立っていた。

「初めて地面を裸足で歩きましたが、なかなか開放的でいいですね?」

「でしょ!?」

「ですが履き物を裸足で履こうとは思いませんが」

素足履きを増やせなかったか……

「早くやりましょう。私、昨日から楽しみにしてたんですよ」

「田植えが楽しみとは……なかなかの猛者だね……」

「???」

リファは不思議そうな表情を浮かべていた。

まあ、少しすれば知ることになるだろう。

手作業で植えることの大変さを。

「じゃあ入ろうか!」

「はい……!」

楽しみにしていたといっても若干緊張しているようだった。

「大丈夫!印もつけてくれてるし!型の力を抜いて?」

そう、光魔法を応用して、水田の植えるポイントが光るように細工している。

「行きます」

そう言ってリファは恐る恐る水田に綺麗な足を突っ込む。

「ひゃああ!」

「おっ!意外と可愛らしい声が出たね〜!」

「び、びっくりしただけです!」

片足を突っ込み、顔を赤らめて抗議してくる。

「まあ、分かるよ?最初はちょっとびっくりするよね!私もそうだったし!」

「気になっていたんですが、やったことあるんですか?」

「まあ、ちょっと微妙なところだけど」

感覚を覚えているだけだ。

この世界に転生して来てから、この国に何回か来たことはあるが、田植えをした記憶はない。

感覚を覚えているということは前世で裸足で田んぼに入ったことがあるのだろう。

何故断言できないのか。

それは簡単だ。

単純に思い出せない。

記憶を『断片的にしか』思い出せない理由は未だにわからないが、知るつもりもない。

今はそんな事は置いておいて、田植えに集中!

そう思い、私も転ばないようにゆっくりと田んぼに入る。

あ〜あ!やっぱり気持ち〜!

裸足で入ること自体、虫とかにやられる可能性があるが、それを差し引いてもこの気持ちよさを体験する必要はある。

ふと隣を見ると、リファも両足を入れていた。

「じゃあ始めようか!」

「はい!」

そして私達は植えるポイントに沿って、苗を丁寧に植えていく。

ここからは会話などなく、お互いに集中して田植えをしていった。


─────────────────────


それから一時間が経ったころ。

「ルミ様、休憩しませんか?」

リファがそんなことを言って来た。

「腰が痛いんでしょ?」

私がそう言うとリファは頷いた。

「正直に言いますと、田植えを舐めていました。ルミ様から『舐めない方がいい』と言われていたのにも関わらず………」

「大丈夫大丈夫!そんなの誰でもあり得るから!」

「しかし、農業というのはこれほどまでに大変なのですね」

「そうだよ?だから農家さんには感謝して作物を食べないと!食べ物を残すって事はその人達の努力を水の泡にするのと同義だからね?」

「これはより食事を大事に出来そうです……!」

リファは腰に手を当て、体を伸ばしながら言った。

「でしょ?」

「そう考えたらもっと頑張らないといけませんね!」

そう言って先ほどまで公文の表情を浮かべていたリファは笑顔に変わり、田植えを再開した。

それから五時間後、田植えは完全に完了した。

「みなさん!みなさんの協力のお陰で今日中に全ての田植えが完了しました!!」

「「「うおおおおおおお!!」」」

そう言って喜ぶみんなは泥だらけで、頑張りが垣間見える。

中には転んだ人もいたのか、全身泥だらけの人もいた。

もちろん、私たちも例外なく泥々だった。

足と手は特に。

いつも綺麗なリファの足が泥々なのを見て、なんとなく背徳感を覚えた。

こんなにいい意味で汚い足をこんなに間近に見られるのは私だけだと考えたら……

まあ、背徳感は湧くよね。

それにあんな足で踏まれたい……

うん、やっぱ私、生粋の変態だわ。

するとリファは耳元で。

「この足で踏んであげましょうか?」

「なっ……!!」

なんでこの子普通に心読んでくるの!?

た、確かに思ってたけどね!?

魔法でも使ったの!?

「魔法なんて使ってませんよ?変態ルミ様のことならなんでもわかりますから」

そんなことを言われ、思わず赤面する。

「ホントに可愛いですね?」

「も、もう!揶揄わないでよ!」

そんなことを言い合いながらも、私たちはひとっ風呂浴び、気絶するように眠った。

まあ、お互いそれほどまでに疲れていたのだろう。

田植え、楽しかったな〜!


─────────────────────


田植えした翌日。

私達はパンパンといった空砲の音で目を覚ました。

「───っん、う〜ん……」

「おはようございます。ルミ様」

「うん。おはよ〜!」

私は体を伸ばしながらリファに挨拶し返す。

「外見てください」

言われて、私は窓の外を見る。

すると騎士団がパレードをしたり、街中が飾り付けられ、沢山の出店が出ていた。

「おぉ〜!!すごいね〜!!」

「これは豊穣祭……!」

リファの外を見る目がどこかキラキラしていて、珍しいものを見た子供のようだった。

「さて……じゃあ着替えたら行こうか?」

「はい。開会式はもうすぐです。ですので早く準備してください」

「はいはい!」

『主〜!オニキスもいっぱい食べたい〜!』

「もちろん!いっぱい食べようね!」

『うん!』

オニキスとそんな会話をしながら私は着替える。

腰のベルトに、それぞれの武器もセットして。

「よし!これで準備完了!」

「では行きましょうか」

「うん!」

するとリファは私の手に指を絡めて、俗にいう恋人繋ぎをした。

「え!?あ、リ、リファ!?」

「いいじゃないですか。折角のお祭りデートなんですから」

そう言ってリファは私のニコッと微笑んだ。

コ、コイツぅ……!!

ズルいよ……!!

そんな私の気持ちを読み取ることなく、リファは私の手を引いて、開会式場に向かった。

───のはよかったのだが。

「あの、リファさんや」

「なんですか?」

「なんで舞台裏に来たのかな?」

「なんでって……言わせないでください。恥ずかしい」

「えっちなことでもするの!?」

「違いますよ。何言ってるんですか?バカなんですか?」

「ひどくない?」

急に真顔で辛辣なことを言ってくる。

「まあ、本当のことを言いますと───」

リファが何かを言いかけた時、登壇していたアグリュート王が衝撃発言をかました。

「今日は数日前からこの国に来国しているゲストが挨拶をしてくれます!!」

あっ、もしかして私、嵌められた!?

「では挨拶していただきましょうかな!お願いします!ルミエール=ラウエル殿!!」

やっぱりか〜!!

私が振り返って見ると、リファが悪戯が成功した子供のような表情を浮かべていた。

感情がいっぱい見られるようになって嬉しい!

嬉しいんだけど……!!

なんでこんなことに……!!

まあ、ここまで来た以上、仕方ないので私はステージに登壇する。

すると民衆から歓声が飛んでくる。

よし、モード切り替えるぞ〜!

「みなさん、初めまして。ルミエール=ラウエルです。本来ならラルジュ王国第四王女として来国するところですが、諸事情により、ミスリルランク冒険者ルミエール=ラウエルとして来国しています。なので『王女』ではなく『冒険者』として接して頂きたいと思っています。ですので買い物した時も容赦なくお金を取ってください。割引も不要です。私は皆さんと一緒にこの豊穣祭を楽しみたいと思っています。昨日、田植えにも参加させていただきました。そこで私の弟子は農業の大変さを学んでいたといっていました。私も農家の皆さんの凄さは重々承知しています。農家の皆様、美味しい農作物をいつもありがとうございます。この場を借りて感謝の意を申し上げます。」

そう言って私は頭を下げた。

それと同時に国民からは大きな拍手が巻き起こった。

それは二分半もの間続き、鳴り止む事はなかった。

よし!完璧!これで心置きなくリファとのお祭りデートを楽しめる!!

そんなウキウキ気分で私は降壇した。

「お疲れ様でした。」

「ホントに疲れたよ〜!」

「じゃあ、お祭りに行こ!」

「はい!」

こうして私とリファのお祭りデートが始まった。

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