ルミエールside
「はああああ!!」
私はモンスター達の首を斬り落としたり、胸を貫いたりして撃破していく。
「あなた達はなんでこんな事をしているんですか……!!」
リファが悲しそうに言う。
一応リファにも今回の事件の犯人の大体の目星は伝えてある。
「俺たちの邪魔をするな!!」
「止めるよ、絶対」
私はモンスター達を斬り伏せながら、ゆっくりと二人に歩み寄る。
「どんな辛いことがあっても、前に向いて進むしかないの」
「黙りなさい!!私達はもう戻れないの!!」
「戻れるよ。あなた達がそれを望むなら」
「何を根拠に!!」
「あなた達はまだ人的被害を出していない。」
「だからここで捕まれば刑罰は短いものになる」
「何故俺達があの王の慈悲を受けなければならない!!あの王がスラム街を潰さなかったから……野蛮な犯罪者共を野放しにしたから!!」
「それは難しい問題だと思う。例え犯罪者だったとしても、人間であることに変わりはない。それに、スラム街の犯罪者を捕まえたところで、あんな犯罪者達が根本から消えるわけじゃない。消えれば新しく現れるのが世の常なの」
「それでも!!少しでもスラム街の犯罪者を捕まえておけば、娘は死ななかったかもしれない!!」
「なら、何故言葉で訴えなかったのですか……!!」
「そんなの、あの王が聞くわけが……」
「聞くよ。あの人は……アグリュート王は聞くよ。例えどんなにつまらない話でも」
「何故そんなことが分かるの!!」
「昔からそうだったから」
「昔からだと……?」
「私がこの国に来るたびに楽しい話を聞かせてくれて、それで幼い私が頑張って面白い話をしようとしているのをずっと聞いてくれる人だよ。それが民であっても変わらない。あの人はいい王様だと思うよ」
「黙れ黙れ!!お前は何なんだよ!!」
「ルミエール=ラウエル。ラルジュ王国第四王女にして、ミスリルランクの冒険者!!」
私は《ファンタズムエッジ》を構えてそう宣言した。
「あ〜あ、全く……今から面白くなるところなのに〜!」
その声の方に顔を向けると、ケイオスが木の枝に爪先で立っていた。
「ケイオス……!!」
「お前、なんでこんなところにいるの?結構遠くに飛ばしたんだけど?」
「帰国中だよ!」
「へぇ〜?お前がいると計画の邪魔なんだ〜!だから消えてよ!」
そう言ってケイオスは瞬きした一瞬で距離を詰め、襲いかかってくる。
「くっ!」
私も初撃を防ぐのに精一杯だった。
やっぱり強い……!!
「リファ!その二人をお願い!私はケイオスをなんとかする!!」
「よそ見するな!!」
私は一瞬の隙をつかれ、蹴り飛ばされ、地面を転がる。
「ルミ様!」
「私の事はいいから!!」
私は転がる反動を利用して跳ね上がる。
さぁ……どうする……?
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「ほらほら!どうしたの?」
何処からか剣を取り出したケイオスに私は追い詰められていた。
やっぱり、ノーマルだとキツイか……!!
「ふっ!!」
私は剣撃の合間に回し蹴りを入れるが受け止められる。
「弱いよ」
私は少し振り回されたあと、お腹に強烈なキックをもらった。
「かはぁ!!」
私はそのまま木に叩きつけられる。
「この程度で根を上げるの?」
「そんなわけ……ないでしょ……!!」
私は《ファンタズムエッジ》を杖代わりに体を起き上がらせる。
やるしかない!!
私はポーチから《パンドラ》を取り出す。
飲むしかない!!
私は瓶から一錠取り出し、飲み込んだ。
「うおおおおお!!」
体が熱を帯びていくのがよくわかる。
「いくよ!!」
「かかっておいで?」
私はケイオスに斬りかかる。
私の《ファンタズムエッジ》を何処からか取り出した剣で受け止める。
「少しは強いみたいだね!!」
「当たり前だよ!!」
私はケイオスに蹴りを入れて距離を取る。
ケイオスはその蹴りを腕で受け流した。
「なんであの二人に近付いた!!」
「僕は人の絶望っていうのがたまらなく好きなんだよね〜!だって面白いじゃん?」
ケイオスのその言葉に怒りが湧いてくる。
「面白い……?」
「そう思わない?人が絶望するのって側から見るとすごく滑稽で面白いよね〜!」
「黙れ!!人が不幸になるのが面白い……?そんなの、私は認めない!!」
私がその言葉を発すると同時に、ドラゴンの力がさらに引き出せるようになったのを感じた。
それと同時に、ファンタズムエッジの刀身が赤い炎を纏う。
「へぇ?」
「はあああ!!」
私はケイオスに斬りかかる。
ケイオスはそれを受け止めるが、地面に軽くクレーターができる。
「なかなかのものだね!!」
ケイオスはそう言って私を吹き飛ばす。
私は剣を地面に突き立てて、減速する。
「まだまだぁぁ!!」
私は何撃もケイオスに攻撃する。
「ふっ!はっ!てやあ!!」
ケイオスはそれを笑いながら受け流す。
「楽しい!楽しいよ!!」
「はあああ!!」
全力の一振りを与えるが、ケイオスに受け流される。
その一撃の後、意識が遠退く感じに襲われた。
こんな時に……!!
そして、私の意識は乗っ取られた。
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リファリアside
「もうやめてください……!!誰もこんな事望んでない!」
「そんなこと知るか!!」
「あなた達は……!何のためにこんな事をしているんですか……!!」
「復讐のためよ!!」
「復讐して何になるんですか!あなたの娘はもう、戻って来ないんですよ!」
「そんな事はわかってる!!だが、アイツのせいで!!」
「あなたの娘がそんな事望むと思っているんですか!あなたの娘は、二人が幸せに過ごすことを願っているはずです!」
「「っ!!」」
「だからやめましょうよ……?こんな、誰も幸せにならない事は……」
私の言葉が届いたのか、二人はその場に膝をついた。
これで事件解決ですかね……
そう思っていると、ドゴーンという爆発音が聞こえてくる。
「オニキス!二人をお願い!」
それだけ言って私は爆発音のした場所に向かう。
ルミ様……!!
私が現場に到着すると。
剣先に赤い炎を纏わせたルミ様が冷徹にケイオスに斬りかかっていた。
ケイオスは笑いながら戦っていた。
「魔法……?」
「違うと思うよ?」
ケイオスは余裕そうな声色で言っていた。
「どういう事ですか」
「さっき飲んだ薬の影響じゃないかな〜?」
飲んだ薬……
《パンドラ》……!!
「多分、ドラゴンの血でも使ってるんでしょ?」
流石に言うわけにはいかず、黙っておく。
「ドラゴンの血にはドラゴンの全てが詰まってるんだよ!」
「ドラゴンの全て……?」
「血の主の意志、能力、魔法とか色々、全てが詰まってる」
「じゃあこの暴走は……」
「多分、ドラゴンの意志だろうね〜!」
「そうなんですか……では」
私は《アムールエスパーダ》を抜いて、ケイオスに斬りかかる。
「情報だけ吐かせておいてそれはないんじゃない?」
そう言いながらも余裕そうな表情は崩さない。
「《フリージングストライク》!!」
私の突きはケイオスの剣を凍らせた。
「なかなかやるじゃん!今回はここで退いてあげるよ!あの二人も使い物にならなくなったしね〜!」
そう言ってケイオスは姿を消した。
「逃げられましたか……」
私がそんなことを呟いた束の間。
ルミ様は攻撃の対象を私に切り替えて襲いかかってくる。
私はルミ様の攻撃を一つ一つ丁寧に受け流す。
しかし、冷静な判断で攻撃をしてくるため、受け流すのも紙一重だ。
「しっかりしてください!」
「………」
「あなたを、自分を思い出してください!」
「………」
私の必死の呼びかけにルミ様の剣が止まると同時に炎が消える。
「リ……ファ……ごめ……ん……」
ルミ様はそれだけ言って意識を失った。
これで今度こそ解決ですね……
私はルミ様を背負い、オニキスと一緒に二人を連行した。
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ルミエールside
「────っん、う〜ん……」
私が目を覚ますと心配そうな表情を浮かべたリファが目に入ってきた。
「良かったです……」
「そうだ……!!ケイオスは……!!」
私はそう言って勢いよく起き上がると。
チュッ!
私の唇に柔らかいものが当たった。
「!?!?!?」
私は何が起きたのかをすぐさま理解した。
これ、事故チューだ……
私は顔を真っ赤にして再びベッドに寝転がった。
「ご、ごご、ごめん!!」
「意外と大胆なんですね?」
リファは揶揄うように笑った。
「も、もう!揶揄わないでよ!!」
「別に揶揄ってないですよ?」
絶対揶揄ってるじゃん!!
「そうだ!ケイオスは!?」
「逃げられました……」
「そっか……」
「ですが、《スタンピード》についてわかったことがあります」
「ホント!?」
「はい。ケイオスからの情報ですけれど」
「ケイオスなら言ってる事は間違ってないと思う」
「何故そこまで信じられるのです?敵ですよ?」
「なんか、こう……言葉にしにくいんだけど、ケイオスの言葉だけは無性に信じていいって思えるんだよね……」
ホントに根拠とかはないけど……
するとリファは『はぁ〜……』とため息を吐き。
「ルミ様がそういうなら……」
「で、ケイオスはなんて言ってた?」
「ドラゴンの血には、その持ち主の意志、能力、魔法などが詰まっているそうで。」
「なるほど……《ファンタズムエッジ》を包んだ炎はあの時のドラゴンの力ってことか……」
私が暴走している時の人格は、ドラゴンってことがわかったけど……
なんで急に炎が……?
この条件が分かれば、もっとドラゴンの力を引き出せるはず……
でも、制御出来ないんじゃなあ〜……
とりあえず、思い出してみよう!
確か炎が出る前は、ケイオスと会話してて……
そうだ!すごい怒りを覚えたんだった!
条件は感情の起伏……?
その可能性が一番高い……
「そんな難しい顔しないでください」
リファの声で現実に引き戻される。
「ご、ごめん……ちょっと考え事してて……」
「ルミ様は変わりませんね?」
「そうかな?それはそうとあの二人は?」
「逮捕されましたが、死罪になる事はないそうです」
「そっか……」
「それと、アグリュート王が呼んでいました。」
「そっか!」
私はブーツを素足履きし、立ち上がった。
「じゃあ行こうか!」
「はい」
私達はアグリュート王の元へと向かった。
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アグリュート王の部屋の前に来ていた私達は、扉をノックする。
「どうぞ!」
「「失礼します」」
私達はそう言ってドアを開けた。
「よくぞ来てくれた!」
「呼び出したのはそっちじゃないですか!」
「はっはっは!そうであったな!ささ!座ってくれ!」
私達はアグリュート王の向かい側に座った。
「まずお二人には感謝を!事件を解決して頂きありがとうございます!」
「いえ、私達は冒険者ですから!それくらいのことは当然です!」
「そう言ってくれると助かる!それと、二人は死罪にはしない!その点は安心してくれ!」
「はい!あの人達にはこれから幸せになって欲しいですから!」
「それで、他の用件はなんですか?」
リファが言う。
「他の用件?」
「どうせあなたのことです。事件解決の件だけではないのですよね?」
「はっはっは!そこまで見破られるとは!」
「で、なんですか?」
「この度、豊穣祭を開催する運びとなりまして!お二人もどうかと!」
「「行きます!」」
「では、田植えも手伝ってくださいね!」
「ホントの狙いはそれだったんですか!?」
やられた……
ま、いっか!田植えも好きだし!
「田植えとは何ですか?」
「「え!?」」
「リファ、田植え知らないの!?」
「え、ええ……」
「水田にイネの苗を植えることだよ!」
「は、はあ……?」
リファは若干ピンと来ていないようだった。
「裸足で水田に入るの、不思議な感じがして気持ちいいんだよね〜!」
「わかりますぞ!」
「そ、そうなんですね……?」
私とアグリュート王が共感している中、リファは頭の上にハテナを浮かべていた。
こうして私達は豊穣祭の前座として田植えすることになったのだった。