ルミエールside
「美味しい!!」
「そうであろう!」
しっかりと米粒一つ一つが立っている。
それに具材もしっかりといい味がし、それでいて米の良さを損なわせていない。
「さすが、農業の国ですね。作物が非常に美味しいです」
「おお!リファリア殿もよくわかっておる!!」
「ありがとうございます」
「だけれども、最近問題が発生しておりましてな……」
「問題、ですか?」
少し気になり思わず聞き返す。
「ええ。最近、近くの森にモンスターが異常に発生しているんだよ」
「モンスターの異常発生……」
勿論、生きている以上、そんなことはあり得る。
昔読んだ本には、『モンスターの異常発生には必ず原因がある』と書かれていた。
自然発生することも稀にあるが、それは冬を越す力を蓄えるためだ。
だから冬にしかありえない。
ということは何かしら原因があるのか……
「商人達も森の方は避けて通るみたいで、迂回路を使うんですが、それだと時間が掛かってしまって……」
貿易にも不便というわけか……
「冒険者なんかの護衛は?」
「それが発生しているのがホブゴブリンキングやハイオークキングなどの上位モンスターなんだよ……」
それはますます気になる。
通常、ホブゴブリンキングやハイオークキングといったモンスターは群れで発生しない。
どちらかというと、群れを率いている感じだ。
だからこそ、この発生には違和感がある。
例外の異常発生、もしくは────
流石にここまで聞いて見捨てるわけにはいかない。
「その問題、私たちに任せてくれませんか?」
「ルミエール殿達に?」
「はい!私達、冒険者なんで!」
「おお!それはそれは!頼もしい限りであるな!」
「アグリュート王、あなたは最初からそれが狙いでしたよね?」
リファが鋭く切り込む。
その言葉に、アグリュート王は二秒ほど固まる。
「まさか、気付かれていたとは……」
「ええ。当たり前です。そうですよね?ルミ様?」
「そ、そそ、そうだよ!勿論気付いてたよ?」
「気付いてなかったんですね」
「そ、そんなわけ……」
「じゃあ何故言わなかったんです?」
「それは……リファが気づくかどうか試してただけだよ?」
「「嘘ですね(な)」」
「なあんで!?」
「ルミ様、嘘つくのが下手くそ過ぎるんですよ」
「えっ!?」
リファの口から衝撃に事実が語られる。
「それにしても見事だ!」
「立場上、色々と気を回すことが多いので」
そう言って私をチラッと見てくる。
ちゃんと私の方見てるってわかってるからね?
「そうかそうか!」
「それで、私達が受けるということでいいんですよね?」
「ああ!頼むぞ!」
そう言ってアグリュート王は私の肩に手を置き、その後、もう片方の手で、おにぎりを頬張った。
ちょっと乗せられちゃった感じはするけど、頑張りますか!
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翌日、私達は早速森に来ていた。
周囲を警戒しながら、慎重に探索を進める。
「今のところ気配はないね……」
私がそう言った途端、上からバットキングが襲いかかってきた。
「《バーニングストライク》!!」
私が気づくよりも一瞬早く反応したリファが、《アムールエスパーダ》を抜き、木を支えにして、襲ってきたバットキングを貫いた。
「キョオウウウウ!!」
そんな断末魔を上げ、バットキングは灰となった。
「すごいね……?」
「ありがとうございます!」
そんなことを言っていると今度は背後から、ハイオークキングが襲いかかってくる。
「グルルルルル!!」
オニキスは私の影から出ると同時にフレイムウルフに姿を変え、ハイオークキングの喉元に噛みつき、そのまま押し倒す。
そして色々な場所を噛み切り、ハイオークキングを撃破する。
そんな光景を見て。
「この森、燃やしちゃったら早いんだけどな〜……」
「国際手配でもされたいのですか?」
「それはそれで面白そう」
「私はいやです」
「なんで?」
「普通は嫌でしょう?それに……」
「それに?」
「ルミ様と安心してイチャイチャ出来ないじゃないですか」
「なっ……!!」
その言葉に私は赤面する。
「ズルいよ……ホントに……」
そうボソリと呟いた後、森の奥からモンスターの迫ってくる気配がした。
私はすぐさま右腰から《クレシェンテアルク》を取り出し、弦と矢を展開する。
「ふっ!!」
私は目一杯、弦を引き、そしてそれを離して矢を放つ。
ヒットするのはハイオークキングやホブゴブリンキングの目や、太ももといった急所部分。
しかし、そんなこともお構いなしにモンスター達は進んでくる。
だったら!
私は《クレシェンテアルク》を仕舞い、背部の腰から《ラファールランス》を取り出して組み上げる。
「リファ!オニキス!行くよ!」
「『はい(うん)!』」
オニキスはケイブセンチピードに姿を変え、リファは《アムールエスパーダ》を抜いて、迫るモンスター達に特攻する。
「《フリージングストライク》!!」
リファは剣先に冷気を纏わせ、ハイオークキングを貫く。
そしてハイオークキングは凍りつく。
『やあああああ!!』
オニキスは体をしならせ、ホブゴブリンキングを吹き飛ばされる。
「ふっ!はっ!せりゃあ!!」
私はまず、ハイオークキングを《ラファールランス》で貫き、背後から迫ってくるホブゴブリンキングに後ろ蹴りを喰らわせ、ハイオークキングから《ラファールランス》を抜き、ホブゴブリンキングに刺した。
「ふぅ……」
「結構な数いましたね……」
「そうだね……」
一体なんでこんなに発生しているんだ……?
「日も暮れてきましたし、一旦帰りましょう」
「うん」
私達は一旦、街へと戻った。
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「リファ、先に戻ってて!」
「どうかしたんですか?」
「ちょっと気になることがあるから!」
「わかりました。気をつけてくださいね?」
「うん!」
私はリファと分かれると、城の方へと向かった。
目的は大図書館だ。
あれだけワラワラと強力なモンスターが沸いているということは何か人為的なことが起こっていると考えて間違い無いだろう。
では誰がこんなことをしているのか。
可能性は二つ。
一つ目はビーストリアンで判明した四天王、それからケイオスの可能性。
でも、その場合、大量のモンスターを召喚しているにも関わらず、それらをアグリ農国に攻め込ませていない。
この時点で彼らの可能性は低い。
彼らの目的は定かでは無いが、攻め込ませないなら理由がわからない。
尤も、どちらかというと支援側だろう。
ライアスの時のように。
本命の二つ目、それはアグリュート王に恨みのある人物。
あの人は親戚のおじさんみたいな感じではあるが、罪人に対しては一切の容赦をしない。
そのため、罪人からは結構恨まれていそうではある。
まあ、逆恨みだけど。
だから個人的な最終予想としては、アグリュート王に恨みを持つ何者かが、大量のモンスターを引き連れてこの国を滅ぼそうとしている、というものだ。
じゃあ誰がやっている可能性が高いのか調べないといけない。
そのために私は大図書館に来ていた。
どうやらすでに話は通っているらしく、すんなりと中に入れてもらえた。
「さてと……」
この国の大図書館は非常に巨大だ。
農業は色々と配慮すべきことが多い。
だから必然的に、本の数も増える。
だが、今回私が来た目的は農業の本を読み漁るためでは無い。
過去の事件について調べるためだ。
この国に隠し事はない。
どんな残酷な真実でも包み隠さずに開示する。
そんな誠実さに国民はついてきているのだろう。
個人的にもそういうものは好感を持てる。
もちろん、全て真実を知らせるということが必ずしも正しいわけではないけど。
そんなことを思いながらも私は調べ物に着手した。
それにしても目的は本当にこの国の壊滅なのか……?
なんとなく違う気がする……
というのも、アグリュート王は『最近』起きたと言っていた。
壊滅させるのが目的なら最初から侵攻させればいいだけの話だ。
でも、実際のところ、全然侵攻してこない。
農作物を消費させようにもあの位置だと特段影響が出るわけでもない。
なら一体何が目的なのか。
そんなことを考えながらページを捲っていく。
そんな時、ある事件の記事を見つけた。
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『スラム街強姦殺人事件』
そんな事件の見出しが目に飛び込んできた。
これまで事件といっても誘拐や強盗、空き巣などだった。
そんな中初めて『殺人』が明確に出てきたのはこれが初めてだった。
どの国にもスラム街というものは存在する。
最初はそんなのよくあることだろうと思っていた。
スラム街は荒くれ者達が集う街。
強盗、殺人、強姦。
なんでもありだ。
でも、街外の人間に手を出すのはダメだ。
少しそのタイトルを見て、外から来た人が被害者になったのだなとわかった。
事件の概要はこうだ。
とある家族の女の子がおつかいに行った際、行方不明になった。
その少女の両親は必死に探したが手掛かりは何一つなかった。
それから二ヶ月が経った頃、その少女はスラム街の一角で無惨な死体となって発見された。
騎士団の調べによると、おつかいに行った日、少女は何者かに誘拐され、スラム街に放置された。
そしてそれをスラム街の人々が見つけ、満足するまで強姦し、その後殺害したということらしい。
この事件が発生したのが15年前。
そう、ライアスの事件と同じ年だ。
この国で起きた15年前の事件はこの『スラム街強姦殺人事件』だけだ。
そしてこの事件の解決以降、両親共に姿を消したと書かれていた。
あまりにも証拠が無いが今回の事件、個人的には殺害された少女の両親が復讐のために動いていて、その裏にケイオスといった奴らがいる可能性がある。
その場合、《パンドラ》を使わざるを得なくなる可能性が高い。
「はぁ……」
そんなことを考え、思わずため息を漏らした。
もし、次暴走した時、自分で止められるだろうか。
リファやみんなを傷つけずに済むだろうか。
そんなことばかりが頭の中をループする。
「ため息を吐くと幸せが逃げますよ?」
私が顔に本を乗せ、天井を向いてため息を吐いていた時、聞き慣れた声が聞こえてきた。
「リファ!?なんで!?」
「ルミ様のことでしょうからどうせ、何か可能性を見出して調べているのではないかと思いましてね」
やっぱりこの子はどこまでも見通してくる。
「流石、リファだね!」
「一応、ルミ様の弟子ですから。師匠の考えくらい読み取れないといけませんよ」
「それはもうエスパーの領域なんよ」
「それで、なんでため息を吐いていたんですか?」
「リファならわかってるんでしょ?」
「ええ、勿論。《パンドラ》の副作用のことですよね?」
「That‘s right」
「心配しなくても大丈夫ですよ。何度暴走しても必ず止めますから」
リファは真剣な眼差して言ってきた。
「そっか……随分頼もしくなったね?」
「そうですか?」
「うん。すっごく頼もしいよ!流石私の弟子だね!」
「恋人も忘れないでくださいよ?」
「だからそれはまだ違うって!!」
「はいはい。そうでしたね」
リファは揶揄うように言ってくる。
すると急に真面目な表情で。
「ルミ様、考えても仕方ありません。自分たちに出来ることをしましょう」
「そうだね!」
「ではまずはご飯にしましょうか!」
「うん!」
私はリファの提案に頷き、今宵も街へと繰り出した。
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リファリアside
私達が街を歩いているとふとルミ様が立ち止まる。
「ん?」
「どうかしたましたか?」
「これ見て!」
ルミ様は私に広告を指差す。
「『葡萄踏みの乙女』募集中、ですか?」
「そう!」
「なんですか?『葡萄踏みの乙女』って」
「知らないの!?」
「ええ」
なんだろう?
「ワインってあるでしょ?」
「はい」
「そのワインを作るために大きな桶に入れた葡萄の実を裸足で踏んで潰すんだよ!」
「知りませんでした……」
「私これやってみようかな〜!」
「えっ」
「どうかした?」
ということは普通に考えて、ルミ様が踏んだワインを飲めるということ!?
それにルミ様が踏むということは、あの白く綺麗な御御足が葡萄色に染まる!?
ワインは熟成に時間がかかる。
なら方法的にルミ様の足を舐められるのでは!?
足舐め処女はどこかの変態に奪われてしまったけれど、今回ばかりは逃さないわ!!
「是非参加してください」
「いいの!?」
「ええ、勿論です」
「やった〜!明日楽しみだな〜!」
その日私達はお互い違う意味で浮かれながら食事を摂ったのだった。