ルミエールside
《ビーストリアン》を飛び立った私達はのんびり空の旅を楽しんでいた。
「そういえば次はどこにいくんですか?」
「一番近い国、《アグル農国》!」
「農業の国、ですか?」
「そう!料理美味しいし!みんなにお土産を買って帰ろうと思って!」
「旅行じゃないんですよ?」
「わかってるわかってる!」
「ホントですか〜?」
「私を信じられないの〜?」
「はい」
「なんで!?」
「『大丈夫』と言って一人で無茶をするので」
「うっ……!」
思い当たりしかない。
ドラゴンの件は仕方ないとして、リヴェルベロ家潜入に《パンドラ》の使用、オークション潜入。
意外と無茶なことしてるな……
「どうやら思い当たりがあるようですね?」
「はい……ありすぎました……」
「本当は寄り道はダメと言いたいところですが……」
「??」
「魔石の魔力も尽きてきましたし、休憩しましょうか!」
「ホント!?」
「ええ」
《ビーストリアン》を出てから一ヶ月ほど旅し続けている。
食料は出発前に大量に貰い、それを食べて過ごし、宿泊は事件発生前に事前に開発していた《ワンタッチテント》でしていた。
リファはこういうのに抵抗があるかと思っていたがそんなことはなく、すんなり受け入れていた。
ちょっとビックリした。
リファ曰く、『こういうのはワクワクします』だそうだ。
「やった〜!!じゃあ早く行こ!」
私はゆっくり飛んでいるリファの手を掴むと速度を上げた。
「速いですううううううう!!」
若干顔が崩壊していた気もするが気のせいだろう。
私が速度を上げたことにより、日没には間に合った。
そして王都の門の前に降り立った。
「通るには一人当たり銀貨一枚か、冒険者ギルド、もしくは商業ギルドのギルドカードの提示を頼む」
「これでいいですか?」
私とリファはカードを提示する。
それを見て、守衛の人はギョッとした表情を浮かべた。
「ちょ、ちょっと待っていてください!」
何故か急に敬語になり、どこかに去って行った。
後ろに人がいるか確認したがいないのでホッと安心した。
後ろに人がいたら私たちのせいで待たされちゃうもんね!
そして待つこと30分。
「遅いですね……」
「だね〜……」
何やってるんだろう……?
そんなことを思っていると。
「も、申し訳ありません!お待たせしてしまって!」
「で?何だったんですか?」
「お腹空いた〜……」
「ちょっと冒険者ギルドに確認を……」
「なるほど……」
冒険者ギルドに保管されている冒険者登録者一覧は全て繋がっている。
そのため、どこかの場所で登録された人は世界中の一覧に名前は表示される。
そのため、怪しいカードを提示された場合にはすぐさま事実確認が出来るということだ。
「通ってもらって構いません!」
「ありがと〜!」
そう言って私達は中に入った。
ふとリファの方を見ると、先ほどの守衛を訝しむような表情をしていた。
「どうかしたの?」
「いえ、少し気になりまして」
「どういうこと?」
「冒険者ギルドは門から5分ほどの場所にあります。それに一覧を確認するのもそれほどの時間は必要ないはずです。とすれば別の何かをやっていた可能性があります」
「別のこと?」
「例えば、私達の事、特にルミ様のことを誰かに報告しに行ったのではないでしょうか?」
「誰に?」
「おそらく……」
リファの言葉に冷や汗が伝う。
─────────────────────
「アグリ農国の国王だと思います」
「やっぱりかぁ〜!!面倒なことにならなければいいんだけど……」
「それは無理だと思いますよ?」
「何で?」
「アグリ農国はラルジュ王国は昔から仲のいい国ですよ?」
「そうだった〜!ここの国王様は親戚のおじさんみたいな人だった……!!」
「親戚のおじさん……?」
リファは若干首を傾げていたが、気にしないことにした。
やはりこの世界にも国家間の仲の良さというのはある。
その具体例としてラルジュ王国を取り上げると、最も仲の良い国はこのアグリ農国だ。
だが、仲の良い国もあればその逆も存在する。
ラルジュ王国と犬猿の仲な国もある。
それは《メリコ魔皇国》だ。
メリコ魔皇国と仲が悪いのには理由がある。
ラルジュ王国は民主主義だ。
一応国王という存在はいるが、仕事は政策の最終決定の承認が主だったものだ。
それに対してメリコ魔皇国は帝国主義だ。
全ては国王が決め、国王に従わないものは皆殺し。
そんな対極に位置している二国は仲が悪い。
それを加速させているもう一つの要因は、二国が隣り合っていることだ。
離れていればここまで仲が悪くなることは避けられたかもしれない。
でも、隣り合ってしまったが故に、二国間対立は深まっていく一方だ。
お父様は別にメリコ魔皇国を嫌っているわけでもなく、むしろ歩み寄ろうとしているが、それを魔皇国側が拒否している。
というより、向こうが私たちを毛嫌いしている。
そのせいで王国民は魔皇国民に対して良い感情を持っていない。
逆も然りで、魔皇国民は王国民を目の敵にしている。
もうどうしようもない。
それに対して、アグリ農国はとても友好な関係を築けている。
貿易も盛んで、農国側からは美味しい食料を、こちら側からは私の発明品などを輸出している。
私の発明品とは言っても、トラクターなんて開発してしまえば急に近代的になり、ちょっと嫌だ。
だから使いやすい手動の脱穀機なんかを輸出している。
何で脱穀機がいるのかって?
察しのいい方はわかるだろう。
そう!この国には米が存在するのだ!
それにそろそろ田植えの季節だ。
手伝っちゃおうかな〜?
個人的にあの裸足で田んぼの中に入るニュルっと感触好きなんだよね〜!
あと、足が泥だらけになるの、なんか背徳感があるし!
おっと!話が逸れちゃった!
他にも互いの国から留学生というような名目で互いの技術を学ばせる事業なんかもやっている。
それができるほどには関係がいい。
テイル姉様は今の外交担当で、メリコ魔皇国との関係改善を図ってはいるがそう簡単にはいっていないようだ。
「さて!今日はどこでご飯食べる?」
「そうですね……せっかくですし、美味しいお米が食べられるところに行きましょう!」
「おっ!いいね〜!」
そんな会話をしながらまずは宿屋へと入る。
「宿泊したいんですけど!」
「何名様でしょうか?」
「二名です」
「ではこちらに代表者の名前をお願いします。」
「わかりました」
リファが名前を書く。
これは事前に決めていた。
私が名前を書いてしまうと軽い騒ぎになるから、リファに書いてもらおうと。
「リファリア=リヴェルベロ様ですね?」
「はい」
「こちら、部屋の鍵になります」
受付から部屋の鍵を貰う。
「リファ、なんか置いておきたい荷物とかある?」
「いえ、特にはありません。」
「わかった!じゃあご飯行こ!」
「はい!」
私は鍵をポーチに仕舞い、リファの手を引いて街へと繰り出した。
─────────────────────
「すご……!!」
食事処を探すために街に繰り出した私達の目の前に現れたのは沢山の人だかりと美味しいそうな匂いを漂わせるお店の数々。
「さすがアグリ農国ですね……!!」
「だね……!!」
「どこにするか迷っちゃう〜!!」
「ですね〜……!!」
「気になってたんだけど、リファって感情が増えてきたよね?」
「そうですか?」
「うん!前までは笑わないし、ムスッとしてたし!」
「そんな酷かったですか!?」
「ドラゴンの時も泣いてくれたけど、オークションの時は怒ってたし、今は驚いているし!なんか嬉しいな!」
「それだけルミ様に心を許しているってことですよ?だって、ルミ様のこと好きですから」
不意の反撃に思わず赤面する。
「顔真っ赤にしちゃって、可愛いですね?」
「う、うっさい!」
そう言って先を行こうとする私の手をリファは握った。
────恋人繋ぎで。
「───っ!?」
「人が多いですから、逸れないようにしましょうか?」
「……はい」
私は俯いて、そう言った。
何なの!?何でこんな積極的なの!?
手を繋いで二人で街を歩いてるとかまるで……
「デートみたいですね!」
「!?!?!?!?」
え!?は?この子、この行動をデートって認識してるの!?
「じゃあ行きますしょうか?お食事デートに」
そう言って今度はリファが私の手を引いていく。
「それにしても、いつも頼り甲斐があるのにこういう時は乙女なんですね?」
「……っ!!」
図星だ。
色々やる割に、自分の事となるとちょっと奥手になる。
とは言っても大体の人がそうだと思う。
側から見ている分には『さっさとしろよ〜』って思うけど、実際自分のことになったら臆病になって手が出せなくなる。
「そういうところも好きですよ?」
「なっ……!!」
この子は簡単に言う。
これじゃいちいち赤面してる私が馬鹿みたいじゃないか!
でも、自分から仕掛ける勇気はない。
はぁ……
「ここにしましょうか?」
そう言ってリファが立ち止まったのは『おにぎり屋』。
日本にもこう言ったおにぎり専門店みたいなのはあったな〜!
「いいね!ここにしよう!」
ここにきて、恥ずかしさ<食欲になり、意気揚々とそう言った。
「そんなに焦らなくてもお店は逃げませんよ?」
「わかってるよ!」
リファは私を揶揄うように言ってきた。
そんなやりとりをしつつも店に入った。
するとそこには。
「やはり美味いな!!」
「えっ」
「ん?」
まさかのアグリ農国国王、アグリュート王がいた。
「おぉ!やはりここに来たか!ルミエール殿!」
なんで!?なんでいるの!?
「人違いですすいません」
そう言って私はお店から出ようとするが、ガシッと肩を掴まれた。
全然動けん!!
力強すぎでしょ!?
「一緒に食事をしようじゃないか!弟子のリファリア殿も一緒に!」
「いいですよ?」
「リファ!?」
「おお!そうかそうか!」
「それと一つ訂正してください」
「なんだ?」
「私は弟子兼恋人です」
「何言ってるの!?」
「そうかそうか!それは失礼した!」
「まだ違います!!」
「まだ?」
「あっ」
「じゃあもう少し待ちましょう」
「なっ……!!」
そう言ってリファはアグリュート王から一席開けて座る。
「なんで一席開けたの?」
「ここにはルミ様が座るからですよ?」
「え?」
マジで?
「早く座ってください。お腹空きました」
「あっ、はい」
私は開けられていた席に座る。
「大将!美味いのを頼むぞ!」
「任せてください!」
そう言って大将は握り始める。
なんだこの状況。
国王と一緒に街のおにぎり屋で食事してるとか訳わからん。
「そういえば、なんで私達がここに来ると思っていたんです?」
「ああ!そんなこと簡単だ!ルミエール殿達が来たという報告を受けてな!なんとなくだが、ここに来るんじゃないかと思っていたんだ!」
なんだこの人!
勘が鋭すぎやしないか!?
「我がアグリ農国はルミエール殿とリファリア殿を歓迎する!!」
「だから王女として来たんじゃないですって!!」
「それくらい知っている!だから国を挙げて歓迎していないんだ!」
そうだわ……この人、私達が王女として来国すれば国を挙げて歓迎するわ……
だから親戚のおじさんみたいなイメージがあるんだよね〜……
でも優しいからいいけど。
「宿はどうするんだ?」
「民宿に泊まろうかと」
「そうか!何か困ったら城に来るといい!」
「ありがとうございます」
この人は結構心配りが出来る人だ。
王女としてくれば王女として、冒険者としてくれば冒険者として扱ってくれる。
それが何よりの救いだった。
公私の区別がよく付いている人だ。
現在も、一般に馴染むような服装をしているし。
だから『型破りな国王』と呼ばれている。
この国自体、国王は存在だけで、滅多なことがない限り政治に直接絡んでこない。
だからこそ、ここまで自由に動けているのだろう。
「へい、お待ち!」
そんな事を考えていると、目の前に大将の握ったおにぎりが置かれる。
「では温かい内に頂こうではないか!」
「そうですね!」
「お腹空きました」
私たちは手を合わせて、一斉に。
「「「いただきます!」」」